Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

2/23(水)新国立劇場『椿姫』/パトリツィア・チョーフィとルチオ・ガッロはベテランの味わい

2011年02月24日 23時58分34秒 | 劇場でオペラ鑑賞
新国立劇場 2011/2012シーズンオペラ公演『椿姫』ヴェルディ作曲

2011年2月23日(水)19:00~ 新国立劇場・オペラパレス B席 3階 3列 22番 9,450円(会員割引)
指 揮: 広上淳一
管弦楽: 東京交響楽団
合 唱: 新国立劇場合唱団
合唱指揮: 三澤洋史
演 出: ルーカ・ロンコーニ
装 置: マルゲリータ・パッリ
衣 装: カルロ・マリア・ディアッピ
照 明: セルジオ・ロッシ
【出演】
ヴィオレッタ: パトリツィア・チョーフィ
アルフレード: ウーキュン・キム
父ジェルモン: ルチオ・ガッロ
フローラ: 小野和歌子
ガストン子爵: 樋口達哉
ドゥフォール男爵: 小林由樹
医師グランヴィル: 鹿野由之
アンニーナ: 渡辺敦子
ジュゼッペ: 竹内公一
使 者: 黒田 論
フローラの召使い: 佐藤勝司

 かつてオペラを見始めた頃は、オペラの公演日の1ヶ月も前から楽しみで楽しみで待ちきれなかったものだ。とくにシーズンである冬場には、風邪をひかないように注意しながら、待ちわびたものである。まして演目が『椿姫』だったりしたら、夜も眠れなくなってしまったりもした。ところが、頻繁にオペラやコンサートに通うようになって、しかも時には世界の超一流の歌劇場の引っ越し公演にもたびたび足を運ぶようになると、よほどの名演にぶつからない限り、簡単には感動しなくなってしまう。憧れのオペラにも、毎月何度か行くようになった今では、『椿姫』も特別な演目ですらなくなってしまった。
 今日の新国立劇場は、その『椿姫』。年間通しのセット券を買っているので、スケジュール表には書き込んであったものの、新制作でもないし、内容についてはあまり意識していなかったのが現状だった。数日前になって、誰が出るのだったかと思ってチラシなどを見ると、ヴィオレッタがパトリツィア・チョーフィさんではないか。しかも父ジェルモンにはルチオ・ガッロさん。意外に豪華メンバーではないか。これは期待できそうだ…。ちなみに前回は2008年、同プロダクションの公演で、ヴィオレッタはエレーナ・モシュクさん、アルフレードはロベルト・ザッカさんで(タイトル画像参照)、なかなか素晴らしかったと記憶している。

 会場が暗転して指揮者が登場したが、3階の3列目だとピットはほとんど見えない。さて指揮者は誰だったか。オーケストラはどこだったかな、などと緊張感もなく、前奏曲の悲しい旋律に聴き入る。テンポは現在の『椿姫』にしては全体に終始やや遅め、ちょっと古典的なイメージだった。
 ヴィオレッタ役のパトリツィア・チョーフィさんは、ベテランの味わいで貫禄の存在感を見せていた。第1幕の始めではまだ調子が出なかったのか、「乾杯の歌」あたりでは合唱に声が埋もれてしまっていたし、中盤でもあまり声が出ていない印象だったが、これは「そはかの人か~花から花へ」の大アリアに備えていたのかもしれない。そこではさすがの歌声を披露してくれた。やや硬質で潤いが少ない感じの声のため、豊かなイメージではないが、声量は十分で、オペラパレスに見事なアリアが響き渡った。
 チョーフィさんは、聴いているだけならまだ良いのだが、なにせベテラン過ぎて…。どうみても中高年。照明が真上から強く当たっているせいか、目が落ち窪んで見え、場合によっては老女にさえ見えてしまう。これはさすがに興醒め。いくらオペラが非日常の世界の夢物語であるとしても、「劇」でもあるのだから物語として成り立つだけの容姿も求められよう。老いたヴィオレッタに憧れるアルフレードの心情はいかに…。思考が妙な方向へ進んでいってしまう。


ヴォレッタ役のパトリツィア・チョーフィさん。この写真だととても美しく見えるのだが…。

 アルフレード役のウーキュン・キムさんは韓国出身のテノールでドイツを中心にヨーロッパの歌劇場で活躍しているという。今回が初来日とのことで、もちろん初めて聴く。なぜこの人を呼んだのかな…と思っていたのだが、聴いてみて納得。ノーブルで甘い声質は、アルフレードによく合っていた。第2幕冒頭の「燃える心を」のアリアは生き生きとして伸びのある声を聴かせた。一方、第2場の全合唱のシーンでは、ほとんど聴き取れなくなってしまった。また、カタカナのようなイタリア語の発音と抑揚の少ないまったりした歌い方は、ちょっと…という感じだった。
 父ジェルモン役のルチオ・ガッロさんはさすがという存在感。かなり渋め声質でありながら、芯が強く、地を這うように響いてくる声は、敵役の多いヴェルディ・バリトンには最適だ。今日の公演でも、「天使のような清らかな娘を」は見事で、ヴィオレッタと対立して追い込んで行く迫力はなかなかの歌唱力だった。そして「プロヴァンスの海と陸」も絶品。今日、一番拍手とBravo!が多かったのも十分頷けるところだ。


迫真の演技は、さすがに二人ともベテランの貫禄を見せていた。右がルチオ・ガッロさん。

 前回と比べて、出演者の顔ぶれがかわったことにより、何かが良くなったのだろうか。同じプロダクションを使い回しているのだから、せめて出演者のグレードを上げていかないと、単なる客集めのために名作を上演しているだけになってしまう(ように思えてならない)。
 配布されたメンバー表を見ると、カヴァー・スタッフにはヴィオレッタに安藤赴美子さん、アルフレードに樋口達哉さんの名があった(樋口さんは毎度おなじみのガストン子爵役で出演している)。いつも言っていることだが、海外招聘組だけでなく、日本人スタッフのみによる公演日を設けてほしいものだ。安藤赴美子さんと樋口達哉さんの『椿姫』を是非観たいものだ(舶来崇拝という色眼鏡を外してみれば、きっとこの二人の方が見た目も歌も素晴らしいと思いますよ)。

 そして再演による演出はというと。舞台装置は、新鮮味はないもののクオリティが高い。左右、横方向にスライドしていく装置が、時間の経過や空間の移動を物語っているらしい。また衣装もお金がかかっていそうで良くできている。舞台の時代設定は、19世紀前半のパリの当時をそのまま反映させたもので、初めて『椿姫』を観る人にとっては、いかにもオペラっぽくて豪華絢爛で良いのだろうが、新国立劇場で、再演とはいえ、なぜ今このような演出が必要なのか。誰のための演出なのか、少々疑問に感じた。要するに、オーソドックスすぎてつまらないのである。そろそろ新制作を、しかも皆がアッと驚くような斬新な演出をお願いしたいものである。

 一方音楽面では、最初の休憩時間にプログラムを読んで、指揮が広上淳一さんだと知った。広上さんのオペラを聴くのは初めてかもしれない。いつもコンサートでは、サービス精神に徹した職人芸的な音楽を聴かせてくれる方なので、好きな方である。今日は、歌手を大きく歌わせようとしたり、ドラマを盛り上げようとしたり、奮闘していたのがよくわかった。しかし、部分部分では良いのだが、オペラ全体を通じての音楽に一体感が乏しいというか、まとまりがない印象が残った。イタリアオペラっぽさ、ヴェルディっぽさにようなもの、匂いとか味わいのようなものが感じられず、やっぱりオペラの指揮というものにも独特の技術の蓄積が必要なのだろうな、と改めて感じさせられた。東京交響楽団の演奏は、とくに目立ったところもなく、可もなし不可もなしというところだ(ティンパニが少々うるさかった)。

 終わってみれば、いつもの新国立…という感想だ。75点~80点くらいのオペラを見せてくれる。終演後のカーテンコールでは、チョーフィさんをはじめ、出演者の皆さんにも盛大な拍手とBravo!が飛んでいたが、カーテンコールはすぐに終わってしまうし…。新国立の会員の方たちに支えられているのだなァ、と感じさせられた。もちろん私もその会員の一人なのである。今日の公演は、本当にBravo!だったのだろうか。毎回、どこかに不満を残す新国立劇場である。

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