『マイマイ新子と千年の魔法』『BLACK LAGOON』の片渕須直監督が、自らのルーツと
作品について語るトークイベント、「The Roots Of Sunao Katabuchi」に行ってきました。
公式ブログ等でも既にレポートが出てますが、もう少し詳しい記録を残したいと思ったので、
こちらでもまとめてみることにします。
(なお、内容に多少あやふやな点があります。何かお気づきの方はコメントにてご指摘ください。)
さて、会場の阿佐ヶ谷Loft Aは商店街にあるビルの地下。
気がつかずに何度か前を通り過ぎちゃいました。
さほど広くない会場内はお客さんでいっぱい。
ここは飲み食いのメニューが充実しているので、会場内で十分に腹ごしらえもできます。
イベント限定メニューでは、BLACK LAGOONがらみのドリンクが2種、マイマイ新子からは
ドリンクとおつまみが一種ずつ。
私はバカルディ・ラムのライムジュース割り「TWO HANDS(二挺拳銃)」をいただきました。

ラムとライムジュースなので、この組み合わせでは個人的にやや甘かったですね。
ジュースを生ライムを搾ったのに変えてあげると、もっとレヴィ的なドライさが出るはず。
自分で作る場合は、どちらが好みかを試してみてもいいと思います。
他の限定メニューとしては、ウォッカのトマトジュース割り「The World of Midnight」、
麦焼酎とホッピーで麦がダブルの「麦の海」(ホッピーで自分好みに焼酎を割る)、
そして新子のふるさと山口県防府市の名産品、白銀のかまぼこがありました。
かまぼこは滑らかでぷりぷりした食感と、後に残るまろやかなうまみが印象的。
ロフトでは醤油がたっぷりかかってたけど、私は素のままのほうがよかったかな。
さらにウォッカのコーヒーリキュール割り「BLACK RUSSIANS」と、揚げ餃子も注文。

こちらは特別メニューではないので、メニューにある限りいつでも頼めます。
勝手な思いいれですが、カクテルはバラライカ、餃子は張維新をイメージして頼みました。
カクテルのほうはまたもや甘々ですが、餃子は張大兄のようにハードな揚げ具合でしたよ。
なお、テーブルにかかったYELLOW FLAGのミニタオルは、イベントで購入した私物を持参。
これさえあれば、どこで飲んでもロアナプラ気分が楽しめるという趣向です(笑)。
あれこれ飲み食いしているうちに、いよいよトーク開始の時間に。
まずはマイマイ新子の広報と本日の司会を担当する山本さん、DVDのコメンタリーにも
参加されたという氷川竜介さん、そしてわれらが片渕須直監督が登壇されました。
まずは片渕監督の音頭で、参加者全員による乾杯。
序盤のトークは、大学在学中にアニメ業界に足を踏み入れたという片渕監督の苦難の歴史。
ヤバすぎてあまり詳しいことは書けませんが(^^;、片渕監督のアニメ道がいろんな意味で
遠回りの連続だった事を、ひしひしと感じさせるお話でした。
様々な作品に合作や共作という形で関わりつつ、本格的な監督第一作の『アリーテ姫』に
いつまでも目途が立たない日々は、どれだけ苦しかったことでしょう。
さらにはいろんなところでトラブルに巻き込まれたり、妙な人たちと関わったりの波乱万丈。
このころ某“アニメ様”からは「なんでそんなに運のない・・・」と同情されたそうです。
悲惨なのに笑える話が次々に披露されるので、気の毒に思いつつも場内は爆笑の連続。
またゲストの氷川氏からは、この時期のアニメはTVからOVAにシフトしていく過程の
ミッシングリンクとして、海外との合作プロジェクトが続いていたとの説明もありました。
こういうところにも、片渕監督の活躍が国内で見逃されがちだった理由がありそうですね。
しかしさすがは奇跡を呼ぶ男・片渕監督。その遠回りも決して無駄にはしていません。
一例として、1998年にザグレブ国際アニメーション映画祭でボスニアを訪れた際には
内戦の傷痕を目の当たりにしており、これが後に『アリーテ姫』『エースコンバット4』の
ストーリーへと結実していったとのこと。
また現地に残る古い町並みや建造物、さらに立食パーティの皿などの写真を撮ってきて、
『アリーテ姫』の世界観構築に役立てているそうです。
(お皿については、劇中でアリーテ姫の食器として登場しているとのこと。)
そんな片渕監督のリアルな作劇を支える、大量の資料調べと徹底した現地取材。
この手法は『マイマイ新子』や『BLACK LAGOON』でも変わりません。
休憩をはさんで、実際に取材中の片渕監督の姿も披露されました。
『マイマイ新子』については、防府市役所を訪ねて古い資料を丹念に調べる様子や、
現地を歩くといったロケハン時の映像を上映。
劇中そのままの地形や、新子や貴衣子の家のモデルとなった場所も出てきました。
またこの取材の成果として“昭和30年代の防府市の航空写真に、諾子の時代の遺跡の
発掘現場を貼りこんである”PSDデータがあるそうですが、データのサイズが大きすぎて
会場のノートPCでは開けず。これはかなり残念でした。
『BLACK LAGOON』については、タイには何かの事情で行けなかったものの、代わりに
ベトナムでの取材を敢行したそうです。
(もしタイに行っていたら、そのころ現地を襲った大津波に飲まれていたかも…とか。)
その時に撮影した、警察に拿捕された「ロシアのミサイル艇を改造したらしき密輸船」の
写真も出てきましたが、まるで本物のラグーン号みたいでした。
また、実際にモデルガンを構えたりロシア軍のコートとベレーを被った監督の写真も公開。
軍装をリアルに描くための資料ですが、あれはどう見てもバラライカのコスプレです(笑)。
なお、今度出るラグーン新作のために、米軍の装備でも同じことをやったとか。
銃を持ったときのしっくりした形をつかむためとは、ミリタリー通の片渕監督らしいです。
さらにジェネオンの『BLACK LAGOON』担当・小倉プロデューサーと、片渕作品の歌姫、
Minako "mooki" Obataさん、そして飛び入りゲストの原作者・広江礼威先生が登場。
ここで『BLACK LAGOON』第25話となる新作『Roberta's Blood Trail』オープニングを初上映、
さらにmookiさんによる「The World of Midnight」生アカペラの披露と、会場内は一気に
ロアナプラの色へと染まりました。
特にmookiさんの歌声はスゴい威力で、ヒトの肉声の力を改めて感じさせるもの。
そもそも片渕監督が双子編での曲作りを頼んだのが出会いのきっかけだそうですが、
この歌の録りを見に行った監督が時間を計ったら、エンディングの尺にドンピシャ。
その場で、この歌を双子編のエンディングに使おうと決めたそうです。
おかげで絵を全部描き直すことになったけれど、ご自身では非常にお気に入りとのこと。
また双子編のTV放映までには相当な駆け引きや苦労があったそうで、片渕監督いわく
「作品自体は24話まで途切れなく作っていたので、第1部と第2部までのブランクは、
ある意味で小倉Pが戦うための時間稼ぎだった」との話。
そして片渕監督も小倉Pも、そこまでしてでも双子編を作りたかったとのことでした。
後半ではさらに新子やラグーンの取材写真が披露され、「撮ろうとする世界を把握して、
さらに想像力による肉付けを行う」という創作過程を、実際に見ることができました。
片渕監督からは「ヒトの記憶は曖昧なので、ロケハンの資料に支えられたり、その資料から
想像する事が楽しかったり、その中で見つけた些細な偶然が大きな意味を持ったりする。
またそんな些細な偶然でできている世界を、いとおしいと思う。」との深いお話も。
そして『マイマイ新子』の劇中音楽として、mookiさんのスキャットを全編に採用すると
片渕監督が決断したときの苦労話へ。
周囲からは「人の声だけで劇伴を作るなんて、うまくいきっこない」と止められたものの、
監督は絶対に勝算があると考え、また前例がないからこそやるべきとも思ったそうです。
片渕監督いわく、「mookiさんは僕らの秘密兵器」。
しかしmookiさん自身は声の持つ可能性を広げたいとの気持ちでこの話を受けたものの、
後から不安な気持ちになったとのことでした。
そしてこの話を聞いて辛抱できなくなったのか、本作の音楽を知り尽くした人物である
岡田音楽プロデューサーが登場!
mookiさんの実力を信じて、周囲の逆風をいかに跳ね除けたかを熱く語ってくれましたが、
これまたちょっとヤバい話なので、あんまり詳しく書けません(笑)。
ただし「岡田さんの頑張り抜きにmookiさんの起用はありえなかった」とは断言できます。
ここで『マイマイ新子』の曲と『BLACK LAGOON』の曲を作るときの落差については?との
質問に対し、mookiさんからは「自分の中では、全く何の差もなかった。」との回答が。
「双子の場合はたまたまああいう風に育っただけであって、その子たちに責任はない。
もし双子が昭和30年代の山口県に生まれてたら、新子みたいに育ったかもしれない。」
だからどちらの場合も、mookiさんの中から自然に音楽が出てきたそうです。
さらにmookiさんからは、『マイマイ新子』でのスキャット劇伴について
「新子ちゃんの感じる内面のウキウキ感は、何かのフィルターを経ずに自分の中で作り出された、
すごくレアなもの。その感覚を伝えるには、最初の楽器である人の声が一番ふさわしいと思う。」
という、全力でうなずきたくなるようなコメントも聞けました。
そしていよいよラグーンファン待望の『Blood Trail』1分ダイジェスト版の初公開。
フリントロックをぶん回すロベルタ、ファビオラ初登場のカットなど、原作を読んでいる人なら
思わずニヤリとするシーンも見られました。これは期待できるなぁ。
最後は『マイマイ新子』と『Blood Trail』のDVD特典等の紹介。
マイマイ新子はもちろん、ラグーンのほうも盛りだくさんな内容になりそうです。
そして両作品についてのグッズが、抽選で選ばれた参加者にプレゼントされました。
『マイマイ新子』は
6/19のオールナイトをはじめ、まだまだ上映予定が続きます。
『BLACK LAGOON Roberta's Blood Trail』については、これからほぼ2ヶ月ごとに
リリースが続くということで、第一話は近々TV放送もあるとのこと。
片渕作品の起こした波は、メディアの枠を越えて今後も広がっていくことでしょう。
なお、今回書いたのは膨大な内容のごく一部。他にもいろんな話を聞けました。
片渕須直監督をはじめ、今回登壇された皆様、楽しい時間をありがとうございました!