竹林の愚人  WAREHOUSE

Doblogで綴っていたものを納めています。

日のないところに書け無理絶えず

2007-06-15 05:40:38 | BOOKS
森 博嗣 「モリログ・アカデミィ3 日のないところに書け無理絶えず」 メディアファクトリー 2006.09.21. 

基本的にいえることは、読者が作家よりも保守的である。それから、酷評される本の方が結果的に売れる傾向にあるように感じる。新しいものを出せば、古いものを知っている人は反発する。しかし、作家は料理を出す店ではない。料理を出す店は美味い料理を良く作り続ければ、何度でも同じ客が来る。しかし、作家が作るものは基本的に1度だけで、いつまでも商品は古くならない。エラリイ・クイーンもアガサ・クリスティも今は新作が出ていないが、「もう駄目になった作家」ではない。作品の味は衰えないのだ。 出版社の締切がファジィで困る。この日と決まっていなくて、第2、第3の締切があって、最終締切、のあとに本当の締切、さらに、もうぎりぎりここまでしか待てない締切、そのあとにも、絶対に金輪際あとがない締切、本当に本当の最終締切、ロイヤルストレートフラッシュ締切、とどんどん後ろへ延びていく。 誤植の修正、禁則処理をもう少し合理的な方式で進められないものか、と理系の人間は考えてしまうが、努力を重ねることが大事との信念を文系の人は持っているようで、労力を投じることに意義がある、という思想なのだろう。そんなこと、プログラムで処理すれば良いはずなのに、出版界では残念ながらこの処理ができない。 また、不思議なことに自分が書いた本のテキストデータを自分で持っていない。最初の原稿は手元にあっても、ゲラ校正で直した結果の最終原稿がデジタルテキストとして持っておらず、印刷された本しかない。プリンタで紙に印刷したら、もとのファイルを消去してしまうのと似ている。多くの作家、多くの編集者がこのシステムでこれまでやってきて、大きな問題が起きていないのだから驚嘆である。ただ、不合理な点があることは確かだし、改善すれば、出版界の利益率が上がると予想されるのだが。