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Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

4/19(火)新国立劇場『ばらの騎士』/フランツ・ハヴラタの絶妙なオックス男爵にBravo!

2011年04月21日 00時56分29秒 | 劇場でオペラ鑑賞
新国立劇場 2010/2011シーズンオペラ公演『ばらの騎士』R.シュトラウス作曲

2011年4月19日(火)18:00~ 新国立劇場・オペラパレス B席 3階 2列 23番 11,340円(会員割引)
指 揮: マンフレッド・マイヤーホーファー
管弦楽: 新日本フィルハーモニー交響楽団
合 唱: 新国立劇場合唱団
児童合唱: NHK東京児童合唱団
合唱指揮: 冨平恭平
児童合唱指揮: 加藤洋朗・金田 裕
演出: ジョナサン・ミラー
美 術・衣装: イザベラ・バイウォーター
照 明: 磯野 睦
舞台装置: 大澤 裕
【出演】
元帥夫人: アンナ=カタリーナ・ベーンケ(ソプラノ)
オックス男爵: フランツ・ハヴラタ(バス)
オクタヴィアン: 井坂 惠(メゾ・ソプラノ)
ファーニナル: 小林由樹(バリトン)
ゾフィー: 安井陽子(ソプラノ)
マリアンネ: 黒澤明子(ソプラノ)
ヴァルツァッキ: 高橋 淳(テノール)
アンニーナ: 加納悦子(メゾ・ソプラノ)
警部: 長谷川 顯(バス)
元帥夫人の執事: 小貫岩夫(テノール)
ファーニナルの執事: 経種廉彦(テノール)
証人: 晴 雅彦(バリトン)
料理屋の主人: 加茂下 稔(テノール)
テノール歌手: 水口 聡(テノール)
帽子屋: 國光ともこ(ソプラノ)
動物商: 土崎 譲(テノール)
レオポルド: 仲川和哉(黙役)

 久しぶり(といっても2ヶ月ぶりくらいだが)のオペラは、楽しみにしていた『ばらの騎士』。一番好きなオペラだ。ジョナサン・ミラー演出の新国立劇場のプロダクションは、2007年がプルミエで、今回は再演となる。4/4の記事にも書いたが、今回の公演は、東日本大震災を受けて、大幅な出演者の変更があり、波乱含みの公演となった。それでも初日を除いて公演が中止されなかっただけでも、オペラ・ファンとしては嬉しい限りである。当初予定されていた海外組で来てくれたのはオックス男爵役のフランツ・ハヴラタさんだけ。主役クラスは総入れ替えになってしまった。しかも指揮者まで…。新日本フィルハーモニー交響楽団の音楽監督のクリスティアン・アルミンクさんが、原発事故の風評を恐れて来なかったのだとすれば、代役を務めたマンフレッド・マイヤーホーファーさんも同じオーストリア人なのに…と、少々ガッカリである。新国立劇場初登場なのに見捨てられたカタチになった新日本フィルの演奏やいかに。最後に『ばらの騎士』を聴いたのは、2008年9月、アルミンク指揮、新日本フィルのセミ・コンサート形式の定期演奏会なのも、何やら因縁めいているからだ。などとブツブツ言っても始まらないので、今日は気持ちを切り替えて、大好きな『ばらの騎士』を久しぶりに楽しもう。

 第一に歌手陣の奮闘を称えたい。元帥夫人のアンナ=カタリーナ・ベーンケさん(カミッラ・ニルンドさんの代役)とオックス男爵のハヴラタさんを中心に、オクタヴィアンの井坂 惠さん、ゾフィーの安井陽子さんらがかなりクオリティの高い歌唱を聴かせてくれた。ベーンケさんはとてもキレイな声の大人のソプラノさんで、落ち着いた佇まいの元帥夫人を好演。第1幕終盤の独白のシーンも堂々とした歌いっぷりで見事だった。立ち姿も凛として、美しかった。ハヴラタさんについては文句の付けようもない。当代一のオックス男爵歌いである。憎めない悪役の、何とも言えない風貌が、まさにオックス男爵という存在感。もちろん超低音もキチンと出ていたし、第2幕後半のワルツはサイズの味わいを聴かせてくれた。井坂さんはよく響くメゾの声が美しく、ズボン役にしては声が女性的すぎるかな、とも思えたが、全体としては大奮闘というべきだろう。安井さんもよく通る声質で、終盤の3重唱でも他の二人に負けないパワーがあり、超高音の音程も素晴らしかった。3重唱に続くオクタヴィアンとゾフィーの二重唱も二人のバランスが良く、とても美しいハーモニーを聴かせてくれた。日本人キャストの方が阿吽の呼吸を掴みやすいのかもしれない。


第1幕。元帥夫人の寝室。左から、マリアンデルに変装したオクタヴィアン(井坂 惠さん)、オックス男爵(フランツ・ハヴラタさん)、元帥夫人(アンナ=カタリーナ・ベーンケさん)

 脇役陣はもともと日本人でキャスティングされていたが役にも慣れたベテラン(国内では主役級)の皆さんが、脇を盛り上げていたといえる。ヴァルツァッキの高橋 淳さんは、この手の役をやらせるととにかく面白い。先日の東京二期会の『サロメ』でのヘロデ王のように、クセのある役が巧いだけでなく、テノールの歌唱も超一流だ。また日本でもトップクラスの水口 聡さんをワンポイント出演のテノール歌手役に、2007年に続いて登場させたのも贅沢。『ばらの騎士』ならではの楽しみの一つだ。他にも、アンニーナの加納悦子さんや料理屋の主人の加茂下 稔さんたちがいつものように芸達者ぶりを見せていた。


第2幕。銀の薔薇の献呈シーン。左がゾフィー(安井陽子さん)、右が青年貴族に戻ったオクタヴィアン。

 一方、オーケストラの方は…。第1幕の前奏曲部分から、ホルンが、弦が…、音色に艶がなく乾いた感じで、響きも悪い。アンサンブルも乱れがちで、音量のバランスも悪い。決して良い演奏とは言えなかった。その傾向は第2幕も同じようで、冒頭の絢爛豪華な音楽が、ただ音を並べたといった印象。かつて聴いたアルミンクさん指揮の時とは全然違う。やはり急場しのぎだったのだろうか。あるいはオペラにあまり慣れていないオーケストラということも手伝ったのかもしれない。第3幕の開始時、指揮者にBravo!の声が飛んだが、「…え? ホントに?」という感じだった。ところが!! 第3幕の後半から急に音が変わった。元帥夫人が登場するあたりから、弦楽の音が澄み渡り、ホルンやトランペットが絶妙な艶やかな音で歌い出す。オーケストラのバランスが急にまとまり、いかにも『ばらの騎士』といった、華麗で豊潤で色っぽい、天才リヒャルト・シュトラウスの音楽が鳴り出したのである。さすがにクライマックス部分は練習が十分だったのか、それともメンバーの気持ちが一つになったのか。歌手陣の歌唱の素晴らしさと、オーケストラの見事に演奏によって、「マリー・テレース~」から後の三重唱、二重唱、エンディングまで、これぞオペラの醍醐味といえる、豊かな音楽的世界を堪能することができた。終わり良ければすべて良し、ということで、久しぶりにBravo!!を叫んでしまった。やっばり、『ばらの騎士』はいいなァ。

 演出についても一言。本プロダクションは再演だが、ジョナサン・ミラーさんの演出は、気品があって素晴らしいとあらためて感じさせられた。豪華さとシンプルさを兼ね備えた舞台装置、18世紀風(かどうかは解らないが)の落ち着いた衣装、人物もさほど派手に動き回ることなく、全体としては落ち着いた雰囲気の中で、上品に、華麗に、物語が展開していく。初めて『ばらの騎士』を観た人にもほぼ完璧に物語の世界を伝えられる演出。それでいて古くささを感じさせないところが良い。雄弁なシュトラウスの音楽に良く似合った、舞台である。

 オペラ『ばらの騎士』は、かなり長い。全3幕で正味3時間20分くらい。25分間の休憩を2階挟むと、上演時間は4時間半くらいになる。いつもより早めの18時スタートにもかかわらず、終わってみれば22時30分。家に帰り着く頃には日付が変わってしまう。しかし『ばらの騎士』は楽しい。途中飽きることもないし、どんなにつかれていても眠くならない。お話しの内容はしょうもない昼ドラのような不倫と恋愛の悲喜劇でしかないのに、なぜこれほど面白いのだろうか。やはり一人一人の登場人物の性格が細やかに人間的に描かれているところが魅力なのだろう。人々の共感や憧れをクスクス笑いとほんのりした悲しみの中に押し込めてしまう。私たちの身近にもありそうで、なさそうなお話し。神話の世界や哲学的な難解さがまったくないから良いのである。震災後、やっと観ることができたオペラが、一番好きな『ばらの騎士』だったことに感謝したい。

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