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Biting Angle

アニメ・マンガ・ホビーのゆるい話題と、SFとか美術のすこしマジメな感想など。

塩田雅紀展~そして、微在汀線の向こう岸へ

2010年07月12日 | 美術鑑賞・展覧会
7/10まで開催されていた塩田雅紀氏の個展を見るため、再び青山まで行ってきました。
(ちなみに個展名はシンプルに「塩田雅紀展」。サブタイトルは特についていません。)

塩田氏は一流作家の装画も数多く手がけた、いま注目される描き手の一人。
音楽方面ではスキマスイッチや平井堅とのコラボレーションなど、組んだ相手の持ち味を
存分に引き出しつつ、独自の個性も感じさせるという優れた画風をお持ちの方です。
(経歴等について、詳しくはご本人のホームページをご覧ください。)

今回の個展はそんなコラボ系の仕事を集めた内容に、今回のための新作を加えたもの。
期間は7/5~7/10と短かったのですが、塩田氏が表紙を手がけた「廃園の天使」シリーズの
飛浩隆先生によるTwitter告知のおかげで、なんとか見逃さずにすみました。

こじんまりとした会場の中には、見慣れた作品の装画がズラリ。
カズオ・イシグロ「夜想曲集」、ル・グィン「なつかしく謎めいて」、そして飛先生の
「グラン・ヴァカンス-廃園の天使〈1〉」などが展示されてました。

そして書店で見慣れた表紙絵たちも、実物を見ると感動の度合いが全然違います。
書籍の装画として収まっている時に比べ、実物の絵はずっと強い生気を放っていて、
見る者をひきつけて離さない力がありました。
描かれている人物の躍動を一瞬に切り取る手際、立体的に描かれた造型のおもしろさ、
色の微妙なグラデーションなど、実物を仔細に見ることで気づく点も多かったです。

そして特に興味深かったのが、画面に見える掻き落としのような刷毛目模様。
実物の絵を見ると、これが作品に適度な凹凸を与えており、画面に油絵のような
厚みと陰影、そして表現の面白さを加えているのがわかります。
会場で塩田氏ご本人に伺ったところ、これは下地処理に自作の特殊な刷毛を使い、
このような模様が出るように工夫しているとの事でした。

一方、今回の個展向けに描かれたという二点の新作には、その刷毛目がありません。
やはり塩田氏のお話によれば、これまでの装画のイメージと違うものを目指そうとして、
こちらではあえて刷毛目を使わずに描いたとのこと。

錆びの浮いた観覧車に乗っているパンダらしきキャラクターを描いた作品からは、
なんだか石田徹也の絵を連想しました。
アオリで見る頭上には灰色の空、そしてぼんやりと爆撃機のような機影が浮かびます。
唯一派手な色で光るホイール部のネオンも、むしろ絵の不吉さを高めています。

もう一つの新作に描かれたのは、オレンジ色のケーキみたいな山を登るスーツ姿の男。
彼が押している自転車の荷台には、テレビのカラーチャートを写した紙芝居が載っています。
私には幻想的な表現の中に、現実への諷刺が巧みに織り込まれていると見えました。

優しさや懐かしさの裏に見え隠れする痛みや喪失感、そして得体の知れない不安。
一枚の絵にブレンドされたこれらの要素が、見る者の気持ちを強く揺さぶり、あるいは
静かな昂揚感を感じさせてくれるように思います。

今後は装画に加えて、一般絵画の発表も増えてきそうな塩田氏。
そちらの仕事にも注目しつつ、引き続き「廃園の天使」シリーズの装画も
描き続けて欲しいと願っております。

まあそのためにも、飛先生のシリーズ新作が待たれるのですが・・・(笑)。

以下は個展で購入したおみやげたちです。

上段は「天の光はすべて星」の複製画を額装したもの。
紙箱にも塩田氏のオリジナルラベルが貼ってあります。
限定5部ということで、右下には作者の自筆サイン入り!
下段はこれまでの作品を紹介したミニパンフレットと、複製画のしおりです。
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