『時をかける少女』が日本中を席巻した2006年の夏から、早くも3年。
その細田守監督の新作劇場アニメ『サマーウォーズ』の試写会を見るため、
7/13に東京の一ツ橋ホールへ行ってきました。
(記事中の写真はTVCMとEVA特番内の映像より引用しています。)

公式サイトの紹介文によれば、『サマーウォーズ』はこんな物語。
「高校2年の夏休み、天才的な数学力を持ちながらも内気な性格の小磯健二は、
憧れの先輩、夏希にアルバイトを頼まれる。
二人が辿りついた先は、長野にある彼女の田舎。
そこにいたのは総勢27人の大家族。
夏希の曾祖母・栄は、室町時代から続く戦国一家・陣内(じんのうち)家の
当主であり、 一族を束ねる大黒柱だ。
栄の誕生日を祝うために集った、個性豊かな「ご親戚」の面々。
そこで健二は突然、夏希から「フィアンセのフリをして」と頼まれてしまう。
栄のためにと強引に頼み込まれ、数日間の滞在をすることになった健二。
賑やかな親戚の面々に気圧されながら、必死に「フィアンセ」の大役を果たそうと
奮闘するのだった。
そしてその夜、彼の携帯に謎の数字が連なったメールが届く。
数学が得意な健二はその解読に夢中になるのだが…
翌朝、世界は大きく一変していた。健二を騙る何者かが、世界を混乱に陥れていたのだ。
「私たち一家でカタをつけるよ!」
栄の号令のもと、健二と夏希、そして陣内家の面々が、一致団結して世界の危機に立ち向かう!」
・・・これを読んだだけでどんな話かわかった人って、どのくらいいるんですかね?
正直なところ私は全然わからなかったし、内心ではちょっと心配もしてました。
で、実際に見に行っての感想。
現時点で詳細を書くのは控えますが、つまりは信州の旧家の人間関係にダブらせて
世界的なコミュニケーションネットワークの危機を描くことにより、「人のつながり」を
改めて問いなおそうという作品でした(なんのこっちゃ)。
さらに大雑把に言うと、大家族ってサイコー!人類みな家族!というお話です。

でもなぁ・・・『時かけ』に比べて、なんか全体的に物足りなかったんですよねぇ。
まず2時間弱という長さに比べて、登場キャラクターの数が多すぎると思います。
そのぶん主要人物の描写に割く時間が足りず、キャラがイマイチ立ってこないし
前半部はヒロインの夏希よりも栄ばあちゃんを描くほうに力が入ってるおかげで
夏希の存在感と、なにより女の子としての魅力が薄れちゃってます。
(貞本さんのキャラデザで救われてる面は、かなりあるんじゃないでしょうか。)
・・・まあ本作における真のヒロインは、誰が見たって栄ばあちゃんですけどね。
夏季の未熟さが目に付くのも、栄ばあちゃんの人徳と対比させるために必要な
設定ということになるのでしょう。
(そうでも考えないと、なんでこの娘が学校一の人気者なのかわかりません。)
後半はいろいろあってヒロインらしくなるけど、それまでの印象がよくないので
あんまり応援しようという気にはなりませんでした。
ヒロインがこんな調子なので、主人公の健二もやはりパッとしません。
監督としては草食系男子のガンバリを描きたかったんでしょうけど、冷静に見れば
先輩女子の思惑に振り回されてるだけの「都合がいい男子」にも思えます。
だからラストの展開には、逆に「うーん、それはどうかな?」と若干引き気味。
個人的には、かつて文化庁メディア芸術祭の『時かけ』受賞シンポジウムにおいて
話題に出た「男子の妄想と女子のしたたかさ」という要素を、『サマーウォーズ』では
より強く感じました。(そこがイイんだよ!という通な人もいそうだけど。)
というか、そもそも女子高校生が旧家の里帰りに彼氏をつれて帰るって設定が
かなり不自然ですけどね・・・あれはどう見ても社会人のシチュエーションです。
まあこの作品がめざしたのは「はっきりした主役を立てない群像劇」というか、
いわば陣内一族全体を主役とした物語なのでしょう。

健二と夏希も、あくまで大家族の中の一員。周囲のキャラに埋もれがちなのも
あらかじめ計算づくなのだと思います。
大家族のエネルギッシュなにぎやかさと、小さなグループの気の置けない関係。
どちらが好きかは見た人次第ですが、『サマーウォーズ』という作品に関しては
後者にはあまり期待しないほうがよいでしょう。
(そういう要素が全然ないわけじゃないけど、そんなに多くもありません。)
やたらと詰め込まれたアイデアも、2時間の枠内では整理しきれなかった感じ。
伏線は一応機能してたけど、いくつものネタを矢継ぎ早に見せようとするので
どうにもバタバタした展開が目に付きました。
ノリで見せる手法は嫌いじゃないけど、今回はちょっと話をはしょりすぎかな。
特に物語の重要なカギとなる「花札遊び」については、もっと効果的な前フリを
しっかり入れておくべきだったと思います。
そんな細部のユルさを補うためではないでしょうけど、視覚面での盛り上げも含め、
マッドハウスのお家芸である3DCGや激しいバトルアニメも投入されてます。

でも本作に関して言えば、これもなんだか使いどころがズレてる感じでした。
こういうのを信州の旧家の日常風景と交互に見せられると、斬新さよりもむしろ
違和感のほうが強くって、見てるほうはなんだか落ち着きません。
年配の観客(私の隣のおばさん)は、展開についていけずに寝ちゃってました。
あとネット空間を描いた3DCGも、なんだか細田監督の手がけた某ブランドの
M上キャラみたいなデザインが基調になってて、私の好みではなかったです。
(というか、M上デザイン自体がいまいち性に合わないもので・・・。)
逆に琳派的な和風の絢爛美を表現したこちらの映像は、作中で最も好きなシーン。

截金(きりかね)、金箔、漆に蒔絵といった日本的イメージを見事に取り込んでます。
アニメでこの種の表現に挑んだこと自体も、高く評価すべきでしょう。
できればM上デザインよりも、こういう映像をもっとたくさん見たかった・・・。
いろいろ不満を並べてますが、素材の選択は決して悪くないと思いますよ。
老人力や地域力、血縁と伝統の力といった重要テーマを扱ったのはいいけれど、
それが繋がって大きなうねりを成す、というレベルまでは行ってない感じ。
むしろバタバタした展開が、それらのメッセージ性を弱めてしまってます。
伝えたいことはすごく大事だし、いま必要とされてることでもあるのですが・・・。
意あまって力足らずというか、なんだか見せ方を間違っちゃった気がします。
これだけのキャラ数とアイデア量なら、むしろTVシリーズ12話でやったほうが
作品的にも充実したんじゃないでしょうか。
スポンサーの日テレは夜のマッドハウス枠を持ってるんだから、そこを使って
しっかりとした物語を丹念に進めていったほうが、結果的にはよかったかも?
というわけで、私にとってはちょっと残念な作品になってしまいました。
作り方やリリースの形態によっては、もっと良くなったはずなんですけどねぇ。
『時かけ』みたいに徹底して主人公の心情にこだわるとか、舞台である信州に
もっと密着した話にするとか、中身を濃くする手はいろいろあったはず。
まあそれは監督の作りたい作品ではなかったんでしょうけど・・・。
それと今回は配給がワーナーブラザースということで、世界市場を意識したのか
いかにもジャパニメーションらしい斬新な映像と激しいアクションシーンを
日本的な情緒の世界とムリヤリ組み合わせてしまったようにも見えました。
前に別の記事で触れたのですが、私が『時かけ』を高く評価する理由のひとつに
「高度なアニメの技術によって、あえてアニメ的でない普遍的な日常風景を、
詩情豊かに描ききった」ことが挙げられます。
別に『サマーウォーズ』にも同じモノを求めているというわけじゃありませんが、
CG空間や非日常的なシチュエーションって逆に新鮮さを感じないというか、
アニメ的にはいかにもありがちな光景だなぁ、と。
言い換えると、アニメを見慣れてない観客層から「しょせんアニメだよね」的な
受け取られ方をしてしまいそうなところが、なんだか心配です。
でもこんな心配をするようなスレた観客自体が、そもそもこの作品の対象層から
外れてるのかもしれませんが(^^;。
ただし旧家の構造を丹念に描写していたのは、個人的にはうれしかったです。
大広間やタイル貼りの風呂、建具のリアルな感じにはわくわくさせられました。
(入道雲の感じだけは、やや量感が不足気味だったかも?)
さて最後に、タイトルの『サマーウォーズ』について。
実際に映画を見るまでは意味不明でしたが、これには世界の存亡を賭けた
陣内一族の戦いに、かつて真田氏が徳川勢と戦った上田合戦の「夏の陣」と
作中のTVで流れる高校野球長野県大会の「夏の戦い」をかけてたんですね。
それにもちろん『スター・ウォーズ』のもじりも入ってるんでしょうけど。
・・・そういえば、終盤で陣内家を襲ってくるのも〇〇〇〇でした。
「スターウォーズ」については、むしろそっちのほうを意味してるのかも。
(伏せ字の部分については、見た人だけのお楽しみにしておきます。)
その細田守監督の新作劇場アニメ『サマーウォーズ』の試写会を見るため、
7/13に東京の一ツ橋ホールへ行ってきました。
(記事中の写真はTVCMとEVA特番内の映像より引用しています。)

公式サイトの紹介文によれば、『サマーウォーズ』はこんな物語。
「高校2年の夏休み、天才的な数学力を持ちながらも内気な性格の小磯健二は、
憧れの先輩、夏希にアルバイトを頼まれる。
二人が辿りついた先は、長野にある彼女の田舎。
そこにいたのは総勢27人の大家族。
夏希の曾祖母・栄は、室町時代から続く戦国一家・陣内(じんのうち)家の
当主であり、 一族を束ねる大黒柱だ。
栄の誕生日を祝うために集った、個性豊かな「ご親戚」の面々。
そこで健二は突然、夏希から「フィアンセのフリをして」と頼まれてしまう。
栄のためにと強引に頼み込まれ、数日間の滞在をすることになった健二。
賑やかな親戚の面々に気圧されながら、必死に「フィアンセ」の大役を果たそうと
奮闘するのだった。
そしてその夜、彼の携帯に謎の数字が連なったメールが届く。
数学が得意な健二はその解読に夢中になるのだが…
翌朝、世界は大きく一変していた。健二を騙る何者かが、世界を混乱に陥れていたのだ。
「私たち一家でカタをつけるよ!」
栄の号令のもと、健二と夏希、そして陣内家の面々が、一致団結して世界の危機に立ち向かう!」
・・・これを読んだだけでどんな話かわかった人って、どのくらいいるんですかね?
正直なところ私は全然わからなかったし、内心ではちょっと心配もしてました。
で、実際に見に行っての感想。
現時点で詳細を書くのは控えますが、つまりは信州の旧家の人間関係にダブらせて
世界的なコミュニケーションネットワークの危機を描くことにより、「人のつながり」を
改めて問いなおそうという作品でした(なんのこっちゃ)。
さらに大雑把に言うと、大家族ってサイコー!人類みな家族!というお話です。

でもなぁ・・・『時かけ』に比べて、なんか全体的に物足りなかったんですよねぇ。
まず2時間弱という長さに比べて、登場キャラクターの数が多すぎると思います。
そのぶん主要人物の描写に割く時間が足りず、キャラがイマイチ立ってこないし
前半部はヒロインの夏希よりも栄ばあちゃんを描くほうに力が入ってるおかげで
夏希の存在感と、なにより女の子としての魅力が薄れちゃってます。
(貞本さんのキャラデザで救われてる面は、かなりあるんじゃないでしょうか。)
・・・まあ本作における真のヒロインは、誰が見たって栄ばあちゃんですけどね。
夏季の未熟さが目に付くのも、栄ばあちゃんの人徳と対比させるために必要な
設定ということになるのでしょう。
(そうでも考えないと、なんでこの娘が学校一の人気者なのかわかりません。)
後半はいろいろあってヒロインらしくなるけど、それまでの印象がよくないので
あんまり応援しようという気にはなりませんでした。
ヒロインがこんな調子なので、主人公の健二もやはりパッとしません。
監督としては草食系男子のガンバリを描きたかったんでしょうけど、冷静に見れば
先輩女子の思惑に振り回されてるだけの「都合がいい男子」にも思えます。
だからラストの展開には、逆に「うーん、それはどうかな?」と若干引き気味。
個人的には、かつて文化庁メディア芸術祭の『時かけ』受賞シンポジウムにおいて
話題に出た「男子の妄想と女子のしたたかさ」という要素を、『サマーウォーズ』では
より強く感じました。(そこがイイんだよ!という通な人もいそうだけど。)
というか、そもそも女子高校生が旧家の里帰りに彼氏をつれて帰るって設定が
かなり不自然ですけどね・・・あれはどう見ても社会人のシチュエーションです。
まあこの作品がめざしたのは「はっきりした主役を立てない群像劇」というか、
いわば陣内一族全体を主役とした物語なのでしょう。

健二と夏希も、あくまで大家族の中の一員。周囲のキャラに埋もれがちなのも
あらかじめ計算づくなのだと思います。
大家族のエネルギッシュなにぎやかさと、小さなグループの気の置けない関係。
どちらが好きかは見た人次第ですが、『サマーウォーズ』という作品に関しては
後者にはあまり期待しないほうがよいでしょう。
(そういう要素が全然ないわけじゃないけど、そんなに多くもありません。)
やたらと詰め込まれたアイデアも、2時間の枠内では整理しきれなかった感じ。
伏線は一応機能してたけど、いくつものネタを矢継ぎ早に見せようとするので
どうにもバタバタした展開が目に付きました。
ノリで見せる手法は嫌いじゃないけど、今回はちょっと話をはしょりすぎかな。
特に物語の重要なカギとなる「花札遊び」については、もっと効果的な前フリを
しっかり入れておくべきだったと思います。
そんな細部のユルさを補うためではないでしょうけど、視覚面での盛り上げも含め、
マッドハウスのお家芸である3DCGや激しいバトルアニメも投入されてます。

でも本作に関して言えば、これもなんだか使いどころがズレてる感じでした。
こういうのを信州の旧家の日常風景と交互に見せられると、斬新さよりもむしろ
違和感のほうが強くって、見てるほうはなんだか落ち着きません。
年配の観客(私の隣のおばさん)は、展開についていけずに寝ちゃってました。
あとネット空間を描いた3DCGも、なんだか細田監督の手がけた某ブランドの
M上キャラみたいなデザインが基調になってて、私の好みではなかったです。
(というか、M上デザイン自体がいまいち性に合わないもので・・・。)
逆に琳派的な和風の絢爛美を表現したこちらの映像は、作中で最も好きなシーン。

截金(きりかね)、金箔、漆に蒔絵といった日本的イメージを見事に取り込んでます。
アニメでこの種の表現に挑んだこと自体も、高く評価すべきでしょう。
できればM上デザインよりも、こういう映像をもっとたくさん見たかった・・・。
いろいろ不満を並べてますが、素材の選択は決して悪くないと思いますよ。
老人力や地域力、血縁と伝統の力といった重要テーマを扱ったのはいいけれど、
それが繋がって大きなうねりを成す、というレベルまでは行ってない感じ。
むしろバタバタした展開が、それらのメッセージ性を弱めてしまってます。
伝えたいことはすごく大事だし、いま必要とされてることでもあるのですが・・・。
意あまって力足らずというか、なんだか見せ方を間違っちゃった気がします。
これだけのキャラ数とアイデア量なら、むしろTVシリーズ12話でやったほうが
作品的にも充実したんじゃないでしょうか。
スポンサーの日テレは夜のマッドハウス枠を持ってるんだから、そこを使って
しっかりとした物語を丹念に進めていったほうが、結果的にはよかったかも?
というわけで、私にとってはちょっと残念な作品になってしまいました。
作り方やリリースの形態によっては、もっと良くなったはずなんですけどねぇ。
『時かけ』みたいに徹底して主人公の心情にこだわるとか、舞台である信州に
もっと密着した話にするとか、中身を濃くする手はいろいろあったはず。
まあそれは監督の作りたい作品ではなかったんでしょうけど・・・。
それと今回は配給がワーナーブラザースということで、世界市場を意識したのか
いかにもジャパニメーションらしい斬新な映像と激しいアクションシーンを
日本的な情緒の世界とムリヤリ組み合わせてしまったようにも見えました。
前に別の記事で触れたのですが、私が『時かけ』を高く評価する理由のひとつに
「高度なアニメの技術によって、あえてアニメ的でない普遍的な日常風景を、
詩情豊かに描ききった」ことが挙げられます。
別に『サマーウォーズ』にも同じモノを求めているというわけじゃありませんが、
CG空間や非日常的なシチュエーションって逆に新鮮さを感じないというか、
アニメ的にはいかにもありがちな光景だなぁ、と。
言い換えると、アニメを見慣れてない観客層から「しょせんアニメだよね」的な
受け取られ方をしてしまいそうなところが、なんだか心配です。
でもこんな心配をするようなスレた観客自体が、そもそもこの作品の対象層から
外れてるのかもしれませんが(^^;。
ただし旧家の構造を丹念に描写していたのは、個人的にはうれしかったです。
大広間やタイル貼りの風呂、建具のリアルな感じにはわくわくさせられました。
(入道雲の感じだけは、やや量感が不足気味だったかも?)
さて最後に、タイトルの『サマーウォーズ』について。
実際に映画を見るまでは意味不明でしたが、これには世界の存亡を賭けた
陣内一族の戦いに、かつて真田氏が徳川勢と戦った上田合戦の「夏の陣」と
作中のTVで流れる高校野球長野県大会の「夏の戦い」をかけてたんですね。
それにもちろん『スター・ウォーズ』のもじりも入ってるんでしょうけど。
・・・そういえば、終盤で陣内家を襲ってくるのも〇〇〇〇でした。
「スターウォーズ」については、むしろそっちのほうを意味してるのかも。
(伏せ字の部分については、見た人だけのお楽しみにしておきます。)