Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

2/23(土)東京二期会『こうもり』/大植英次の指揮が冴え、極上の笑いに満ちたオールスター・キャスト

2013年02月24日 17時40分36秒 | 劇場でオペラ鑑賞
二期会創立60周年記念公演/東京二期会オペラ劇場『こうもり』

2013年2月23日(土)14:00~ 東京文化会館・大ホール B席 3階 L1列 10番 9,000円(愛好会会員価格)
演 目:『こうもり』ヨハン・シュトラウスII作曲/日本語公演
指 揮: 大植英次
管弦楽: 東京都交響楽団
合 唱: 二期会合唱団
合唱指揮: 松井和彦
演 出: 白井 晃
装 置: 松井るみ
衣 裳: 太田雅公
照 明: 齋藤茂男
振 付: 原田 薫
ヘアメイク: 川端富生
舞台監督: 八木清市
公演監督: 加賀清孝
【出演】
アイゼンシュタイン: 萩原 潤(バリトン)
ロザリンデ: 腰越満美(ソプラノ)
フランク: 泉 良平(バリトン)
オルロフスキー: 林 美智子(メゾ・ソプラノ)
アルフレード: 樋口達哉(テノール)
ファルケ: 大沼 徹(バリトン)
ブリント: 畠山 茂(バス・バリトン)
アデーレ: 幸田浩子(ソプラノ)
イダ: 竹内そのか:(ソプラノ)
フロッシュ: 櫻井章喜(俳優)

 二期会創立60周年記念公演の一環、東京二期会オペラ劇場の2月公演は、『こうもり』である。指揮は、今回が日本で初めてオペラを振るという大植英次さん。アメリカやヨーロッパでの活躍と実績は知られているものの、2003年以来大阪フィルハーモニへ交響楽団の音楽監督をつとめていたこともあり(現在は桂冠指揮者)、これまで聴いたことがなかった。だから実際には特定のイメージは湧いてこないし、初めて聴くのがオペレッタ『こうもり』ということになり、さらにイメージが湧いてこない。しかし音楽の楽しさを強調している方らしいので、興味津々、どんな『こうもり』を聴かせてくれるのか、期待が膨らむ。

 今日の座席は、3階のL1列。ステージ寄りの方である。そのため、オーケストラ・ピットの中全体がほぼ見渡せる。オペラの時の音響的には、ベストに近いポジションだと思っている。また、ステージの方もケラレる部分は少なく、奥の方まで見えるので、出演者の動きもよく分かるし、ステージに近いから歌唱も台詞もストレートに聞こえる。B席設定なので、コストパフォーマンスにも優れた席で、最近のお気に入りである。

 残念なことに、最近客の入りという面では不調の続いていた東京二期会の公演だが、さすがに今日の『こうもり』は良く入っていた。キャストの一覧を見れば分かるように、東京二期会の総力戦といった布陣。スター歌手勢揃いで、休日公演で、肩の凝らない『こうもり』だから、入りが良くって当然だとは思うが、願わくば、いつもこれくらい入っていてほしいものである。

 会場が暗転して、大植さんが登場。序曲が始まると、何だか妙に活き活きとした、ワクワク感がかき立てられる演奏が響く。その感じは、シンフォニックなオーケストラの音楽ではなく、いかにもオペラ(オペレッタ)的な、歌心に溢れた演奏だ。テンポやリズムの取り方が、自由で、気ままで、刹那的な楽しさをうまく表現している。正確なアンサンブルとキレ味の鋭くダイナミックな演奏で、東京都交響楽団が大植さんの意図するところを見事に演奏していたと思う。
 序曲からこんなに全力投球で最後まで持つのかしら…と不安さえ感じさせるようなエネルギッシュな指揮ぶりの大植さんであったが、それも杞憂に過ぎなかった。全体を通しても、ダイナミックレンジを広くとり、メリハリもかなり効いている。また、テンポの取り方が実に良い。伸ばす所は伸ばし、詰める所は詰め、歌手たちにはたっぶり、本当にたっぷりと歌わせ、その魅力を目一杯に引き出す。アリアが合唱の聴かせどころと最後の一節が終わった瞬間、急激なアッチェレランドをかけ、一気に曲を終わらせ、聴衆の拍手を誘い込む。エンターテイメント系のツボを心得た見事な采配ぶりであった。指揮とオーケストラに関しては、『こうもり』にはもったいない(?)くらいの素晴らしい演奏で、文句なしのBravo!!であった。

 一方、歌手陣の方はといえば、やはり東京二期会の総力戦といった布陣だけに、皆さんがそれぞれの持ち味を十分に発揮していたし、歌唱も演技も実に楽しそうにやっていた(ように見えた)。今日の『こうもり』は、完全日本語公演。歌唱も台詞も日本語だし、字幕もないので、やはり歌唱部分の歌詞が聴き取りにくいのはやむを得ないことだろうか。『こうもり』は数え切れないくらい観ているので、ストーリー等はすべて頭の中に入っているから、問題なく楽しめるのだが、初めてオペラ(オペレッタ)に来た人には果たしてどうであったろうか。台詞の部分はよく聴き取れるだけに、何かもう一工夫ほしいところだ。
 出演者の中で一番役柄を見事にこなし、歌唱でも輝いていたのはアデーレ約の幸田浩子さんだろう。お調子者で天真爛漫なキャラクタは、幸田さんの軽快にコロラトゥーラが良く似合う。大袈裟なドタバタ喜劇風の演技も、嫌味がなくて楽しかった。
 ロザリンデ役の腰越満美さんは、存在そのものがロザリンデといった雰囲気を持っていた。大らかでちょっと気が強く、カカア殿下なのに色っぽい。第1幕での「妻」の役柄と、第2幕の「ハンガリーの貴婦人」という異なるキャラクタを演じわけ、聴衆を笑わせてくれた。歌唱は芯の強いソプラノで、よく声も通っていた。
 オルロフスキー役の林美智子さんは、立ち姿がスッキリとしたズボン役で、口ひげを生やしたメイクが倒錯的で色気がある。後で触れるが、女性たちの衣装が同じようなものばかりだったので、オルロフスキーの白い軍服のような貴族の衣装がよく目立っていた。残念なことに声量がちょっと落ちてしまったような気がして、ちょっと心配である。
 男性陣では、ちょっと脇役になるが、アルフレード役の樋口達哉さんがBravo!であった。イケメンの樋口さんがおバカっぽい役を演じ、日本でもトップクラスのものすごい声量で歌うものだから、これは本当に可笑しかった。樋口さんは7~8月公演の『ホフマン物語』でタイトルロールで出演する予定。そちらもチケット確保済みなので、今日の歌唱を聴いて、ますます楽しみになった。
 アイゼンシュタイン役の萩原 潤さんは豊富な経験を活かした貫禄の演技、といったところ。安定した歌唱と、抜群の演技力で、浮気者の役柄を面白可笑しく演じていた。フランクは歌唱よりも演技の役柄だが、泉 良平さんは酔っぱらいの役が上手い…。ファルケ役の大沼 徹さんは、狂言回しの役柄を要所で締めていた。主役にあたる萩原さんを泉さんと大沼さんがうまく支えていたといった構図だろうか。
 二期会合唱団は、今回の『こうもり』では総勢40名ほどの出演だが、瞬発力のあるパワフルな合唱を聴かせた。時折、ソロの歌手たちを食ってしまうところがあったくらい。もっとも皆さんプロの声楽家だし、演技をしながらとはいえハーモニーも見事で、やはり一流の合唱には違いない。


上段左から、萩原 潤さん、腰越満美さん、泉 良平さん、林 美智子、樋口達哉さん。
下段左から、大沼 徹さん、畠山 茂さん、幸田浩子さん、竹内そのかさん、櫻井章喜さん。


 今回の『こうもり』は、二期会の伝統に従って、歌詞はかつてから使われていた中山悌一先生によるものだが、台詞の部分は演出の白井 晃さんが執筆したということだ。当然、白井さんによる新プロダクションである。台詞の台本についてはとても良くできていたと思う。とても楽しく、十分に笑わせてくれただけでなく、ストーリーの展開もよく分かるようになっていた。
 一方で、舞台装置の方は、ちょっと意図が分からないところがあった。第1幕から第3幕まで、それぞれステージの上にもう一つの可動式ステージを作っている。第1幕はアイゼンシュタインの居間、第2幕はオルロフスキーの屋敷の広間から食堂、第3幕は刑務所長フランクの事務所である。とくに第1幕と第3幕は、その演技空間が狭く、出演者の動きもぎごちなく、そこから落ちそうで危なっかしい。そのミニ・ステージ以外には、どういうわけか等身大の人物のイラストが通行人のように立っていて…その意味もよく分からなかった。
 さらに衣装も…。太田雅公さんによる衣装は、とくに第2幕以降、登場する女性たちの衣装が同じような柄の服(ドレスともいいがたいデザイン)になっている。その柄そのものは特徴的で個性的なのは良いとしても、ロザリンデ(ハンガリーの貴婦人に変装している)も、アデーレ(ロザリンデのドレスを勝手に着ているのだから同じようでも仕方ないが)も、イダも、その他の合唱団の女性たちも皆、同じような服を着ているのだ。遠くから見ていると、ズボン役のオルロフスキー以外は、誰が何処にいるのか見分けが付かないのである。オペラグラスで探さなければならなかった。私は主な出演者の方の顔を知っているので、すぐに見つかるが、初めて来た方たちにとっては、ストーリーの理解、つまりアイゼンシュタインがルナール侯爵と名乗ったり、アデーレがオルガと名乗ったり、ロザリンデは仮面を被って来たりと、ややこしくなる展開が見た目にも分かりにくいのではないだろうか。せめて、主役たちが合唱団の人たちから見た目にも浮き上がる方が良いと思う。大きなホールでは、遠くの客席からでは細かなところまで見えないのである。衣装デザインには登場人物のキャラクタを視覚化する役割もある。あまり、凝らない方が良いと思う。

 とはいったものの、『こうもり』はやっぱり楽しい。今回の東京二期会の公演は、指揮とオーケストラが素晴らしく、全体が快調なテンポ感で進んでいった。音楽にも躍動感があり、聴いているものを飽きさせない力があったように思う。
 『こうもり』は、もちろんやり方次第ではあるが、誰が観ても聴いても分かりやすくて、理屈抜きで楽しめる娯楽性に富んだ作品だ。東京二期会でも『こうもり』の公演を定番化して、大晦日に上演するなどの習慣化をめざしたらどうだろうか。オペラ(オペレッタ)ファンならずとも気軽に楽しめる『こうもり』や『メリー・ウィドウ』のような作品は、高尚で高額で敷居の高いと思われがちなオペラを、もっともっと多くの人に楽しんでもらえるような環境作りには最適の作品だ。オペラの普及や、オペラ文化の底上げに、何とか役立ててほしいものである。


(画像は、幸田浩子さんと林美智子さんのサイン入り公演プログラム。2013年2月3日に千葉県文化会館で開催されたお二人のデュオ・リサイタルの時に入手した「サイン入りプログラム引換券」で、会場で受け取ったもの)

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