Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

2010年に聴いた名曲(3)~オペラ編/ヴェルディ:歌劇『椿姫 La Traviata』

2011年01月11日 01時20分06秒 | 劇場でオペラ鑑賞
 数あるオペラ作品の中でも、最も人気の高いもののひとつにヴェルディの『椿姫~La Traviata~』がある。モーツァルトの『フィガロの結婚』や、プッチーニの『ラ・ボエーム』『蝶々夫人』、ビゼーの『カルメン』などとともに、上演機会の非常に多い、超人気作だ。オペラの上演も年度やシーズンによって演目が偏ったり、同じ演目が並んだりしてしまうことがあり、『椿姫』は、2010年には,日本のメジャー団体(新国立劇場、東京二期会、藤原歌劇団など)では公演がなかった。一方、海外の歌劇場の来日引っ越し公演では、重要なプログラムとして話題の公演が多かった。いろいろトラブルやハプニングもあったりして、何かと騒がしかった2010年の『椿姫』を振り返ってみよう。

【1】「ベルガモ・ドニゼッティ劇場」来日公演 ~ヴェルディ『椿姫』
 2010年1月8日(金)18:30~ 東京文化会館・大ホール

 指 揮:ブルーノ・チンクエグラーニ
 管弦楽:レベルガモ・ドニゼッティ劇場管弦楽団
 合 唱:ベルガモ・ドニゼッティ劇場合唱団
 演 出:パオロ・パニッツァ
 出 演: ヴィオレッタ:マリエッラ・デヴィーア
     アルフレード:アントニオ・ガンディア
     父ジェルモン:ジュゼッペ・アルトマーレ
 お正月早々に観に行ったベルガモ・ドニゼッティ劇場の来日公演。ヴィオレッタ役に大御所のマリエッラ・デヴィーアさんをゲストに呼び、その他の歌手陣は劇場付きの人たち。この日は指揮者とオーケストラがバラバラで、歌手とも微妙に合わずに、しどろもどろの上演だった。主役のデヴィーアさんはさすがに…、と言いたいところだが、寄る年波には勝てず(この時62歳)、ソロのアリアの時はよく聞こえるのだが、重唱や合唱が加わると、全く聞こえてこない。また、視覚的にも無理な印象が強かった。イタリアの地方劇場ではあっても、本来の技術水準はかなり高いはずなのだが、ムラッ気があるのもイタリア的。この日はかなりハズレの方だった。事実、数日後の1/14に観た同劇場の『愛の妙薬』(アディーナにデジレ・ランカトーレを呼んだ)では、イタリア・オペラの良い面ばかりが前面に出て、とても素晴らしい公演だったのである。この時のドニゼッティ劇場の来日公演は、チケットの売れ行きが思わしくなく、公演直前には主催者によりかなりダンピング販売がなされた。1演目にスター歌手1人だけで、公演自体にもムリが多かったのかも知れない。

【2】「トリノ王立歌劇場」初来日公演・初日 ~ヴェルディ『椿姫』
 2010年7月23日(金)18:30~ 東京文化会館・大ホール

 指 揮: ジャナンドレア・ノセダ
 管弦楽: トリノ王立歌劇場管弦楽団
 合 唱: トリノ王立歌劇場合唱団
 演 出: ローラン・ペリ
 出 演: ヴィオレッタ: ナタリー・デセイ(ソプラノ)
     アルフレード: マシュー・ポレンザーニ(テノール)
     父ジェルモン: ローラン・ナウリ(バリトン)
 意外にも初来日だった名門「トリノ王立歌劇場」。来日公演では『椿姫』と『ラ・ボエーム』という超人気演目を揃え、主役には実力派のスター歌手を集め、音楽監督のジャナンドレア・ノセダさんが、瑞々しく情熱的な演奏で、本格的なイタリア・オペラらしいオペラを披露してくれた。最後まで緊張感が持続し、ダレたとことがまったくない、素晴らしい音楽を聴かせてくれた。今回の公演では、その前年に初演した新プロダクションを持って来た。演出はあちこちの歌劇場から引っ張りだこののローラン・ペリさん。基本的にはストーリー性よりもヴィオレッタの心象風景を舞台化するという傾向の演出で、好き嫌いはあるだろうが、現代のヨーロッパの一級品の舞台であることは間違いない。主役の3人はイタリア人ではないため、歌唱自体はイタリア的では決してなかったが、こちらも国際級なので、巧さという点では文句の付けようがない。この『椿姫』は、指揮者、オーケストラ、歌手たち、合唱、舞台演出、衣装など、どれをとっても一級品。豪華絢爛なオペラではないが、小粒でピリリと引き締まった、小粋な『椿姫』だった。


トリノ王立歌劇場を率いるジャナンドレア・ノセダさん

【3】「英国ロイヤル・オペラ」来日公演・初日 ~ヴェルディ『椿姫』
 2010年9月12日(日)15:00~ 神奈川県民ホール

 指 揮: アントニオ・パッパーノ
 管弦楽: ロイヤル・オペラハウス管弦楽団
 合 唱: ロイヤル・オペラハウス合唱団
 演 出: リチャード・エア
 出 演: ヴィオレッタ: エルモネラ・ヤオ/アイリーン・ペレス
     アルフレード: ジェームズ・ヴァレンティ
     父ジェルモン: サイモン・キーンリーサイド
 これがトラブルとハプニング続出で、大騒ぎになった公演。16年前にサー・ゲオルグ・ショルティの指揮で、アンジェラ・ゲオルギューを抜擢して大成功を収めたリチャード・エア演出のプロダクションを日本に持ってくるというのだ。しかもヴィオレッタ役は、そのアンジェラ・ゲオルギューさん。それが初日の2週間前になって、ゲオルギューさんがドタキャン。代役はエルモネラ・ヤオさんという日本では無名の人。何しろS席54,000円の公演で主役が無名の人というのはありえない…。しかも、さらにトラブルが発生。今度はヤオさんが第1幕を終わったところで声が出なくなって降板、代役の代役はアイリーン・ペレスさんといい、カヴァー・スタッフのさらに無名の人だ。会場が騒然となる。


代役の代役を見事にこなしたアイリーン・ペレスさん

 ところが、指揮のパッパーノさんとオーケストラの熱演、そしてペレスさんの熱唱があって、第2幕以降は、(主役が無名の人という点をのぞけば)かなりクオリティの高い公演になった。さすがは、ロイヤル・オペラの面目躍如というところだった。この日が初日だったため、このニュースがオペラ界を駆け巡ったようだ。今にして思えば、ゲオルギューさんのキャンセル後、急遽呼び寄せられたヤオさんの体調が思わしくなかったため(アレルギーの発作だとか)、最悪の事態を想定してペレスさんも準備していたのだろうと思う。この人が最終的にオペラを救った結果になった。ところが、トラブルはこれでは終わらなかった…。
〈ことの詳細は当日のプログ記事をご参照ください〉

【4】「英国ロイヤル・オペラ」来日公演・千秋楽 ~ヴェルディ『椿姫』
 2010年9月22日(水)17:00~ NHKホール

 指 揮: アントニオ・パッパーノ
 管弦楽: ロイヤル・オペラハウス管弦楽団
 合 唱: ロイヤル・オペラハウス合唱団
 演 出: リチャード・エア
 出 演: ヴィオレッタ: アンナ・ネトレプコ
     アルフレード: ジェームズ・ヴァレンティ
     父ジェルモン: サイモン・キーンリーサイド
 ロイヤル・オペラの『椿姫』は、初日の神奈川県民ホールでのトラブルの後、舞台をNHKホールに移して、2日目はエルモネラ・ヤオさんで無事終了した。しかし、3日目に悪夢の再現が…。ヤオさんが再び声が出なくなって、ペレスさんの登場となった(この2回の公演は観ていないので、聞いた話ですが)。そしてロイヤル・オペラ側が二度に渡る失敗(だろうと思う)の穴を埋め合わせる形で用意したプランが、別演目の『マノン』のタイトルロールとしてツアーに同行していたアンナ・ネトレプコさんを急遽交渉して出演させるというものだった。主催者であるNBSの前日のホームページでキャストが発表されると、またまたオペラ界は大騒ぎに。当日、会場の張り紙に出演者の名にアンナ・ネトレプコと書かれているのを見るまでは半信半疑だったものだ。


圧倒的な存在感を発揮したアンナ・ネトレプコさん

 肝心の公演の方はというと、千秋楽ということもあり、パッパーノさんの気合いの入り方が違っていた。オーケストラも合唱も、緊張感が漲り、素晴らしい演奏に終始した。歌手陣は、この中では、アルフレード役のジェームズ・ヴァレンティさんが明らかに力不足で残念だったが、父ジェルモン役のサイモン・キーンリーサイドも世界の一級品のバリトンを聴かせ、もちろんネトレプコさんについては、もう何もいうことはない。おそらくは、現在、世界最高のディーヴァであると思われる彼女のヴィオレッタを、『椿姫』の全曲を聴くことができた、この日のことを一生忘れないだろう。
〈ことの詳細は当日のプログ記事をご参照ください〉

 結局2010年には、『椿姫』は日本の団体の公演がなく、上記の4公演を観に行っただけである。ドニゼッティ劇場は、はっきりいえば失敗作。しかし他の3つの公演はそれぞれに素晴らしい公演だったと思う。トリノ王立歌劇場で一番印象に残っているのは、ジャナンドレア・ノセダさんの指揮だ。キレ味鋭く、しかもドラマティックにオーケストラをドライブしながら、歌手の表情を見ながら気持ちよさそうに歌わせている。日本には、まだまだこういうタイプの指揮者がいないなァと悲しい感想を抱いたものだ。ロイヤル・オペラでは何と言っても、千秋楽のアンナ・ネトレプコさん。ゲオルギューさんのキャンセル騒ぎがあったからこそ実現した、夢の一夜だった。もっとも、彼女自身もロイヤル・オペラでドタキャンをやったことがあるらしいので、別にゲオルギューさんが悪くて、ネトレプコさんがエライ訳ではない。オペラ界にはよくある話。この公演では、すったもんだの大騒ぎの中に自分自信が巻き込まれた印象で(この当時、当ブログのアクセス数が1日2000を越えたこともあった)、振り返って見れはとても面白い貴重な体験だったと思う。

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