Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

12/14(土)東京交響楽団/第616回定期/ウルバンスキが「春の祭典」を快演!/神尾真由子は?

2013年12月15日 02時50分30秒 | クラシックコンサート
東京交響楽団 第616回定期演奏会
《クシシュトフ・ウルバンスキ首席客演指揮者就任披露》


2013年12月24日(土)18:00~ サントリーホール B席 1階 1列 20番 3,500円(会員割引)
指 揮: クシシュトフ・ウルバンスキ
ヴァイオリン: 神尾真由子
管弦楽: 東京交響楽団
【曲目】
チャイコフスキー: 幻想序曲「ロミオとジュリエット」
チャイコフスキー: ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品35
ストラヴィンスキー: バレエ音楽『春の祭典』

 東京交響楽団のサントリーホールでの定期演奏会シリーズは会員になっていないのだが、神尾真由子さんが久しぶりにチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を弾くというので、友人の持つ最前列の会員チケットを拝み倒して手に入れたという次第。ソリストの真正面の席である。しかも今月の東響は、クシシュトフ・ウルバンスキさんが首席客演指揮者への就任披露となっている。12月1日にあった東京オペラシティコンサートホールでの定期シリーズは事情があって行けなくなってしまったので、今日のお目見えコンサートのチケットを確保しておいて本当に良かった。

 ウルバンスキさんは、1982年、ポーランド生まれの31歳で、指揮者としてはいかにも若い。ところが、最近の世界の音楽界では30歳台の若手指揮者の台頭が著しく、先日来日したグスターボ・ドゥダメルさん(1981年生まれ)やダニエル・ハーディングさん(1975年生まれ)、アンドリス・ネルソンスさん(1978年生まれ)など世界中の注目を集めている指揮者が大勢いる。ウルバンスキさんもその中の一人で、31歳の若さで欧米の主力オーケストラから次々とお呼びがかかり、来年にはベルリン・フィルへのデビューも決まっているという。現在の肩書きは、アメリカのインディアナポリス交響楽団の音楽監督とノルウェーのトロンヘイム交響楽団の首席指揮者。それに今年の4月から東京交響楽団の首席客演指揮者という肩書きが加わったのである。
 東響への客演は、2009年11月、2011年6月に続いて3度目となる。前回の2011年6月11日の第590回定期演奏会では、お国もののルトスワフスキとシマノフスキ、そしてショスタコーヴィチを演奏し、大成功を収めた。その時のエネルギーに満ちた演奏は強く印象に残っている。そしてその結果、首席客演指揮者に就任することになった。彼が世界中が注目する若き巨匠、スター指揮者になることは間違いないだろうから、東響としては良い人と契約を結んだことになる。来シーズン(2014~2015)には、7月に東京オペラシティシリーズに登場、チェロのタチアナ・ヴァシリエヴァさんとの共演もある。10月には定期演奏会と川崎定期演奏会では庄司紗矢香さんとの共演もあり、ミューザ川崎の「名曲全集」にも登場する。この4つのコンサートは聴き応えがありそうだ。

 ・・・・と、いきなり来年の話になってしまったのには、いささか理由がある。つまりそれは今日の演奏の「出来」が原因だったのだが・・・・。まず結論を先に言っておくと、今日のウルバンスキさんの指揮と東響の演奏は、衝撃的なくらいに素晴らしく、目が醒めるようであった。これはもうBravo!!間違いなしである。だから来年以降もウルバンスキさんには相当な期待が持てるし、東響にも同様なことが言える。ということは、問題は神尾真由子さんのチャイコフスキーの方で、こちらは衝撃的なくらい愕然とした(あくまで個人的な感想です)演奏であった。その神尾さんがお目当てで今日の定期演奏会にやって来たわけだから、コチラとしては複雑に心境に陥らざるを得なかったのである。

 1曲目はチャイコフスキーの幻想序曲「ロミオとジュリエット」。まずいきなり感じたのは、東響の音。もともとアンサンブルは極めて緻密である一方で、繊細ではあるが線が細い印象が強かった東響のイメージが一新された。弦楽が分厚い音を出し、音量も豊かになった。管楽器はもともと揃ってレベルが高く、アンサンブルも音色も優れているので、全体のバランスが極めて良くなった。ウルバンスキさんの指揮は「的確」という言葉が似合うかもしれない。音楽作りは正確そのもので、アンサンブルをキチンと揃え、テンポもリズム感も狙い通りにオーケストラをドライブする。ダイナミックレンジを広くして、ドラマティックな仕上げも素晴らしい。この人は完璧主義者に違いない。若い指揮者にありがちな、余裕がなく猪突猛進的というようなこともなく、ロマンティックな表現も豊かである。ただひとつ、不満というほどではないが、全体が見事に構築され過ぎているような印象があり、もう少し主題に歌うような抑揚が欲しいと感じた。演奏自体は完璧に近いので、あるいは贅沢な望みかもしれないが。

 2曲目は問題のチャイコフスキーの「ヴァイオリン協奏曲」。登場した神尾さんは、相変わらず、いや結婚されてからなお一層お美しく、キメの細かいお肌が抜けるように白く・・・・。とまあ最前列の真正面、サントリーホール完売の聴衆の中で、一番近い席で見ていてのこと。表情も仕草も、もちろん演奏も(これが問題だ)、遮るものは何一つない状態でのお話しである。
 まず曲のテンポであるが、この協奏曲でのテンポを決めたのは神尾さんだと思われる。3つの楽章を通じて、かなり遅めのテンポ設定で、おそらくこれまで何十回も聴いたことのある中で、一番遅かったのではないだろうか。そしてその「遅さ」に必然性があれば良いのだが、聴いていても何故遅くしているのか理由が分からない。ロシアっぽい雰囲気が出る訳でもないし、ひとつひとつの音符を丁寧に演奏していたようにも思えなかった。結果的には全体がダルい感じになり、躍動感もなければ推進力もない。いったい何が言いたかったのだろう。
 また演奏自体というよりは、結果的に音色が荒れていたようだ。最前列で聴いているせいもあるが、弱音がかすれたりして音に潤いが感じられない。また無理に強く弾いたりして弓がぶつかる音が聞こえたり、何だか雑音が多かったような気がする。神尾さんの演奏とは思えない、どこか調子が合っていない、そんな印象の演奏なのである。もちろん、これは世界のトップクラスの演奏家であることを前提としているので、国内の音楽コンクールで学生さんが弾いている時などと同次元のことを言っているのではない。私たちも彼女に求めているものが違うのである。
 一方のウルバンスキさんは、(ちょっとわざとらしいくらい)神尾さんの伴奏に徹していて、オーケストラを極端に抑制して、独奏ヴァイオリンを目だ立てようとすることに終始していた。演奏終了後はにっこり笑って握手していたが、カーテンコールは神尾さんひとりだけ。ウルバンスキさんは出てこなかった・・・・。
 神尾さんの演奏は、2007年のチャイコフスキー国際コンクールに優勝した前後の頃は攻撃的で、協奏曲の演奏ではオーケストラや指揮者とガチンコ勝負の丁々発止があり、スリリングでエキサイティングであった。その後、攻撃性が影を潜めてくると、極めて純粋で美しい器楽的なクオリティの究極を目指すような演奏に変わっていった。その頃の神尾さんは、世界一美しい音色を持っていると思えるくらいだった。ところが結婚されて後、今年の10月のリサイタル・ツアーは私の方が体調を崩してしまい行けなかったのだが、友人たちの話によるとかなり不調だったらしい。そして今日。どこか迷いがあるのだろうか。こういうのをスランプというのだろうか。例の余りにも醜いと言われた苦悶する表情(失礼)があまり見られなくなった最近、かえって音楽に「苦悶」が乗り移ってしまっているようだ。

 後半はストラヴィンスキーの「春の祭典」。この曲は、今年の9月に大植英次さんの指揮する東京フィルハーモニー交響楽団の演奏で聴いた。その時の記事にも書いたのだが、あまり得意な分野ではないので分からない部分が多いのである。しかし今日の、ウルバンスキさんの指揮を見て、東響の演奏を聴いて、分からないなりに少しアタマがスッキリしたような気がした。漠然とした言い方だが、少し分かったような気がした。つまりそんな演奏だったということなのである。
 ウルバンスキさんの指揮は、見ていて分かりやすい。この複雑怪奇に入り組んだ構造の「春の祭典」を完全に暗譜で指揮をしつつ、各パートへの指示を的確に送っていく。右手の指揮棒で複雑な変拍子を正確に刻み、左手の空を掴むような独特の仕草でオーケストラから空気感を引き出してくる。全身をしなやかに踊らせ、ベジャールの振付を彷彿させる両腕の肘を使ったリズムの刻み方で、オーケスラに変拍子を伝えていく。これはかなり厳しいリハーサルを繰り返したものとみえ、見事なばかりに指揮者とオーケストラが同期して、素晴らしいリズム感を打ち出し、魂の根源から自然に揺さぶられるような、躍動的で肉体的に刺激を伴う凄い演奏だったと思う。「複雑怪奇に入り組んだ構造」と書いたが、ストラヴィンスキーがなぜ敢えて響き合わない不協和音を使ったのか、なぜ人間に備わった周期的なリズムを破壊して複雑な変拍子を使ったのか、曲の縦の線と横の線がピタリと一致した演奏を聴いて、少し分かったような気がした。自然界の生々しい営みは、整然としていない世界であるが、法則性はあるということなのだろう。
 東響の演奏についても触れておこう。もともと東響の木管・金管は繊細で淡泊だが色彩感が抜群である。いわば水彩画のイメージ。オーボエ、クラリネット、フルート、ファゴット、ホルン、トランペット、トロンボーン、等々それぞれがハイ・レベルで雄弁だ。ところが今日の演奏では、これにの異なる音色の楽器が見事なアンサンブルで、一つの不協和音を響かせたりした。単体の楽器の出す旋律が1本の色の着いた糸だとすれば、管楽器全体が出す不協和音は、グレーの太い円柱形のイメージ。太い心太(ところてん)みたいなものだ。全体で一つの音の塊となり、敢えて響き合わない音の組み合わせで、太い音の束を創り出していた。これはアンサンブルのバランスが見事だったからに他ならない。
 一方の弦楽は、見事なアンサンブルに加えて、強い力感を打ち出していた。音が荒くならないギリギリのラインでの強奏では、これまでにはなかった音圧を感じた。弦が強く鳴ることによって、オーケストラ全体のダイナミックレンジが広くなり、音量も増す。最近聴いた東響の中では、最も迫力に満ちた演奏であった。

 といった訳で、神尾さんは不調、ウルバンスキさんは将来に向けて発揮度抜群の演奏となった。まあ、人間である以上、好調不調はバイオリズムみたいなもので、仕方のないことかもしれない。不調とはいっても、それは私が勝手に感じているだけなのかもしれないし、完売公演の聴衆は大喝采を送っている訳だから問題はないといえば、それまでの話だ。私としては、人気があるので客は入っているから、余計に心配なのである。
 一方のウルバンスキさんは、来季からの客演が楽しみである。ルトスワフスキ、ドヴォルザーク、スメタナ、ショスタコーヴィチなどが用意されている。来季は「東京オペラシティシリーズ」に加えて「名曲全集」も会員になったので、全部行けるかどうかは分からないが、東京交響楽団から目が離せなくなった。来季からはジョナサン・ノットさんが音楽監督に就任するので、そちらも楽しみ。現代音楽も増えてくるようだとますます面白くなりそうだ。

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