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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

5/28(木)コンポージアム2015/サーリアホのオペラ『遙かなる愛』/緊張感に満ちた日本初演は大成功

2015年05月28日 23時00分00秒 | 劇場でオペラ鑑賞
東京オペラシティの同時代音楽企画「コンポージアム2015」
カイヤ・サーリアホの音楽
オペラ『遙かなる愛』(演奏会形式/日本初演/フランス語歌唱/字幕付き)


2015年5月28日(木)19:00~ 東京オペラシティ・コンサートホール A席 1階 3列(最前列) 19番 2,000円
作 曲: カイヤ・サーリアホ
台 本: アミン・マアルーフ
指 揮: エルネスト・マルティネス=イスキエルド
管弦楽: 東京交響楽団
合 唱: 東京混声合唱団
映像演出: ジャン=バティスト・バリエール
【出演】
ジョフレ・リュデル: 与那城 敬(バリトン)
クレマンス: 林 正子(ソプラノ)
巡礼の旅人: 池田香織(メゾ・ソプラノ)

 今年で第17回を迎える現代音楽のイベント「コンポージアム」。「武満徹作曲賞」の本選演奏会を中心とした企画だが、今年の審査員はフィンランド出身のカイヤ・サーリアホさんである(この音楽賞は毎回一人の審査員によって審査されるのが特徴)。本選演奏会は来る5月31日だが、それに先立ち、今日はサーリアホさんの話題のオペラ『遙かなる愛』の上演だ。東京オペラシティの主催なので、演奏会形式となるが、日本初演ということもあり、現代のオペラもけっこう好きなので聴いてみることにした。例によって最前列の席を確保、センターブロックの指揮者よりもやや右寄りであった。

 サーリアホさんについても、作品である『遙かなる愛』についてもチラシに記載されていること意外にはまったくの予備知識なしの状態で会場に入る。詳細な記述の載ったプログラムが配布されたので、ざっと目を通したものの、あまり頭の中には入ってこない。仕方がないので、成り行きに身を任せ、真っ白な状態で体験してみることにした。

 拡張されたステージにはフルスケールのオーケストラが展開し、最後列に打楽器群が並んでいる。登場人物は3名だけなので、ソリストとして、指揮台の下手側にはソプラノの林正子さんが、上手側にはメゾ・ソプラノの池田香織さんとバリトンの与那城 敬さんが立つ。譜面台と椅子が用意されていた。譜面台には小型の映像用カメラが取り付けられている。合唱団は40名ほどで、ステージ上ではなく、パイプオルガン下の2階P席に位置している。そのパイプオルガンを覆い隠すように、大型のスクリーンが設置され映像が映写されるようになっている。その両側に字幕装置が設置されていた。そして、ステージの両端をはじめとしてホール客席内にもスピーカーが配置されている。オーケストラにはマイクは見あたらないが、後列の打楽器と合唱にはマイクが備えられているようであった。そして3名の歌手はインカムタイプのマイク(ミュージカルなどでよく使われているタイプ)を装着していた。ミキサーのようなスタッフとサーリアホさんご自身は右ブロックの12列に陣取っていた。映像と音響の設備を見ても何かが起こりそうだが、一方で録音用のマイクは使われていないようだった。

 『遙かなる愛』は、サーリアホさんの最初のオペラ作品で、2000年のザルツブルク音楽祭で初演、成功を収めた。現代オペラの傑作のひとつということで、複数の演出で世界各地で上演されているという。15年を経ての日本初演は演奏会形式ではあるが、映像による演出付きである。
 物語の舞台は12世紀。フランスのブライユの領主ジョフレ・リュデルは、貴族階級の享楽的な暮らしに嫌気がさし、真実の愛を渇望している。そこへ現れた巡礼の旅人からトリポリ女伯クレマンスが理想的な女性だったと知らされ、まだ見ぬ女性に思いを寄せる。旅人が二人を結びつけ、リュデルはクレマンスに合うために十字軍に参加してトリポリに向かう。しかし船上で病に倒れ、トリポリに着いたときは死人のようであった。それを知ったクレマンスはリュデルを訪ね、彼を抱きしめる。互いに思いを告げるも、リュデルは神に感謝しつつ死を迎え、クレマンスは尼になった。・・・・・とまあ、だいたいこんなストーリー。『遙かなる愛』の原題は「L'Amour de loin」で「遙かなる」は文字通り「遠くから」という意味である。

 さて、肝心の音楽であるが、オーケストラを縦横に使ったものでなかなか雰囲気がある。いわゆる現代音楽なので、調性やら拍子やらは曖昧に終始し、不協和音が押し寄せてくるが、前衛的というわけでもなく、聴きやすい音楽ではある。歌唱が入って来れば、どうしても旋律線がはっきりしてくるので、現代風ではあっても分かりやい。原題音楽の難解な音楽理論などはまったく知らない世界なので、専門家でもない私などはただただ雰囲気を感じ取るだけ。それでもこの作品はオペラである以上、観念的・純音楽的ではなく具象的・標題音楽的であり、音楽全体で物語性を表現しているように思えた。管弦楽はナマの音を用い、打楽器と歌唱・合唱には一部電子的な加工を加えているようである。あるいは電子音も効果音のように加えられているのかもしれない。実際に聴いてみると、オーケストラの演奏と3名のソリストによる歌唱は、ナマの音である。私の席は池田さんと与那城さんの真正面なので、当然声はよく通っている。目の前のスピーカーからは打楽器系の音が弱めに聞こえてきている。ホールの後方席ではどのように聞こえていたのだろう。
 指揮者のエルネスト・マルティネス=イスキエルドさんはサーリアホさんの音楽に造詣が深く、演奏の経験も豊富らしい。左利きらしく、非常に珍しいことに左手で指揮棒を振り、右手で表情を付ける。歌手をうまく歌わせていたし、オーケストラのドライブではかなりメリハリの効いた演奏で、抽象的に聞こえやすい現代音楽を表情豊かに演奏していたように思う。

 3名の歌手について歌唱順に見ていくと、与那城さんは艶やかで張りのあるバリトンは相変わらず。難解な旋律を情感たっぷりに歌う。音程も正確だし、声量も十分。質感の高い歌唱である。池田さんは低い声に力感があり、重い声に迫力がある。二人の間に入って脇役的に位置づけになるが、しっかりと存在感を見せていた。林さんは、緊張感の高い歌唱で、強烈な押し出しを見せていた。高音域が突き抜け、悲愴感を強烈に主張する。旋律は現代風だが、情感ははっきりと伝わって来る。現代オペラとはいえ、旋律は非常に豊かであり情感を表現しているものなので、オーケストラ側の不協和音たっぷりの幻想的な雰囲気と3名の歌唱は明瞭な対比を創り出していて、やはりこれはオペラなのだと認識できる。3名とも素晴らしい歌唱であった。

 映像演出についても触れておこう。幕と場の進行に従って、雰囲気を伝えるようなやや抽象的な映像が映し出される。デジタル加工も含まれるもので、音楽に合わせて現在進行形でコントロールしているらしい。面白いのは、歌手の譜面台に取り付けられたカメラからのリアルタイム映像がスクリーの映像にデジタル加工されながらコラージュ風に合成されて映し出されるのである。映像のセンスも現代的だが、アート的な観点から見ても先鋭敵なデザイン感覚が面白かった。

 第1幕~第3幕が続けて演奏され、休憩を挟んで終了したのが21時30分。全5幕のオペラだけに結構長い。通しての印象は、かなり出来が良かったということだろう。オペラ作品としての出来映えは、音楽的には素人目に見てもけっこう分かりやすく聴き応えがある。音楽全体の緊張感が高く、キーンと張り詰めた印象で、聴いている私たちも筋肉が強ばるくらいである。東京交響楽団の演奏もなんだかとても上手く聞こえた。3名のソリストの歌唱も素晴らしく、日本のトップクラスの演奏家は世界でもトップクラスとして通用するのではないだろうか(言葉のハンディは若干あるとしても)。演奏が終わった途端に、林さんが緊張から解放されたのか、泣きそうな表情だったのが印象的だった。指揮者のマルティネス=イスキエルドさん抱き合っていたが、気持ちは良く分かる。カーテンコールで聴衆の拍手に応えるサーリアホさんの表情も満足げであった。日本初演も大成功ということだろう。

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【お勧めCDのご紹介】
 オペラ『遙かなる愛』のCD/SACDです。出演は、ダニエル・ベルヒャー(ジョフレ・リュデル)、エカテリーナ・レキーナ(クレメンス)、マリー=アンジュ・トドロヴィッチ(巡礼の旅人)。ケント・ナガノ指揮、ベルリン・ドイツ交響楽団とベルリン放送合唱団の演奏です。2枚組の輸入盤。
L'amour De Loin
Harmonia Mundi Fr.
Harmonia Mundi Fr.


 映像ものとしてはDVDが出ていますが、Amazonでの取り扱いはないようです。ピーター・セラーズの演出によるプロダクションで、2004年、フィンランド国立歌劇場での収録です。出演は、ジェラルド・フィンリー(ジョフレ・リュデル)、ドーン・アップショウ(クレメンス)、モニカ・グロープ(巡礼の旅人)、エサ=ペッカ・サロネン指揮、フィンランド国立歌劇場管弦楽団&合唱団の演奏です。輸入盤なので、字幕はフランス語、英語、ドイツ語、スペイン語のみ。日本語字幕はありません。

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