Biting Angle

アニメ・マンガ・ホビーのゆるい話題と、SFとか美術のすこしマジメな感想など。

R・A・ラファティ『第四の館』

2013年07月02日 | SF・FT
私が最も偏愛する作家のひとりが、奇想SFの書き手として一部ファンから熱狂的な支持を集める
R・A・ラファティなんですが、このヒトは短編を書かせたら名手と呼ばれる一方で、長編になると
ナニが書いてあるんだかわからない!とも言われるヒトであります。

そんなラファティ先生が2002年に亡くなってから(私は死んでないと思ってますが)10年を経て、
なんと未訳の長編が2本、さらに単行本未収録の短編を集めた傑作集が1冊出るという怪事件が発生。
短編集の『昔には帰れない』は既に紹介したので、今度は連続刊行のトリを飾ったラファティ初期の傑作、
国書刊行会〈未来の文学〉から刊行された『第四の館』をご紹介します。



アメリカの片田舎に、すごく目がいいけどちょっとオツムの足りないフレディという青年新聞記者がいました。
このフレディが、ひょんなことから政府要人カーモディの秘密を探り始めたのがすべてのはじまり。
この男、どう見ても500年前にイスラム世界で生きていたカー・イブン・モッドという人物に瓜二つ、
いやまるで本人そのものに見えるじゃないか?

それを探った記者は必ず消されるぞ!という上司のアドバイスにも耳を貸さず、フレディ青年は
カーモディのネタを嗅ぎまわり、やがて町の事情通であるファウンテン老人や変人のバグリーから
世界の秘密の泉を守る「守護者」や、歴史の中で蘇りを繰り返す「再帰人」の存在を聞きだします。

そんな考えをフレディのアタマの中に吹き込んだのは、再帰人たちと対抗する七人組にして、
フレディの恋人ベデリア・ベンチャーもその1人である「収穫者」と名乗る精神感応者たちでした。
七人組は編み上げた脳波網でフレディに接触し、彼を操ってカーモディを探ろうと企んでいたのです。
しかしこの網に触れられた者は、網とつながった他人の考えにも接触できるという反作用がありました。
フレディは脳波の網を逆に利用して、同じく網に絡めとられたメキシコ人革命家のミゲルと接触し、
彼と意識を共有しながら再帰人のカーモディへと迫っていきます。

命の危険を顧みずテレパシー実験を繰り返す「収穫者」、別人と入れ替わりながら復活する「再帰者」、
人知れず世界の秩序を保とうと奮闘する「守護者」、そして世界を転覆させようと立ち上がった「革命家」。
それぞれに聖なる四つの生物を象徴する四つの勢力と接触し、世界の広さと深さを知ったフレディですが、
ついに再帰者のワナにかかって精神異常と診断され、あわれ収容所送りに。
一方、再帰者たちは密かに大規模な世界絶滅計画を練り上げ、まさにこれを実行に移そうとしていました。

この絶体絶命の状況を覆す手段はあるのか?収容所に閉じ込められたフレディの運命は?
そして四つの勢力が目指す神の領域への入口「第四の館」には、いかにして辿り着けるのか?

テーマそのものはズバリ「人間はいかにして神になるのか?」という進化SFであり、また一方では
世界そのものを新たにやりなおそうとする破滅SFでもあります。
しかしそれを企む連中がなんとも珍妙で、収穫者はテレパシー接続中にいきなりアタマをカチ割り始めるし、
再帰者は塩水入りの水槽にアタマを突っ込み、守護者は泉に潜む触手怪獣をぶん殴り、革命家は辺境の町で
みみっちい小競り合いを繰り返しては退却を繰り返すというしまりのなさ。
こんなろくでもない秘密結社が繰り広げる争いの顛末については、実際に読んで確かめてみてください。

話のムチャクチャさ加減と暴力性、そして言語によって紡がれるサイケデリックなビジュアルについては、
あのベスターの怪作『ゴーレム100』を思わせるところもありますが、話の筋はあれよりしっかりしてて、
アクション性はゴーレムよりも少なめ。あとさすがにタイポグラフィは出てきません(笑)。

では『第四の館』ならではの魅力は何かと言えば、海外の諷刺コメディ番組っぽい会話の面白さとか
言葉にするだけでもへんちくりんなしぐさ、そして予想を越えるヘンな展開といったところかなぁ。
ノリとして一番近いのはやっぱり「モンティ・パイソン」ですかね・・・まあラファティは敬虔なる
カトリック信者なので、ネタの下品さだけは負けますけど(笑)。

タイトルになっている『第四の館』にちなむ宗教小説としては、書きぶりこそなかなかマジメだけど
こんなやり方でちゃんと神様に近づけるんだろうか・・・と半信半疑なところもあります。
ただし、そのうさんくささ満載の中に「ひょっとしてこれホントの話?」と思わせるような
奇妙なリアリズムもちらちらと垣間見せるのが、ラファティ作品のおもしろくも怖いところ。
そういう時に絶大な効果を発揮するのが、彼の得意とした言語と歴史についてのうんちくです。
随所に盛られたこれらのうんちくと時おり語られるもっともらしい解説が、ウソとホントの境界線を
知らず知らずにぼやけさせ、気がつけば見たこともない場所までつれて来られてしまっているのです。
この快感は慣れてくると病み付きになりますが、中毒性が高いのでご用心(笑)。

あとはひとつだけ、大切なご注意を。
『第四の館』を読み終えた後に、もしやラファティは堕落した人類にわずかなチャンスを与えようと、
わかる者だけにわかる形で秘密の叡智を書き記したのでは・・・などと間違っても口走らないこと。
アナタもおかしくなったと思われて、いきなり収容所へ送られてしまうかもしれません(^^;
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« SFセミナー2013に行ってきま... | トップ | 7月7日は『トップをねらえ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿