Biting Angle

アニメ・マンガ・ホビーのゆるい話題と、SFとか美術のすこしマジメな感想など。

奇跡の降臨が連発!『ゴーレム100』トークショー

2007年07月07日 | SF・FT
三省堂書店で行われたトークショー「ゴーレム降臨!アルフレッド・ベスターに学ぶSF史」に
行ってきました。
SF作家アルフレッド・ベスターの最強/最狂作と名高い『ゴーレム100』の出版を記念して、
特殊翻訳家・柳下穀一郎氏と、「日本のデビッド・リンチ王」こと評論家の滝本誠氏による
ベスター談義が行われるという企画です。
(ちなみに『ゴーレム100』と書いて「ゴーレム百乗」と読みます。念のため付記。)

受付で本を受け取って会場に入ると、客席はおよそ八分どおりの入りといった感じでしたが、
翻訳者の某氏や評論家の某氏など業界人の顔がちらほら。
他にもいっぱい関係者が来てたんでしょうけど、素人の私にはわかりません。
やがて柳下氏と滝本氏が入場し、柳下氏の司会でトークショーがスタート。
冒頭で滝本氏からリンチの『ロスト・ハイウェイ』とベスター『ゴーレム100』の共通項として
「性的な遁走(フーガ)」というキーワードが提示されましたが、他は翌週に控えた別イベント
『インランド・エンパイア』トークショーに回すということで、リンチネタはこれで終了。
続いて滝本氏のプロフィールとSFとの関わりが、氏が雑誌『クロワッサン』の草創期に書いた
コラムの写し(内容が日本でブレイクする直前のディックにル・グィンのゲド戦記、さらには
ディレーニィという濃すぎるラインナップ)や、代表的著書『きれいな猟奇』からの引用により
説明され、滝本氏がかつてマイナー誌でディックの翻訳連載をやっていた(残念ながら未完)
というエピソードまで披露されました。
ちなみに滝本氏はディック・ブームが終わったあたりでSFを読まなくなってしまったそうです。

その後は滝本氏のSF読書歴を巡る逸話(きっかけはブラッドベリの短編だったとか、喫茶店で
ディック作品やゲド戦記を読んでいると女性に逆ナンパされる時代があった(!)とか・・・)や、
今は亡き黒丸尚氏との交流(喫茶店で『ダールグレン』の原書を読んでいると、黒丸氏が来て
「そんなモノ読んでるのか」と言われたらしい)、現在絶版中のベスターの名作『虎よ!虎よ!』
(アニメ『巌窟王』の元ネタですな)の魅力へと話題が移り、これが今読めないのはどう考えても
おかしいだろう、という話から未訳作品の紹介も絡めたベスター分析と『ゴーレム100』の感想へ。
ベスターの良さは会話文の巧みさであるとか、突き詰めてみるとどの作品も実はラブコメだとか、
しかし『ゴーレム100』の場合はそんな枠組みを食い破ってくるようなすごさを感じるなどの話が
次々と語られました。
編集者出身の滝本氏は、タイポグラフィ等も含めたベスターの「編集センスのよさ」を指摘され、
これにはメジャー誌の編集者同士ならではの共感覚めいたものを感じさせられました。

柳下氏によれば、ベスター作品は未訳SFの『The Decievers』もおもしろいし、芸能界の裏側を
ベスター流のしゃれた会話文で書いた普通小説の『The Rat Race』や『Tender Loving Rage』も
傑作なので、ぜひ訳されて欲しいとのこと。
滝本氏は『ゴーレム100』の翻訳について、訳者の渡辺佐智江氏の文章を賞賛し、そのついでに

「どの作品かは忘れたけれど、むかし渡辺さんのエロ語満載の翻訳を誉めた書評を書いたら、
編集長に激怒されて他の仕事まで下ろされた。あの記事は自信があったのに」

という秘話まで明かし、場内は大爆笑でした。

これを機に『ゴーレム100』翻訳者の渡辺氏が登場、続けて翻訳に協力した若島正氏、さらには
熱い解説を書いた山形浩生氏まで参加し、出版界の先端を担う顔ぶれが一同にそろうことに。
若島氏は自分をSFに引き込んだ原体験は20歳の頃に『虎よ!虎よ!』を読んだことだと語り、
ベスターは自分にとって非常に大事な作家だということを強調されてました。
渡辺氏は翻訳中に頭の中で「とっとこハム太郎」の曲が延々と鳴りつづけて辛かった話や、
ラストの文体がジョイスだと気づいて「これならやれるんじゃないか」と感じたこと、脱稿までに
なんと45日しかかからなかったという逸話などを披露し、客席の爆笑と驚愕を誘っていました。
山形氏は自分でも『ゴーレム100』を訳しかけたものの、最終章を読んで「今の俺には無理だ」と
あきらめたそうで、客席に配られた原文のコピーを見て一同納得。
なるほど、こりゃ英語が読めない人でも気づくくらいの異常っぷりです。
その異常な作品を手がけた渡辺氏の訳文については、トーク参加者の全員が異口同音に
「見事な訳文で、しかも原文にこのうえなく忠実」と手放しで絶賛していました。

最後に各出演者からひとことずつコメントがあり、皆さん口々に『ゴーレム100』が訳出された事への
感慨を述べておられました。
この偉業を達成した渡辺氏本人からは
「今まで人に待たれる作品というのを訳したことがなかった(場内爆笑)けれど、今回『ゴーレム100』を
訳してみて、人に待たれる本というのがあるのだと初めて実感しました。」
という、いろんな意味で泣かせるコメントが。
最後に柳下氏が
「この本が売れないと『未来の文学』に未来はありません。ぜひ他の人にも薦めてあげてください。」
と締め括りました。
後半に人が増えたせいで滝本氏の発言が減ってしまったのは残念でしたが、今後この顔ぶれで
しかもベスター絡みのトークショー(おまけに無料)が見られることは、多分ないだろうと思います。
これもゴーレムのご利益ということでしょうか。まさに奇跡の体験でした。

トーク終了後に、渡辺氏と滝本氏からサインをいただきました。
渡辺氏はこの日のためにわざわざ手づくりの「愛のGスタンプ」を持参、ひとりひとりに押した上で
丁寧にサインをしておられました。
(しかもこのスタンプ、本の表紙のGマークとおそろいなのです!)





滝本氏からは最新著書の『コーヒーブレイク、デビッド・リンチをいかが』にサインをいただきました。
次は未完だったディックの翻訳を・・・などと期待したりして(笑)。




サインの最中には少しお話もさせていただきました。
お二人とも親切に応じていただき、本当に感謝しております。ありがとうございました。
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