徒然なるままに修羅の旅路

祝……大ベルセルク展が大阪ひらかたパークで開催決定キター! 
悲……大阪ナイフショーは完全中止になりました。滅べ疫病神

The Evil Castle 2

2014年11月09日 17時11分49秒 | Nosferatu Blood LDK
「知ってるか? 普通の人間が想像するほど、人間の耳は曲がりくねった構造はしてない――このまま力ずくで押し込んだだけで、このドライバーの尖端は貴様の鼓膜を突き破って耳の内部に入り込む。実際に鼓膜が破れた経験はあるか? あれは痛いぞ――麻酔無しで歯をへし折られるのと、どっちがましだろうな?」
 アルカードはそんなことを言いながら、がたがたと震えている鶏山の耳の穴に差し込んだドライバーの柄を軽くひねった。その感触にことさらに恐怖を駆り立てられたのか、鶏山が悲鳴じみた声をあげる。
「知らない――知らない、本当だ! 本当になにも知らない! ただ、北に行くと――」
 それでは役に立たない。溜め息をついて、アルカードは少し強くドライバーを押し込んだ。
「あのな――ここが愛知だってのをわかって言ってるのか? 『北に行く』で、いったいどれだけの範囲が該当するんだよ」
「でも知らないんだ、本当だ!」
「そうか。じゃあもういい」 アルカードはそう告げて、ドライバーを鶏山の左耳から引き抜いた。それを足元に投げ棄てると、それを見て鶏山が安堵の表情を浮かべる。
「見逃してくれるのか?」
「ああ、逃げるがいいさ」 アルカードはそう告げて、それまで左手で持っていたもう一本のマイナスドライバーを鶏山の胸に右脇から刺し込んだ。肋骨の隙間から刺し込まれたドライバーの尖端が肺を貫き、ぎりぎりのところで心臓をかすめる。
 肺胞を傷つけられ、鶏山の口蓋から大量の赤黒い血がばたばたとこぼれ落ちる。ぼろぼろと涙をこぼし、身動きもままならないまま悶絶する鶏山に向かって、アルカードは続けた。
「――地獄へな」
 鶏山は吸血鬼ダンパイアとしてはたいして強くない――むしろ弱い部類に入る。
 吸血鬼は魔力を這わせていないただの器物による重傷を負っても、ごく短い時間で回復出来る――が、それには当然消耗を伴うし、致命傷を受けた場合には損壊の修復の最中に力を使い果たして死ぬこともある。あの思い出すのも忌まわしい、月が妙に美しかったあの夜、五百三十年前のワラキアの屋敷で、ヴィルトール・ドラゴスが生身のままで何人かの噛まれ者ダンパイアを殺した様に。
 異物を体内に捩じ込まれ、それを取り除けない状況では、弱い吸血鬼はまず助からない。
「……も――」
 蚊の鳴く様な声で、鶏山がうつむいたままなにかをつぶやく。
「……あ?」
「――よくも、よくもやってくれたなぁッ! この僕に! おまえ、僕が誰だかわかってるのか!? 大地主鶏山家のひとり息子だぞ!? 父さんは今度政界に出るし、僕は将来日本の首相になる男なんだ! 僕に逆らえる奴なんかいない――」
 アルカードはその声を無視して、足元に散乱していた硝子瓶の比較的大きめの砕片を左手で拾い集め、鼻をつまんで無理矢理開かせた鶏山の口の中に捩じ込んだ。
「うるせえ」
 そのまま拳を固めて、右フックを鶏山の顔面に叩き込む――口の中が思いきり切れてぼたぼた血を流している鶏山の胸倉を掴んで肥満気味の体を軽々と引き寄せ、
「てめえの身内なんぞ知るかよ、この馬鹿が。ああそうそう、ホテルにチェックインしたときに暇潰しで買った新聞に載ってたが、その親父は脱税容疑で捕まったぞ。週刊誌じゃ違法児童手当とかって散々馬鹿にされてるな――こんな黴臭ぇ廃墟に引き籠もってる暇があったら、少しは世間の情報を集めることを勧めるぜ」
 そう告げて、アルカードは掴んでいた鶏山の胸倉を放した――クレーンのフックと一緒にぶらぶら揺れている鶏山に背を向けて、アルカードはそこらに散乱している彼が殺した噛まれ者ダンパイアたちの衣服を拾い集め始めた。
 埃まみれになったそれらを適当に鶏山の足元に投げ出して、工場の入り口に向かって歩き始める。
 そのまま変電所の建物から出ていこうと――
 唐突に電撃を喰らって、アルカードは体を仰け反らせた。一瞬ではあったが強烈な電撃で全身に衝撃が走り、脚から力が抜けてその場に膝を突く。
「がっ!」
 鶏山の攻撃だ――驚いたことに、まだ魔術を操る余力が残っていたらしい。
「あはははっ!」 堪らず床に手をついたアルカードの背後で、電撃の魔術を解き放った鶏山が甲高い笑い声をあげる。
「本物の馬鹿だな、おまえ! 魔術使いを相手に背を向けるなんて――このまま黒焦げにしてやるよ!」
 馬鹿笑いしながら、鶏山がさらに電圧を上げた。どうも魔術は足先から放っているらしく、爪先から轟音とともにほとばしった電撃が蛇の様にのたくりながらアルカードを直撃した。
「ぐぁぁぁッ!」
「あはははは! ざまぁ見ろッ! 虫けら同然の人間ごときが、超越者になったこの僕に逆らうから悪いんだ! さぁ、死ね! 黒焦げになって死ねぇッ!」
 全身を電撃が這い回る激痛にアルカードが身をのけぞらせるのを目にして、鶏山がさらにヒステリックな笑い声をあげる。
「がああああ――ッ! ……なわけねえだろ」
 その言葉を最後に――平然と立ち上がったアルカードを見て、狐につままれたかの様に目をしばたたかせる。
「え――」
 だが鶏山が疑問の声をあげるより早くアルカードが投げつけたプラスドライバー――足元に落ちていたものだが――が彼の左目に突き刺さり、きょとんとした鶏山の声は激痛を訴える絶叫に変わった。
「その状態で魔術を使うほどの集中が出来るとは思わなかったぜ――だが残念だな、この甲冑は一定の水準を下回る魔術の効果を完全に抑え込む魔術製法が施されてる。グリゴラシュ・ドラゴスが相手ならともかく、貴様ごときの魔術なんざ屁でもねえよ」
 ま、甲冑無しの剥き身でもなんてことないけどな――アルカードはそう言いながらあからさまな恐怖に顔を引き攣らせている鶏山に歩み寄り、大腿に突き刺さったフレームに思いきり横蹴りを叩き込んだ。
 大腿骨の丸みでそれたフレームが押し込まれるままに肉を喰い進み、その先端が皮膚を突き破って内腿から飛び出す。
 激痛に再びのたうつ鶏山の視界にも入る様な動作で、アルカードは太腿の装甲の隙間に仕込まれた鞘から鎧徹アーマーピアッサーを引き抜いた。
 鉛筆をそうする様にくるくると回転させてから、針の様に細い短剣の鋒を鶏山の下腹に突き立てる――アルカードはじたばたと暴れる鶏山を無視して鎧徹アーマーピアッサーを引き抜いては突き刺し、鶏山の下腹部を滅多刺しにした。激痛に悲鳴をあげる鶏山の耳元に、
「てめえの言うとおりだ――人間なんざ弱っちいもんだ。吸血鬼になった今のてめえから見りゃ、簡単に踏み潰せる虫みてぇなもんなんだろうな、ええ?」
 左目に突き刺さっていたドライバーを引き抜き、滅多刺しにされた脚の傷のひとつにあてがうと、アルカードはドライバーを一気に傷口に突っ込んだ。
「――もちろん、俺にとってのてめえもそうなんだけどな」
 激痛に声をあげ、水揚げされた魚の様に全身をくねらせて悶絶している鶏山の表情を見下ろして酷薄に笑い、鎧徹アーマーピアッサーを唇の端に当てて、そのままベリッと音を立てて頬を引き裂く。
 鎧徹アーマーピアッサーははあくまでも刺殺用の短剣で、刀身が菱形の断面になっている関係上先端部分以外についている刃はさほど鋭くはない――身幅がほとんど無い刃にかかる負荷ストレスを軽減するために、かなり重ねを厚くしてあるからだ。
 結果鎧徹アーマーピアッサーの刀身の断面形状は正四辺形の対角の二点を少し外側に引っ張った様な、幅の広いほうの対角線と狭いほうの対角線の長さの差がさほど無い、四辺形に近い菱型になっている。エッジの角度もかなり鈍く、『刃』と表現するのがおこがましい様な代物だ。
 だから、当然頬を引き裂いたときも滑らかには斬れなかった――ペーパーナイフで封筒を切り開くのに近い。ただ単に肉を力ずくで無理矢理に引き裂いただけだ――刃物で切られるのとはまた違う激痛に、鶏山の絶叫が一音階跳ね上がる。
「そうさ、人間なんざすぐ死ぬ。でもな、手足をもがれても臓物を引きずり出されても、それでも生きてることもあるんだぜ? そういうときの人間の苦痛がどんなものか、てめえもちょいとばかり味わってみたらどうだ?」
 ずいぶんと大口・・になった鶏山の頬を血だらけの短剣の刃でぺしぺしと何度か叩いてから、おもむろに手を翻して逆手に握り替え、アルカードは鎖骨と肩甲骨の間から鎧徹アーマーピアッサーの鋒を刺し入れた。
 鶏山のあげる悲鳴が、一音階跳ね上がる――引き抜いた鎧徹アーマーピアッサーの鋒を今度は腹に何度も何度も突き立てて、アルカードはくつくつと笑った。
「すげえなぁ、さすが超越者。ほんとに死なねえぜ」
 気を失うことも出来ないまま絶叫する鶏山の視線を捉えて目を細め、鎧徹アーマーピアッサーを体温計みたいにピッピッと振って血糊を振り払ってから鞘に戻す。アルカードは代わりに右脛の側面に固定した鞘から心臓破りハートペネトレイターを引き抜いた。
 刃渡り二十センチ強、格闘戦用の幅広の刃を備えた短剣の鋒を、鶏山の胸元にひたりとあてがい――胸骨をぶち抜く音とともに、一気に胸郭に刺し入れる。
 アルカードは鶏山の悲痛な絶叫を無視して手にした心臓破りハートペネトレイターの刃の背中に手を添え、短剣を縦に斬り回した。完全に縦に割り開かれた腹筋の裂け目からこぼれ出す内臓を見下ろして、踵を返す――ショック状態に陥って細かい痙攣を繰り返している鶏山に背を向けて、アルカードは変電所の建物から出た。
 鶏山がここに来るのに使ったと思しいぼろぼろの原付が、出入り口の横に止まっている――そのそばにはアルカードがここに来るために用立てたレンタカーのバンも止まっていたが、まあそちらはどうでもいい。
 なんともタフなことにもういくらか意識の戻りかけていた鶏山が、アルカードが原付を押して入ってきたのに気づいてこちらに視線を向ける。
「なにも知らねえってんなら、これ以上おまえに用は無い」 鶏山の足元で山になった衣類のそばに原付をその場に蹴り転がすと、アルカードは原付の外装カウルの上から車体に心臓破りハートペネトレイターの尖端を突き立てて、燃料タンクにいくつか穴を開けた。
 漏れ出したガソリンが彼の足元で山積みになった衣類に染み込んでいくのを目にして、こちらの意図を悟った鶏山が表情を引き攣らせる。それを無視して、アルカードはバンの荷台から引っ張り出したでかいトラベルバッグを変電所内に運び込んだ。
 取り出したいくつかの二キロ入り米袋くらいの大きさの袋を、適当にそこらに放り出す――ローマ法王庁大使館が極秘に用立てたアメリカ軍仕様のC-4可塑性爆薬に極小サイズのリモート信管を突き刺してその袋の下に置いて、アルカードはついで別のC-4爆薬の塊を取り出してリモート信管を突き刺した。
 鶏山の腰のあたりを掴んで逃げられない様に固定し、腹筋の裂け目からこぼれ出した内臓の代わりに、手にした塊を腹腔の中へと無理矢理押し込む。
「テルミット反応ってのを知ってるか、くそ坊主?」 血の泡を噴きながら痙攣している鶏山に視線を向けて唇をゆがめ、アルカードは周りを見回した。
「こうも窓が割れてて密閉性が無いんじゃ威力も半減するだろうが、この戦闘の痕跡を消すにはこれで充分だろ」 そう告げて、ポケットから取り出した百円ライターでまだガソリンで濡れていない衣類の一枚に火をつける。
「日本警察と俺たちの意見は、おまえらの存在を隠蔽するという意味で一致してる。廃墟になった変電所で原因不明の爆発が起こるほうが、シナリオとしてははるかに楽だ。その中で貴様の死体も発見されるだろうが、まあせいぜいリンチ殺人だと判断されるのが関の山。司法解剖にも手が回って、身元不明の死体ジョン・ドゥがひとつ増えるだけ――そのほうが楽だから、爆弾マニアのガキがテルミットの実験をしようとしてしくじったことになるかもな。どのみち、おまえさんが実家の墓に入ることは無い」
 化学繊維の燃える黒い煙をあげ始めた化繊のTシャツを鶏山の足元に放り棄てると、蒸発したガソリンに引火してボッという音とともに一気に燃え上がった。
「……!」
 足先を直火で焼かれ、再び意識を取り戻した鶏山がなんとか逃れようと体をくねらせる――だが無駄なことだ。両腕にはすでにどこかの誰かが持ち込んでいたバーベキュー用のステンレスの串を数本貫通させてある――上腕二頭筋と上腕三頭筋をまとめて貫通する形で突き刺してあるため、串が筋肉の伸縮を阻害して腕を曲げることが出来ない。体を引き上げることさえ、激痛と串が邪魔をするので不可能だ。
 アルカードは声にならない悲鳴をあげている鶏山に背を向けて女子中高生たちに歩み寄り、変電所の片隅に寄せ集められた半ば腐敗しかけた遺体のそばにかがみこんだ。
 人間が吸血によって殺害された場合、喰屍鬼グール噛まれ者ダンパイアになりうる遺体は決して傷まない。逆に言えば死斑の浮き出てきているこの少女たちの遺体が、喰屍鬼グール噛まれ者ダンパイアになる可能性は無い。
 内腿に乾燥した血や白い沁みのこびりついた痕跡のある者もいる少女たちの遺体を、アルカードはひとりずつ変電所の建物の外に運び出した。蘇生する可能性のある遺体なら仕方が無いが、そうでないのなら弔いくらいはしてやるべきだ。
 遺体をすべて運び出すと、アルカードは一端をつままれたミミズの様なダンスを踊っている鶏山に視線を向けた。いまだ無様なダンスを踊っている鶏山を見て鼻を鳴らし、手にした百円ライターを炎の中に投げ込む。
 両脚の肉が焦げる嫌な臭いを漂わせてなんとか熱から逃れようと暴れながら助命の懇願を込めてこちらを見ている鶏山に、アルカードは肩越しににやりと笑ってこう告げた。
「ゆっくり味わえよ――てめえの体が焼け爛れるのをな」
 パンという破裂音が聞こえてくる――百円ライターが破裂したのだろう。ぴっと適当に指を振って、アルカードは歩き去った。

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