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大手電機メーカー8社後退の原因(3/end)

2017年06月25日 18時11分56秒 | 写真

■電機メーカーより深刻な“病巣”とは?

 だが、日本の電機産業にはこれより深刻な病巣がある。東京電力が家長として君臨し、崩壊寸前の東芝を正妻とする「電力ファミリー」だ。戦後の電力インフラは通産省(現在の経済産業省)と電力会社が全体図を描き、東芝、日立、三菱重工業など、重電メーカーが設備を作った。巨額投資を支えたのは「電気料金」という名の「税金」。こちらもNTTの事例と同様、電気料金は設備投資という名目で電力ファミリーに流れた。

 日本が着々と通信・電力インフラを整えていった高度経済成長期、そして米国とソビエト連邦が一触即発だった東西冷戦の時代において、電電ファミリーと電力ファミリーは日本の経済の柱として機能していた。米国は、日本の共産化を防ぐ意味もあり、日本企業に半導体事業などの先端技術をタダ同然で教えた。日本がテレビや自動車などを作れるようになると、それを大量に輸入した。反共防波堤である日本に早く豊かになってほしかったのだ。米国では厳しい競争政策をとっていたが、電電ファミリーや電力ファミリーによる談合には目をつむった。高い電話料金や電気料金で潤ったファミリー企業が、ダンピングまがいの値段で米国に半導体を輸出しても決して文句を言わなかった。

 しかし1989年にベルリンの壁が崩れ、冷戦が終わると、状況は一変する。米国は日本を庇護の対象ではなく、対等な競争相手と見なし、日本の総合電機の力の源だった談合構造を切り崩しにかかった。それが「日本貿易摩擦」であり、「日米構造協議」だ。この日米構造協議の過程で始まったのが通信自由化と電力自由化なのだ。これにより日本の電機産業は弱体化した。

 通信では新規参入した新電電グループとの価格競争が本格化したため、NTTの設備投資は2005年には2兆円にまで減った。電力ファミリーの設備投資もピークの5兆円から2兆円を割り込むまで落ち込む。こうなると電機業界はたまったものではない。NTTや東電に代わる新しい収益源を探して右往左往していた各社に追い打ちをかけるように、2008年にリーマン・ショックが起こる。液晶テレビやデジタルカメラが売れなくなってしまったのだ。そして2011年3月、東日本大震災が起こる。言わずもがな、東電は巨額の損害賠償金を背負い、国有化によってなんとか生きながらえている状態。家長を失った電力ファミリーは、電電ファミリーと同様、崩壊を始める。そして東芝は粉飾に手を染め始めた。

 電電ファミリーと電力ファミリーという、戦後の日本の電機産業を支えてきた2つのピラミッドが崩壊したことが、電機全滅の最大の原因だった。ここまで説明してきた濃密な内容、なんと本書では「序章」に過ぎない。本書ではここから、パナソニック、ソニー、東芝、NEC、日立、富士通、三菱電機、シャープの8社について、失敗の本質と未来の展望を1社ごとにじっくり分析・点検をしている。ここまでの説明はあくまで電機全滅の「全体像」。ここからさらにメーカーごとの失敗に迫っているのだ。本記事では触れることができなかった、政府の黒い部分も書かれている。ぜひ手にとってほしい。

文=いのうえゆきひろ

この記事で紹介した書籍

 

東芝解体 電機メーカーが消える日 (講談社現代新書)

作家:
大西 康之
出版社:
講談社
発売日:
2017/05/17
(end)

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