「もののあはれ」の物語

古き世のうたびとたちへ寄せる思いと折に触れての雑感です。

早春賦

2006年02月14日 | 歌びとたち
はるーは、なのーみの かぜーのさむさや♫と始まるこの歌は、昔から女学生たちの愛唱歌として歌われてきました。

 大正時代の小学唱歌らしいのですが、この季節に決まって想い出しては口ずさみます。「春は名のみの風の寒さや 谷の鶯歌は思へど 時にあらずと声も立てず 時にあらずと声も立てず

 寒い冬からようやく開放されようとするこの季節は、古来多くのよろこびの秀歌を生んできました。

 朝嵐 外面(そとも)の竹に吹き荒れて山の霞も春寒きころ  風雅集 永福門院

 春の色はまだ浅けれどかねてより緑深くも染めてけるかな   新古今集

 春の雪つもるが中のうるみかな  滝川

  早春賦では三番の歌詞が「お気に入り」です。
春と聞かねば知らでありしを 聞けば急かるる胸の思ひを いかにせよとのこの頃か いかにせよとのこの頃か

 この季節は、別れの季節、変化の季節でもあり、“聞けばせかるる胸の思い”は、長い道のりを歩いてきた者にも生きることの意味が身に沁みる季節です。まして進学や就職、あるいは人事異動や退職、そして結婚と、人生の岐路にある若い人には感慨も一入でしょう。



”早春賦” 作詞 吉丸一昌  作曲 中田章