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Biting Angle

アニメ・マンガ・ホビーのゆるい話題と、SFとか美術のすこしマジメな感想など。

八王子夢美術館「押井守と映像の魔術師たち」

2010年07月18日 | 美術鑑賞・展覧会
八王子夢美術館で「押井守と映像の魔術師たち」開催初日に見てきました。

会場はビルの2階。入口には大型の案内パネルが鎮座しています。


そして中に入ると、それより大きいバセット犬のタペストリーがドーン。

これは舞台「鉄人28号」のセットで使用したものだとか。

そういえば入口に、見慣れた名前のついたお花が届いてましたねぇ。


今回の展覧会ですが、告知されてる情報も少なくて展示内容もよくわからないため、
行く前はタカをくくっていたところがありました。
しかし実際に内容を見てびっくり。全部を網羅しているわけではないけれど、これは
現時点まで押井守が関わってきた映像関係の仕事を回顧する一大企画ですよ。
熱烈な押井ファンとはとても言えないような私でさえ「こりゃー見応えあるわ」と
思うんだから、押井監督とその作品を敬愛する人は必見の展覧会でしょう。

さて、ここでいくつかご注意を。
今回は「造形を中心に展示したい」との押井監督の意向もあり、映像については
ロビーで流れるPVのみ。残念ながらガルム戦記の映像はありません。

また出展物は設定画やアイテム類が主体、そして絵の一部はデジタルデータからの
写真製版です。
いわゆるセル画とか美術ボードとかの製作資料がゴロゴロ出てくる「お宝公開」を
期待している人は、たぶん肩透かしを食うことでしょう。
(まあガルム関連のアイテムだけでも、好きな人には十分なお宝ではありますが・・・。)

でもよく考えると、セルや原画を全部所蔵できるスペースと管理体制を持ってるのは、
いわゆるジブリなどの特別なところに限られるはず。
しかもデジタル製作が主体となった現在においては、そういう生資料は現場から
どんどんなくなっていくんだろうと思います。
そういう視点から今回の展覧会に出てきた品々を眺めるとき、むしろ
「押井作品関連について、よくこれだけあちこちからかき集めたもんだなぁ」
という感慨さえ覚えてしまいました。

逆にそのへんの価値に意義を見いだせない人(つまり押井作品に思い入れの薄い層)は、
むしろ行く必要はないかも・・・とも言っておきましょう。
今回の展示は、関連資料から発想の原点や世界観の構築について読み解くのが主眼。
つまり押井作品を別の視点から「鑑賞する」という主体性が求められます。
展示物の一つ一つは、いわば押井作品の原点をなすパーツでもあり、また製作過程の
貴重な記録でもあるのです。

なんかハードルの高そうなことを書いてますが、要は受身で見るもんじゃないよという話。
ひとつふたつお気に入りの押井作品がある人なら、きっと喜んでもらえる内容だと思います。

さて、続いては展示内容を順路に沿ってご紹介。
美術館で展示リストを作っていないので、わかる範囲で書き留めてきたものです。
完全版とはほど遠いですが、鑑賞の参考にでもしてください。

●押井監督からのメッセージ入りサイン
●押井監督が初めて買った16mmカメラ
●イノセンス
 直筆イメージラフ(押井氏・黄瀬氏)、3Dアートパネル、複製設定画、
 直筆設定画(黄瀬氏・西尾氏)、原寸大ガイノイド、資料に使用した人形類、
 バトーのショットガン模型、プロモ時に監督の持っていたバセットぬいぐるみ、
 ガイノイド等のフィギュア(竹谷隆之氏、鬼頭栄作氏によるもの)
●アニメージュに寄稿した原稿(押井氏直筆)
 イラスト3点(宮崎駿氏と金田伊功氏?を描いたものが各1点)、
 宮崎氏を描いたギャグマンガ「恐怖の巨大タクワン石頭」直筆原稿
●天使のたまご
 絵コンテ(少女が卵を抱くシーン、巨大魚の影を追う人々)
 なお完成品ではこんなシーンになります。
 
●トーキング・ヘッド
 絵コンテ、バス停の看板
●ケータイ捜査官7「圏外の女」
 お七の抱いていた看板犬、 小道具の瓶ビールと缶ビール(バセットのラベルつき)
 ちなみにTV放映を見た私の感想はこちらです。
 
●立喰師列伝
 ネズミ頭のかぶりもの(フランクフルトの辰こと寺田克也氏が被ったもの)、
 電柱の模型、劇中に出てきた架空書籍(55冊)、
 アニメ「荒野のトロツキスト」LDジャケット
 
●ケルベロス-鋼鉄の猟犬
 1/6ジオラマ「Dar Endkampf」(7/27日より展示)
●ケルベロス-地獄の番犬
 撮影用ヘルメット、撮影用プロテクトギア
●人狼
 複製設定画、直筆設定画(西尾氏、平松氏?(〇にひのサインあり))
●攻殻機動隊
 複製設定画、セル画4種(女性、男、バセット2種)
●めざめの方舟
 汎のミニチュアフィギュア、監督が現場でかぶっていたヘルメット、
 六将のうち青鰉・百禽・狗奴
●劇場版パトレイバー1・2
 複製設定画
●アヴァロン
 出演者衣装(ジル・ゴースト・マーフィー・スタンナ・ビショップ)
 ライフルスコープ2種(ポーランドで購入)、改造キーボード4種、
 IDカードとリーダー、壊れたマイク(射撃音を撮ろうとして、押井監督が誤射)
●G.R.M. THE RECORD OF GARM WAR(ガルム戦記)
 直筆メカニック設定画(巡洋艦イムラヴァ、3枚)竹内敦志氏によるものか?
 イムラヴァ ブリッジのギミック模型2種(操舵手?)
 艦船フィギュア(巡洋艦イムラヴァ、航空母艦コロンバ)
 空母艦載機フィギュア4種(実演用・雷装形態・コクピットオープン・巡航形態)
 人物フィギュア4種(ダーナ(巨人)・コルンバ(2種)・クムタク・ドルイド ナシャン666・ブリガ)
 甲冑(ブリガ・コルンバ)
 戦車フィギュア
 ナシャン天使形態フィギュア
●海外での取材写真(撮影:樋上晴彦氏)
●スカイ・クロラ
 複製設定画
 直筆絵コンテ(スイトとユーイチの出会い・本部訪問)
●アサルトガールズ
 グレイの衣装、カーネルの銃(銃は監督の私物)


●宮本武蔵 -双剣に馳せる夢-
 複製設定画・レイアウト
●舞台「鉄人28号」
 犬のパネル、鉄人の操縦機

なおサイン等がなく描き手を特定できない、またはサインが読めない設定画もありました。

直筆画はさほど多くはないものの、やはり生の線は見ていて気持ちが高ぶります。
天たまの直筆絵コンテなんて、よく残ってたなぁと思いますし。
人狼の設定画にはしっかり「ジバクちゃん」と書かれてて笑っちゃうし、
ケータイ捜査官の看板犬にはTVでのムチャっぷりを思い出してしまう。
まあその危なっかしさも、実は押井作品の持ち味だったりするのですが。

そして個人的に大ヒットだったのは、大好きな立喰師列伝に出てきた書籍類でした。
「予知野屋襲撃」「予知野屋解体」「カレー屋襲撃」「ハンバーガー襲撃」などなど、
よくもこれだけ当時の流行書をパロった書籍を考え出したものです。

LD「荒野のトロツキスト」も、戦闘美少女にパンチラという80年代アニメのお約束を
しっかりと盛り込んだデザインですね。(なお監督「丸輪零」も、押井監督の別名)
ここにも『立喰師列伝』の特徴である「時代への批評」と「自虐性」が明確に表れています。
またこの作品が、私にとって最も「押井守的な映像体験」であったという話については、
以前DVDで見たときの感想にも書いたところです。

そして大量の設定画に描かれた綿密なデザインと細部にわたる執拗な考証から見えてくるのは、
押井作品の世界観が多くのスタッフによって構築され、一つの作品へと形づくられていく過程。
逆に言うと、設定と考証の物量にストーリーが覆い隠されてしまうきらいもあるとは思いますが、
それもまた押井作品らしいところかもしれませんね。
(やや甘い見方ですが、そういう傾向の作家であることは納得の上で見るべきかと・・・。)

それにしても残念なのは、押井組の集大成にして頂点となるべき作品である『ガルム戦記』が、
今もなお未完成であるという事でしょう。
しかし今回の展覧会では、その世界観を形成する重要な品々を直接目にすることができます。
フィギュア類も衣装も、デザインや造型面について非常に高いレベルで練り上げられており、
確かに「これが実際に映像化されたら、さぞすごかろう」と思わせるだけのイマジネーションを
強烈に感じさせるものでした。
悔しいことに現時点では、この展示品から完成映像を想像するしかないのですが・・・。

押井作品にある程度接していること、多少でも自分なりのこだわりがあることなど、
やや見る人を選ぶ展覧会ではありますが、これだけまとまった形で「押井守と同志たち」の
数々の仕事を振り返る機会は、今後そうあるとは思えません。

そして押井監督自身も、こんなメッセージを寄せています。

「もう二度と出来ません。お楽しみ下さい。」

八王子での展示は2010年7月16日~9月5日まで。
開館時間は10:00~19:00です。(8/7、8/8は午後9時まで開館)
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