Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

7/25(金)デジレ・ランカトーレ/ソプラノ・リサイタル/イタリアの歌姫の魅力爆発にスタンディングの熱狂

2014年07月29日 01時29分27秒 | クラシックコンサート
デジレ・ランカトーレ ソプラノ・リサイタル 2014
Desirée Rancatore Soprano Recital 2014

2014年7月25日(金)19:00~ 紀尾井ホール S席 1階 3列 15番 12,000円
ソプラノ: デジレ・ランカトーレ
ピアノ: アントニーナ・グリマウド*
【曲目】
ロッシーニ:「誘い」「約束」「バッカス祭」
ドニゼッティ: 歌劇『アンナ・ボレーナ』より「私の生まれたあのお城へ連れて行って」
ドニゼッティ: 歌劇『連隊の娘』より「さようなら」
ラフマニノフ: 10の前奏曲 作品23より第6番*(ビアノ・ソロ)
ベッリーニ: マリンコニア
グノー: 歌劇『ロメオとジュリエット』より「私は夢に生きたい」
ヴェルディ: 歌劇『オテロ』より「アヴェ・マリア」
ヴェルディ: 歌劇『シチリアの晩鐘』より「ありがとう、愛する友よ」
ヴェルディ: 歌劇『ファルスタッフ』より「夏のそよ風吹く上を」
ショパン: スケルツォ 第2番 作品32-1*(ビアノ・ソロ)
ヴェルディ: 歌劇『イル・コルサーロ(海賊)』より「私の頭から暗い考えを」
ヴェルディ: 歌劇『一日だけの王様』より「恋する心には」
《アンコール》
 ビゼー: 歌劇『カルメン』よりミカエラのアリア「何を恐れることがありましょう」
 ガーシュウィン/ヘイワード: 歌劇『ポーギーとベス』より「サマータイム」
 越谷達之助: 初恋
 ディ・カプア: オー・ソレ・ミオ

 私の一番好きなソプラノ歌手、デジレ・ランカトーレさんの2年ぶりのリサイタル。今回の来日で確か9回目となるはずだが、自慢じゃないが、ランカトーレさんの来日公演はこれまで皆勤賞を続けている(東京近郊のもの)。超絶技巧的なコロラトゥーラ唱法、ハイF(3点F)まで楽に出る超高音域の美声、中音域の情感豊かな歌唱。その圧倒的な表現力に加えて、明るく気取らないキャラクタ。そして若くて、美人ときている。とにかく素敵なひとである。
 この際だから、そんなランカトーレさんのこれまでの来日公演をまとめてみた。

《デジレ・ランカトーレ 来日公演の軌跡/私が聴いた東京近郊のもの》
2007年1月 ベルガモ・ドニゼッティ劇場 来日公演『ランメルモールのルチア』タイトルロール/東京文化会館
2007年4月 スロヴェニア国立マリボール歌劇場 来日公演『ラクメ』タイトルロール/東京文化会館
2008年4月 都民劇場/ソプラノ・リサイタル/東京文化会館 
2008年4月 ソプラノ・リサイタル/紀尾井ホール(NHK-BSで放送された)
2009年7月 ソプラノ・リサイタル/東京オペラシテイコンサートホール
2010年1月 ベルガモ・ドニゼッティ劇場 来日公演『愛の妙薬』アディーナ役
2010年4月9日「カルミナ・ブラーナ」東京・春・音楽祭~東京のオペラの森2010~/東京文化会館/リッカルド・ムーティ指揮
2011年9月 ボローニャ歌劇場 来日公演『清教徒』エルヴィーラ役(2回観に行った)
2012年4月 ソプラノ・リサイタル/横須賀芸術劇場
2012年4月 デュオ・リサイタル(セルソ・アルベロ)/東京オペラシテイコンサートホール

 さて、そんなランカトーレさんの今回のリサイタルは、お得意のドニゼッティ、ベッリーニといったベルカント・オペラの曲に加えて、後半はヴェルディのアリアを幅広く集めた意欲的なものだ。曲目は当初発表されていたものとは一部変更になり、『夢遊病の女』の「おお花よ、お前に会えるとは思わなかった・・・・おぉ思いも寄らないこの喜び」の長大なアリアが、『ロメオとジュリエット』「私は夢に生きたい」に変わってしまった。これはちょっと残念。調子が良くないのかなぁ、などと心配でもある。
 登場したランカトーレさんは、正面から見ると爆発したような不思議なヘアスタイルで、小柄でポチャ系のボディ(失礼)をハイヒールとキツメのドレスで美しく着飾って、にこやかにステージへ。人懐っこいキャラクタで気取ったところはないが、スター歌手としてのオーラがいっぱいである。今日の席は3列目のセンターブロック右寄りの好ポジション。それでも会員先行の発売日に頑張って取った席なのである。


 1~3曲目は、ロッシーニの「音楽の夜会」という歌曲集から、第5曲「誘い」、第1曲「約束」、第4曲「バッカス祭」。2年ぶりに聴くランカトーレさんは、中音域から高音域にかけての張りのある声が独特の質感があって、相変わらず素敵だ。もちろん伸びのある高音域のしなやかさも。この人の歌唱は、本当に歌心が豊かで、母音を大きく伸ばすフレージングは、イタリア人の中でもランカトーレさんならでもものだ。

 続いてお得意のドニゼッティのオペラ・アリアから『アンナ・ボレーナ』の「私の生まれたあのお城へ連れて行って」。いわゆるぶりマドンナ・オペラのクライマックス、狂乱の場の長大なアリアである。タイトルロールを歌える歌手が余りいないために上演される機会が少ないオペラだけに、興味津々というところだが、さすがはランカトーレさん。この超難曲を見事に歌いきった。コロラトゥーラ的な装飾音符の軽やかな回し方もさることながら、超高音域での繊細な節回しも見事。そして何より、張りと艶のある声質と芯の強い力感のある発声があればこそできる、主人公になりきったような感情表現の豊かさ。2012年のウィーン国立歌劇場の来日公演の『アンナ・ボレーナ』でエディタ・グルベローヴァさんの熱唱を思い出すが、私としてはランカトーレさんの方がいかにもドニゼッティらしくて素敵だと思った。

 続いて『連隊の娘』より「さようなら」。これもベルカントならではの高度な技巧を要する曲である。切々と歌われるこのアリアは、強烈に押し出される曲ではないだけに、歌い手の表現力が問われる。弱音であるのに高度な技巧が求められので、技術的にも難易度の高い曲だと思うが、ランカトーレさんは弱音も見事。息の長い弱音の旋律に中にも、細やかなニュアンスが盛り込まれ、にじみ出てくるような情感が浮き上がってくる。声の美しさ、技巧の素晴らしさ、解釈・表現力の豊かさ。どれをとってみても素晴らしい歌唱であった。

 ここで、ピアノのアントニーナ・グリマウドさんによるソロで、ラフマニノフの「10の前奏曲作品23」より第6番。グリマウドさんはランカトーレさんの伴奏で世界中を一緒に回っている人だが、いつもリサイタルで、間奏曲的なソロを演奏する。今日のラフマニノフはとても面白かった。ピアノ音楽を好きな人からみれば、何だこれ?というような演奏に思えるかもしれない。つまり、まるでイタリアの歌曲を弾いているような感じで、まったりとして、フレージングが歌謡的なのである。ランカトーレさんのリサイタルではいつも聴いているので、もうすっかり慣れた。ナイトクラブのムード音楽のような演奏だが、私はけっこう好きである。

 続いて、ベッリーニの歌曲「マリンコニア」。憂愁をたたえた美しい旋律は、いかにもベッリーニだ。オペラ・アリアのような技巧的な曲ではないので、歌謡的な表現力で、情感を込めて歌われていた。

 前半の最後は、『ロメオとジュリエット』の「私は夢に生きたい」。さて問題はランカトーレさんのフランス語であるが、グノーの作だけにフランス語が上手く旋律に乗るように作られているのは当たり前。ところが、思いっきりイタリア訛りのフランス語で歌うランカトーレさんは、この曲があたかもベルカント・オペラのように歌う。母音を長く伸ばして、ローマ字のような発音なのだが、それも彼女が歌うのなら許されるところだろう。夢見る乙女の心情を、明るく、楽しく、伸びやかに歌い、高音部のキメて、派手に締めくくった。当然のごとく、会場からは大喝采が送られた。

 後半は、オール・ヴェルディである。まずは『オテロ』(1887年初演)の「アヴエ・マリア」。デスデーモナの有名なアリアは、正直に言えばランカトーレさんのイメージにはあまり合っているとは思えなかった。この曲の悲劇性は、シェークスピアの悲劇性であり、ヴェルディの奥深い悲劇性でもある。ドニゼッティやベッリーニの真正面から来る分かりやすい悲劇性とは性格が違う。ようやくと言うか、ついにというか、ランカトーレさんもデスデーモナを歌う年齢になったのかな・・・・などと思ってしまった。とはいえ、歌唱の方は素晴らしい。悲劇の前の諦めと悲しみを切々と歌う(祈る)このアリアに対して、ある種の強さを感じさせる芯のある声質と明瞭で美しい弱音が、新しいデスデーモナ像を描き出している。

 続いて、『シチリアの晩鐘(シチリア島の夕べの祈り)』(1855年初演)より「ありがとう、愛する友よ」。パレルモが舞台のこのオペラは、ランカトーレさんにとっては地元ものということになるのだろうか。ストーリーは悲劇的なものだがこの曲は明るく伸びやかに歌われる。ノリが良く、彼女の本領発揮ともいえる、躍動的な歌唱であった。

 次は、『ファルスタッフ』(1893年初演)より「夏のそよ風吹く上を」。ヴェルディ最後のオペラは喜劇であった。その中でナンネッタが歌う妖精の歌である。1999年の英国ロイヤル・オペラでの公演がDVD化されていて、確かそこで若き日のランカトーレさんが歌っているのである。高音域が連続する難曲だが、軽めの声でコケティッシュな情感を込めての歌唱はさすがのもので、その表現力の豊かさと安定した技巧(高音域を長く伸ばす)は見事というしかない。

 続いて、グリマウドさんのピアノ・ソロでショパン: スケルツォ 第2番。なぜここでショパン?? ・・・・しかもイタリア風で歌唱的に旋律を歌わせる、スケルツォ?? ここまで芸風が違うと、Brava!である。

 ランカトーレさんがまた登場して、ヴェルディ作品に戻り、『イル・コルサーロ(海賊)』(1848年初演)より「私の頭から暗い考えを」。さすがにこのオペラは観たことも聴いたこともなく、物語の背景がまったく分からない。主人公の海賊コルラードの恋人メドーラが彼のみを案じて歌うアリアなのだそうだ。切なげに切々と歌う一方で、美しい抒情的な旋律を超絶技巧的な高音をたっぷりと交えながら、情感もたっぷりに歌ってくれた。会場もかなり盛り上がってきて、1曲毎にBrava!!が飛び交う。

 プログラムの最後は、『一日だけの王様』(1840年初演)より「恋する心には」。ヴェルディ初期の喜劇オペラなのだが初演が大失敗に終わったため、最後の『ファルスタッフ』まで喜劇は書かなかったといういわく付きの作品。もちろん内容は知らないので、どういう曲なのかは分からなかったが、ベルカント・オペラの要素を色濃く残した、陽気で楽しいアリアである。コロラトゥーラ系の装飾が施された歌唱は、ランカトーレさんの魅力を存分に発揮したものであった。軽快な歌唱にもかかわらず、声に芯が通っていて、けっこう力強い。それでいて硬質にならないしなやかさと艶っぽさがあり、しかもふくよかな丸みさえ感じられる。素晴らしいの一語に尽きる。
 こうして色々な時代のヴェルディを聴いてみると、ランカトーレさんに合った役柄がたくさんあるようである。彼女の今後の活動の方向性を示しているのだろうか。

 アンコールは何と4曲も。それだけ喝采が続いたということだ。
 1曲目は『カルメン』のミカエラのアリア「何を恐れることがありましょう」。情熱たっぷりの熱唱でミカエラってこんな熱い女性でしたっけ? ミカエラがこれほど熱い思いをストレートに打ち出して、情熱的であったなら、ドン・ホセはカルメンに惑わされなかったのでは? と思えるほどの素晴らしい熱唱であった。もう感激!! である。
 2曲目はガーシュウィンの「サマータイム」。こちらは彼女のアンコール・ピースとしてはお馴染みの曲だ。
 3曲目は、一昨年の横須賀と東京オペラシティでも歌った越谷達之助作曲/石川啄木作詞の「初恋」。これがまた上手いのである。単にローマ字の歌詞を歌っているとは思えない、日本人の心の琴線に触れる心情が見事に歌われていて、聴いているうちに泣けてきてしまった。最近日本人の声楽家が男女を問わずこの曲をよく採り上げているが、日本人だと普通にすーっと通りすぎてしまうところを、ランカトーレさんは楽譜を深く読み込んでいるのだろうか、息の長い歌唱でゆったりとした抒情性を表現している。お見事!!
 おそらくこれで終わるはずだったのに、喝采が止まないので、もう1曲。「オー・ソレ・ミオ」。これは誰でも分かる。リサイタルの締めくくりにはピッタリの大サービスであった。
 会場は熱狂が渦巻き、最後はスタンディング。感激屋のランカトーレさんはちょっと涙ぐんで、「アリガトウ」とつぶやいていた。

 ランカトーレさんの歌唱は、まず息が長い。ブレスが小さくほとんどどこで息をしているのか分からないくらいで、声量を自在にコントロールして息を長く続かせているようである。そのためか、歌唱法に独特の節回しがある。母音を長く伸ばす歌い方で全体のまったりとしていて、レガートを効かせる。南イタリアというか地中海的というか、のどかな感じもする。そして声質は、芯があって張りと艶がある。コロラトゥーラ系の超絶技巧を持っていても、声が軽くないのだ。だから情熱的な雰囲気がうまく出てくるのである。そしてハイFまで伸びる超高音域の、弱音からクレシェンドしていく驚異的なテクニック。世界一のソプラノさんに、Braaaava!!

 終演後は恒例のサイン会。とくに今回は2年ぶりのリサイタルということもあり、またその2年前の横須賀でのリサイタルをライブ録音したCDがリリースされたばかりなので、当然のように長い列ができた。その時のビアノ伴奏もグリマウドさんなので、今日は二人揃ってのサイン会である。横須賀でのリサイタルを聴いた私としては、躊躇うこともなくCDを購入して列に並び、お二人のサインをいただいた。それとは別にランカトーレさんのポートレートにもサインをしていただいた。相変わらず、元気で陽気でチャーミングなランカトーレさんであった。最後は残っていた人たちの間でミニ撮影会。サービス精神も旺盛で気さくなお人柄にBrava!である。



 ← 読み終わりましたら、クリックお願いします。

【お勧めCDのご紹介】
 本文でも紹介した、ランカトーレさんの最新CD「ランカトーレ・ライブ・イン・ジャパン2012」です。2012年4月21日、よこすか芸術劇場におけるリサイタルライブ収録したものです。当日演奏された曲目の中では、グリマウドさんによるピアノ ・ソロ2曲とアンコールの「サマータイム」以外の曲がすべて収録されていますので、あの日のリサイタルの様子がありありと伝わってきます。また、今日のリサイタルでの曲目の中では、グノーの「私は夢に生きたい」、ロッシーニの「約束」と「バッカス祭」の2曲、そしてアンコールの「初恋」が収録されています。ランカトーレさんのCDやDVDは、オペラやコンサートのものが多くリリースされていますが、リサイタルものは初めてなので、貴重な1枚になると思います。

ランカトーレ・ライヴ・イン・ジャパン2012
越谷達之助,ビゼー,グノー,グラナドス,ドニゼッティ,ラフマニノフ,ベルリーニ,ロッシーニ,トマ,グリマウド(アントニーナ)
オクタヴィアレコード

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 7/19(土)リヨン管弦楽団/圧倒... | トップ | 7/26(土)女神との出逢い/小林... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

クラシックコンサート」カテゴリの最新記事