Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

11/14(土)日生オペラ「ドン・ジョヴァンニ」先鋭的な演出と舞台装置/若手歌手陣による活気のある歌唱

2015年11月14日 23時00分00秒 | 劇場でオペラ鑑賞
NISSAY OPERA 2015『ドン・ジョヴァンニ』
全2幕/原語(イタリア語)公演/日本語字幕付き


2015年11月14日(土)14:00~ 日生劇場 S席 1階 A列 8番 9,000円
指 揮:広上淳一
管弦楽:読売日本交響楽団
合 唱:C.ヴィレッジシンガーズ
演 出:菅尾 友
美 術:杉山 至
照 明:吉本有輝子
衣 裳:堂本教子
映 像:須藤崇規
ドラマトゥルク/字幕:長島 確
演出助手:喜田健司
舞台監督:幸泉浩司
合唱指揮:田中信昭
チーフ音楽スタッフ:田島亘祥
【出演】
ドン・ジョヴァンニ:加耒 徹(バリトン)
騎士長:斉木健詞(バス)
ドンナ・アンナ:江早 希(ソプラノ)
ドン・オッターヴィオ:金山京介(テノール)
ドンナ・エルヴィーラ:林 美智子(メゾ・ソプラノ)
レポレッロ:久保田真澄(バス)
マゼット:桝 貴志(バリトン)
ツェルリーナ:見角悠代(ソプラノ)

 日生劇場が主催する「NISSAY OPERA」の公演でモーツァルトの『ドン・ジョヴァンニ』を鑑賞。毎回高品質のオペラを低価格で開催してくれるNISSAY OPERAはチェックを欠かせない存在だ。
 日生劇場は、本格的な舞台演出を伴ったオペラ公演を行える都内でも数少ない劇場の1つで、1,234席と小振りではあるが、大理石や赤絨毯などがオペラ劇場らしい雰囲気を持っているので、私のお気に入りの劇場でもある。中劇場規模のため歌手の皆さんの負担も少ないので、むしろ歌唱のクオリティを平均的に高めることができるようだ。一方で、ミュージカルや演劇などにも使用するという多目的性もあるため、専用のオーケストラピットを持っていないので、オペラ公演の時などはステージ寄りの座席3列と床を取り外してピットを作ることになるがパーテーションが薄くて、ちょっと安っぽい。

 今回の『ドン・ジョヴァンニ』は、11月14日・15日の2回公演で、ダブル・キャストが組まれている。二期会会員を中心に他団体やフリーの人も含めて幅広く人材を登用するのがNISSAY OPERAの良いところだ。しかし、この劇場の規模で、ダブル・キャストで2回公演というのは、舞台装置や衣装などもかなり本格派なのでいかにももったいない感じがする。公演回数をもっと増やせないものだろうか。
 指揮は広上淳一さんで管弦楽は読売日本交響楽団ということで、演奏の方も期待できる。演出は菅尾 友さんである。

 まず全体を俯瞰してみると、音楽面はオーソドックスでレベルの高い方の平均的なクオリティであるのに対して、演出面が先鋭的で、個人的にも賛否の分かれるところがあった。ただし、クオリティは高く、S席9,000円という価格で、手抜きの一切ない本格的なオペラ公演を鑑賞できるという視点から見れば、まったく文句の付けようもないレベルの公演であることは間違いない。

 演奏についてだが、広上さんの指揮は、いつもコンサートで聴くときはリズム感がハッキリしているのにしなやかさがあって、メリハリが効いているのだが、今日の『ドン・ジョヴァンニ』は全体的にテンポが遅めに設定されていて、いささか鈍重に感じられた。これは『ドン・ジョヴァンニ』というオペラの解釈として、悲劇的に捉えたからということだろうか。逆に喜劇的な解釈をすると、もっと軽快なモーツァルトの音楽っぽくなるのだが。個人的な好みではいささかマイナス評価になってしまうが、これは好みの問題なので別にケチを付けているわけではない。

 歌手陣を見ると、ドン・ジョヴァンニ役の加耒 徹さんは若くで溌剌としたドン・ジョヴァンニ像を創り上げていた。声域はバリトンでも軽快な部類に入り、声質も若くて張りがある。演技面でも身のこなしが軽やかで、いかにも青年ドン・ジョヴァンニという感じ。女性にもてそうな雰囲気は十分あるが、2000人の女性と関係をもったというドン・ジョヴァンニという中年のイロ男の嫌らしさはまだ出ていない。
 レポレッロ役の久保田真澄さんは見るからにお人好しといった雰囲気であった。もう少し小ずるい感じが欲しかったところだ。「カタログの歌」でもそれほと強い印象を残してはいない。
 騎士長役の斉木健詞さんは、歌唱の方が今ひとつ良く分からなかったが、演出面で幽霊のように歩き回っていたりする黙役の部分が多く、出番が多かった割りには歌う部分が少ないので・・・・。
 ドンナ・アンナ役の江早 希さんは、張りと艶のある声質で、高音域の伸びも良く、2つのアリアを力強く歌った。
 ドン・オッターヴィオ役の金山京介さんは、この役にピッタリの声質だと思う。甘く、ちょっと頼りなげな雰囲気がよく出ていて、澄んだ声質で声の通りも良かった。
 ドンナ・エルヴィーラ役の林 美智子さんは、つい1ヶ月前の2015年10月8日に紀尾井ホールでバロック・オペラの『オリンピーアデ』(ベルゴレージ作曲)に出演してのを聴いたばかりだが、一時減っていたオペラへの出演に戻って来てくれたのが嬉しい。ドンナ・エルヴィーラはもともとソプラノの役だが、メゾ・ソプラノの林さんでも声域には問題がなく、メゾ特有の温かみのある声質で、力強い歌唱を久し振りに聴かせてくれた。舞台用の派手なメイクが狂言回しのような役柄を表していて、離れたところから見るとパンダのようで・・・・ちょっと可哀想。
 ツェルリーナ役の見角悠代さんは、若くて元気いっぱいのイメージ。2つのアリアをキレイな声で歌い上げたが、役柄としてはもう少し抜け目ない感じが欲しい。
 マゼット役の桝 貴志さんは木訥な雰囲気を良く出していた。しかしこの役は意外に難しいようだ。

 演出については、良い面と悪い面を感じた。『ドン・ジョヴァンニ』は2幕もので、各幕は90分もの長さがある。逆に場面の数は多く、次々と物語が展開していき登場人物が出入りするので、舞台転換が難しいオペラである。
 今回の演出では、緩やかな傾きの階段が3本くらい舞台の左右から中空に伸びて来ていて、これらの中ほどがステージ中央の軸を中心に回転するのである。登場人物は左右の袖部分から伸びている階段から出入りし、回転する中央の階段の上を行ったり来たりくぐったりして動き回り、演技しながら歌うという趣向だ。つまり階段が回転することで場面転換を表すのである。舞台装置は非常に良くできているし、演出も人物の動きが緻密に計算されていて、淀みなく展開していたのは見事であった。実際のステージ上でしか動きが稽古できないので、大変だっただろうと思う。ただし、その割りには動き回るのがけっこう煩わしく感じられ、むしろじっとして動かずに歌えば良いのに、と思うこともしばしばあった。
 登場人物たちは、気がついたら最初からずーっと中空の階段の上で演技し歌っていたので、これでは最前列の席を取った意味がなかったと思った。何しろずーっと見上げていなければならないので、腰が妙に痛くなってしまった。ところが最後に意表を突く演出が待っていて、ドン・ジョヴァンニが地獄へ堕ちるシーン(これも階段の上)に見入っていて、それが終わると5名の登場人物が客席後方から入ってきて、ちょうど私の席の目の前を歌いながら通ってステージに登っていったのである。そして、最後のシーンの5重唱だけが、階段ではないステージの上での歌唱なのであった。
 『ドン・ジョヴァンニ』は登場人物が役割を均等に割り振られているので、それぞれの持ち歌がハッキリしている。アリアや二重唱がどれも有名で人気があるのもそのためだ。観る側としては、それらの名曲の数々はじっくりと聴きたいので、歌唱部分にはあまり面倒な演出を付けて欲しくないというのが個人的な見解である。要するに動き回ったり後ろを向いたりしたら歌唱が均等に聞こえなくなるからだ。しかも歌手の負担も大きくなるので、その分だけ歌唱に集中できなくなる。番号オペラには、歌手たちが歌唱を競い合うという側面もあり、聴き比べるという楽しみもあるのだが、最近のオペラの演出はどうしても「演劇的」になりがち。歌手たちが歩き回るのは、それがどうしても必要な要素であるのなら話は別だが、基本的にはあまり好ましくないと考えている。

 とはいうものの、休日の午後、休憩を含む3時間半の本格的なオペラを楽しむことができた。好きな作品にはいろいろと思い入れもあるので、何かと気に入らないところばかりが目立ってしまうのだが、それは別としてもオペラは楽しい。演出にしたところで、ありきたりのものよりは批判が噴出するような先鋭的なものを観るのもまた楽しいのである。ケチを付けたり批判したりというものまた、オペラの楽しみ方のひとつなのであって、こんなオペラは二度と観たくないなどと思っているわけでは決してないのである。

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