Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

3/24(土)上村文乃 チェロ・リサイタル/「明るく明瞭」「伸びやかで抒情的」など多彩な表現力が魅力的な演奏

2012年03月26日 01時21分58秒 | クラシックコンサート
上村文乃 チェロ・リサイタル
(東京音楽コンクール入賞者リサイタル)


2012年3月24日(土)14:00~ 東京文化会館・小ホール 自由席 B列 22番 3,000円
チェロ: 上村文乃
ピアノ: 佐藤勝重
【曲目】
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲第3番 ハ長調 BWV1009
  「プレリュード」「アルマンド」「クーラント」「サラバンド」「ブーレI-II」「ジーグ」
ストラヴィンスキー:イタリア組曲
 「Introduzione」「Serenata」「Aria」「Tarantella」「Minuetto e Finale」
シューマン:アダージョとアレグロ 変イ長調 作品70
ラフマニノフ:チェロソナタ ト短調 作品19
 第1楽章 レント–アレグロ・モデラート
 第2楽章 アレグロ・スケルツァンド
 第3楽章 アンダンテ
  第4楽章 アレグロ・モッソ
《アンコール》
 ドヴォルザーク: ユモレスク 作品101-7
 カサド: 親愛なる言葉

 今日は以前から注目しているチェロの上村文乃さんのリサイタル。東京文化会館と東京都などが主催する「東京音楽コンクール」の第5回大会(2007年)に弦楽部門で第2位に入賞した上村さんへの副賞として、今日のリサイタルが開催されたものである。コンクールからだいぶ期間があり、当時高校生だった上村さんも現在は桐朋学園大学ソリストディプロマコースの3年生。しかも昨年2011年には、「第80回日本音楽コンクール/チェロ部門」で第2位、「第65回全日本学生音楽コンクール/チェロ部門/大学生の部」で第1位になったことはご承知の通り。すでにソロだけでなく、オーケストラとの協奏曲や、室内楽など、演奏活動も幅広く行っている。とはいえ、今日が本格的な初のリサイタルということなので、聴く方も緊張してしまう。ピアノ伴奏は彼女のピアノの師でもある佐藤勝重さん。
 このリサイタルは自由席だったので、どこでチケットを買っても同じだから、というわけでもなかったのだが、上村さんご本人にチケットをお願いしたら、送っていただいたチケットは、通し番号1番。指定席ではないので深い意味はないのだが、何となく嬉しかった。また郵送していただいた封筒には東京文化会館・小ホールの記念切手が貼られていて、しかも消印(東京・上野局)は彼女の大好きなパンダの図柄。細かな心遣いができる人である。こちらも記念になるので大切に保管しておこう(*^_^*)。


封筒の切手と消印、チケットの番号にご注目。

 さて前置きが長くなってしまったが、肝心の演奏の方はというと、結論を先に言ってしまえば、Brava!!であった。
 1曲目はJ.S.バッハの「無伴奏チェロ組曲第3番」。この中の「プレリュード」「ブーレ」「ジーグ」の3曲は、昨年2011年7月にあったチャリティ・コンサートでも聴かせていただいたが、音が豊かに響くこのホールで聴くと、チェロの音の深みもまた格別のものがある。いかに過去に何度も演奏している曲とはいえ、初リサイタルの最初の曲に無伴奏の曲を選ぶというのも勇気があると捉えるか、自信の表れと見るべきか。ちょっと固さもあったのかもしれないが、通奏低音が豊かに響き、明快な音色の主部との対比も美しかった。抑揚の乏しいバロック時代の曲にもかかわらず、ロマンティックな演奏の部類に入るのではないだろうか。6曲のうち、著名な「ブーレI-II」は演奏機会も多いのかもしれない。親しみやすい旋律と共に、よく歌い、艶やかに響くチェロの音色が印象的だった。

 2曲目はストラヴィンスキーの「イタリア組曲」。バレエ音楽「プルチネルラ」(1919-20年)から抜粋して1932年にチェロとピアノ用に編曲されたもので、5曲からなる組曲。ストラヴィンスキーのいわゆる「新古典主義」時代の作風である。とくに第1曲の「Introduzione」は軽快で明るくイタリアのバロック時代のような曲想だ。これは上村さんの明るく瑞々しい音色にピッタリの曲で、華やいだリズム感と伸びやかなチェロが楽しく踊っている。第2曲の「Serenata」は短調の陰影がしっとりと描かれ、第3曲の「Aria」は徐々に技巧的に難しくなっていくようで、古典的な曲想の中で描かれるロマン的な抒情性が艶やかな音色で奏でられていた。第4曲の「Tarantella」は軽快な舞曲。飛び跳ねるようなリズム感とキレ味の鋭いチェロは、メリハリも効いていてダイナミックだ。終曲の「Minuetto e Finale」は優雅なメヌエットの中にハッとするような表現が織り込まれていて、とくに中間部はなかなか過激な曲でもある。基本的に明瞭でキリッと引き締まった上村さんのチェロは、なかなかお見事であった。

 後半は、シューマンの「アダージョとアレグロ」。一転して、あまりにも抒情的なロマン派の佳作である。奏者の息遣いのごとく、緩やかに憧れを乗せて演奏されていたのは、若い女性ならではの感情表現だろう。長く伸ばす音の一つ一つに豊かな抑揚があり、旋律がよく歌っていた。「アレグロ」の部分は激情的な曲に対して、あくまで女性的な優しさのある演奏だ。弾むようなフレッシュ感は十分にあるものの、どこか感情が抑制されている部分を残していて、情熱的でありながら、上品さを保っていたことが好ましい演奏だった。

 最後はラフマニノフの「チェロソナタ ト短調」。第1楽章は序奏に続く主題提示部からロマン的な憂愁を帯びた感傷的な主題がチェロで歌うように演奏される。第2主題あたりからピアノが雄弁に語り出し、チェロとピアノの織りなす煌めくような音の奔流がとても美しい。それまでかなり控え目な伴奏に徹していた佐藤さんのピアノがキラキラと輝きだした。展開部の終わりの方はあたかもピアノ協奏曲のカデンツァのようである(さすがはラフマニノフ!!)。ここでのチェロの役割は、音を伸ばすことのできないピアノを補うように、息の長い旋律を受け持っている。
 第2楽章はスケルツォ楽章で、ダイナミックで激情的な部分はピアノが主役となり、中間部の抒情的な旋律をチェロが優しく歌っていく。その対比が鮮やかな色彩感で描かれていた。やはり上村さんのチェロは人の呼吸のように、自然な息遣いを感じさせつつ、旋律を大らかに、優しく歌わせていく。
 第3楽章は緩徐楽章なので、チェロの聴かせ所。感傷的なピアノの序奏に続き、美しく切ない主題がうめくように(ちょっと表現が悪いが)演奏されていく。焦点が定まらず遠くを見つめるような、甘く憧れに満ちた旋律の美しさはラフマニノフならではだが、上村さんのチェロは弱音からまったく歪みのないキレイに音色と柔らかいヴィブラートがとても素敵。技巧的なことよりも表現力の可憐さが、素敵である。
 第4楽章は煌びやかななビアノと伸びやかなチェロの対比が美しく、両者が見事に絡み合って、荘厳にして華麗な音楽が展開していく。曲の持つダイナミズムを見事に描いていくチェロとピアノの素晴らしい演奏を目の当たりにして、これはもうBravi!!以外の何者でもない。
 この曲は一見するとピアノ・パートが華麗すぎて、チェロが片隅に追いやられているような印象も強い。しかし、今日のリサイタルで、敢えてこの曲を選んだ理由が少し分かったような気がした。オーケストラにも匹敵する華麗なピアニズムに対して、敢えて息の長い単音による旋律が多いこの曲を持ち出すことによって、チェロの魅力を訴えたかったのではないだろうか。上村さんのチェロは、基本的には明るく爽やかな音色だが、もちろん正確な音程とリズム感であることは言うに及ばず、ある時は明瞭でクッキリとした造形を描き、またある時は夢見心地のような浮遊感がある。一つ一つの音にも細やかな表情があり、表現の幅が実に多彩で豊か。素晴らしい演奏であった。

 アンコールは2曲。ドヴォルザークの「ユモレスク」は、ホッと一息つく感じ。カサドの「親愛なる言葉」は、ご本人のご挨拶によれば、来てくれた聴衆に向けての感謝の意から。チェロ奏者で作曲家のカサドが師であるパブロ・カザルスに献呈した曲で、スペイン風のエキゾチックな旋律が情熱的である。上村さんは大きく弓を使って、活き活きとしたスケールの大きな演奏を聴かせてくれた。

 今日は初リサイタルを見事に成功させた上村さん。「学生/アマチュア」というカテゴリーから「演奏家/プロフェッショナル」へと移行する重要なエポックとなる通過点のひとつのような気がする。そこで、これまでに彼女を追いかけてきたのをおさらいしてみると……

●2010年7月1日(木)/JTアートホールアフィニス
 JTが育てるアンサンブルシリーズ Vol.51「明日への希望の星」

 ヴァイオリン: 南 紫音/ピアノ: 坂野伊都子
 【曲目】ラヴェル: ヴァイオリンとチェロのためのソナタ
     メンデルスゾーン: ピアノ三重奏曲 第1番 ニ短調 作品49 など
●2010年9月11日(土)/文京シビックホール
 響きの森クラシック・シリーズ 第33回 ~フレッシュ名曲コンサート

 指揮: 小林研一郎/管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団
 【曲目】ドヴォルザーク: チェロ協奏曲 ロ短調 作品104
●2011年7月17日(日)/尾上邸音楽室
 東日本大震災被災地支援のためのチャリティー・コンサート
 (音楽ネットワーク「えん」主催/第5回チャリティー・コンサート)

 ヴァイオリン: 青木尚佳/ピアノ: 開原有紀乃
 【曲目】バッハ: ソロチェロのための組曲第3番ハ長調 BWV1009より「プレリュード」「ブーレ」「ジーグ」
     ハルヴォルセン: ヘンデルの主題によるパッサカリア
     ブラームス: ピアノ三重奏曲 第1番 ロ長調 作品8
     サン=サーンス: 白鳥
     クライスラー: 愛の喜び~トリオ版 など
●2011年10月9日(日)/ティアラこうとう・大ホール
 フレッシュ名曲コンサート/オーケストラ with バレエ「四季」

 指揮: 飯森泰次郎/管弦楽: 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
 【曲目】ドヴォルザーク: チェロ協奏曲 ロ短調 作品104
●2011年10月26日(水)/東京オペラシティコンサートホール
 第80回 日本音楽コンクール 本選会《チェロ部門》

 指揮: 山田和樹/管弦楽: アンサンブル of トウキョウ
 【課題曲】ハイドン: チェロ協奏曲 第2番 ニ長調 Hob.VII b-2

 こうして振り返ってみると、初めて上村さんの演奏を聴いてから2年にも満たないのだが、改めて過去の記録を読み直してみると、彼女が聴くたびに上手くなって来たのがよく分かる。かつてはステージ上でもおどおどした仕草を見せたりもしていたが、今日のリサイタルでは落ち着いて堂々としていた。演奏家としての自身というか、決意が振る舞いにも表れていたように見えた。今後は大学を卒業したら海外留学も視野に入れているようだし、ますます研鑽を積んで、私たちに素敵な音楽を聴かせてほしい。この後も、遠くから(コンサートでは出来るだけ近くで)見守って行きたいと思う。

 ← 読み終わりましたら、クリックお願いします。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 3/20(火)読響みなとみらい名... | トップ | 3/28(水)三浦友理枝ピアノ・... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

クラシックコンサート」カテゴリの最新記事