Biting Angle

アニメ・マンガ・ホビーのゆるい話題と、SFとか美術のすこしマジメな感想など。

日本アニメの新たな金字塔『マイマイ新子と千年の魔法』を見て

2010年04月25日 | マイマイ新子と千年の魔法
4月23日、吉祥寺バウスシアターで『マイマイ新子と千年の魔法』を見てきました。



なんと今回は、片渕須直監督と主演の青木新子役を演じた福田麻由子さんの舞台挨拶つき!
各所で絶賛の声を聞き、見逃してしまったのを後悔していた作品なので、都内での再上映、
しかも舞台挨拶まであるとなれば、これはもう行かないわけにはいきません。

当日は寒くて小雨も降ってましたが、整理券配布前から窓口には順番待ちの長い行列が。
その横で『アリス・イン・ワンダーランド』の入場券を買っていくアベックの怪訝そうな目を
ちょっとこそばゆく感じつつも、無事チケットを購入して劇場内へ。

開演前の舞台挨拶では、まず司会役の広報スタッフ、山本氏が登場しました。
恰幅が良くてヒゲが印象的な山本氏は、各地の『マイマイ新子』イベントで司会を務めた
豊富な経験の持ち主ということですが、妙に場慣れした感じのないところが逆に好印象。
11月からのロングランをファンによる応援の賜物と感謝する口調からは、誠実な人柄が
にじみ出ていました。

そしていよいよ、片渕監督と福田麻由子さんが登壇。
長い髪と透きとおるような白い肌の福田さんは、まるで舞台に咲く一輪の白百合です。
今回の舞台挨拶が高校2年生になっての初仕事ということですが、パンフレットに掲載された
キャスト写真と比べると、ぐっと女性らしさが増した感じ。
そして顔立ちはちょっと厳しそうだけど口ぶりはとても温厚な片渕監督からは、ここまで
興行的に苦戦しながらも、各地のファンによる上映活動が大きな支えとなって上映の輪が
広がったこと、さらにその輪がこれからも広がり続けることへのお礼が述べられました。

そして製作委員会からは、avexの岩瀬プロデューサーが登場。
『マイマイ新子』DVD化の発表と、発売にこぎつけるまでのいきさつを話されました。
最近はDVDを売るのも難しく、興行的に成功しない作品はソフト化も困難ということで、
『マイマイ新子』についても、会社を説得するまでには相当のご苦労があったようです。
(当日のさらに詳しい模様は、Ustreamの録画などで見られます。)

舞台挨拶のあとは、DVD発売を祝してのくす玉割りと報道写真の撮影。
場内の「おめでとう!」の掛け声と共にくす玉が割れ…ず、「おめでとう」の「うー」を
くす玉が割れるまでみんなで叫ぶという一幕も(笑)。

そしていよいよ、映画『マイマイ新子と千年の魔法』の上映が始まりました・・・。

いや~、これは評判以上の傑作じゃないですか!
開始後約5分、新子が青い麦の海に飛び込むシーンで、思わず身震いしてしまいました。
どうやら私も、この映画の魔法にかけられてしまったようです。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

物語の舞台は昭和30年代の山口県防府市。千年前には地方国家「周防国」の国府として
繁栄を誇ったこの土地も、今は広々とした麦畑に覆われたのどかな地となっている。
主人公の青木新子は小学3年生。教師だった祖父から聞かされた土地の歴史を大切にし、
道や水路の形から千年前の街並みを想像してその中を歩き回ったり、青々とした麦畑を
かつてこの地に広がっていたという海に見立てて泳ぎ回る、活発な少女だ。

そんな時、埋立地にできた工業団地へと引越してきた貴伊子という少女が転校してくる。
土地にもクラスメイトにもなじめない貴伊子に接した新子は、千年前の防府の話を聞かせながら
貴伊子の警戒心と人見知りを少しずつ解いていき、やがて二人はかけがえのない親友となる。



キラキラした輝きを伴って描かれる毎日の小さな遊びや、ちょっとしたエピソードの数々。
それが子供同士、そして子供と大人の間に深いつながりを生み、その積み重ねが防府という
土地に生きる人々の人間模様を、鮮やかに浮かび上がらせていく。
しかしそんな日々の背後には、子供には予想もできない大人たちの事情が隠されていた。
やがていくつかの事件が立て続けに起き、それらは新子たちにも暗い影を落としていく。



かたや千年前の防府。父の転勤によって京から周防へやってきた少女、諾子(なぎこ)は
一緒に遊べる同年代の女の子がいないことを嘆きながらも、持ちまえの想像力と遊び心で
日々の暮らしを楽しく彩っていた。
やがて彼女は下働きの少女の姿に目を留めるのだが、身分の違いが二人を阻む壁に・・・。



新子、貴伊子、そして諾子は、これらの困難にどう立ち向かい、乗り越えていくのか?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

とにかく作品にムダな部分やダレる場面が一切なく、それでいてゆるさと緊張感が絶妙に
配分されていて、飽きるところがありません。まさに「映画とはこうあるべき」という構成。
そしてたっぷりと盛り込まれたエピソードが平凡な日々に劇的な光と影を与え、時代を超えて
交錯する防府の風景と人々の暮らしぶりは、歴史のつながりと普遍的な人間性を見せることで
物語に日常的な親しみやすさや軽快さと、歴史に裏打ちされた重厚さの両面を与えています。

さらに新子と諾子の空想癖が単なる現実逃避ではなく「より強く生きるための力」として
極めて肯定的にとらえられているところが、実にすばらしい。

日々をよりよく生き、厳しい現実の試練に立ち向かうための力となり、さらにその傷から
恢復していくための栄養にもなるのが、作中で語られる数々の「物語」たち。
そしてそれは本によるものだけに限らず、目上の世代の語る話や、土地の持つ歴史からも
培われ、さらに次の世代へと伝えられていくということでしょう。

また「遊び」という普遍的な触媒を介して、人と人が時代を超えて結びつくという発想も巧い。
しかもそれを説教臭くない自然な形で、うまく作品中に組み込んでいます。
千年の隔たりと親子の軋轢を、遊びという視点からさらりと相対化してしまう手腕などは、
片渕監督の卓越したセンスのみがなし得た離れ業だと思います。

そして子供たちの目から描かれる無邪気な物語の中に、ときおり挟まれる大人びた視線。
これが時に笑いを誘い、またある時には子供ならではの真剣さを感じさせます。
さらには本物の大人たちが抱える事情が明かされるとき、子供の事情だけでは完結しない
世界の厳しさ、複雑さが浮き彫りにされ、それに向き合うことの過酷さまでが示されます。
この広がりと多層性が、『マイマイ新子』の物語をさらに深いものにしています。

いわゆる悪場所の存在をきっちり描き、さらにそれもまた人間の営みとして否定しないという
物語の芯にあるたくましさも、本作が到達したレベルの高さを表すものでしょう。
このへんには、『BLACK LAGOON』の世界を見事アニメ化した監督ならではのタフな視線が
感じ取れると思います。
さらに都市社会学的な見方をすれば、新子の暮らす時代と比べて、現在の日常風景全てが
盛り場(悪場所)と化し、異界性を帯びていることにも目を向けたくなります。
(ここから発展させて『電脳コイル』の呪術性とか『デュラララ!!』の都市伝説論等へと
 話を広げられそうな気もしますが、それはまた別のお話ということで。)

全編を通して話される山口弁の響きと間の取り方も、作品の個性とリアリティの両面で
重要な意味を持っています。
言葉とはその土地そのものであり、その土地が伝えてきた大切な財産。本作での山口弁は
その豊かな響きと柔らかさ、異郷性と懐かしさの混ざった感触がなんとも心地よいのです。
作画を作品の肉、物語を骨とすれば、セリフは作品の中を血となって流れている感じ。

特に福田麻由子さんの「自然体にしか聞こえない」芝居のうまさ、そしてセリフ回しにおける
カンのよさは、本作の成功に大きく寄与しています。
貴伊子を演じた水沢奈子さんの、おどおどした標準語から徐々にしっかりとした山口弁へと
言葉づかいを変えていく芝居もよかったですね。

そしてここまで触れませんでしたが、アニメーションとしての完成度の高さも文句なし。
実績十分のマッドハウスを率いる片渕監督は、手練の団員を統率する指揮者のようです。
作画の安定ぶり、微妙な色づかい(新子と貴伊子の頬のグラデの繊細さ!)、美しい背景
(山本二三さんも参加)、そして動きの絶妙な緩急と、アニメとしての見どころも満載!

特に注目したいのは、新子と貴伊子の歩調でしょう。心の動きが歩き方、走り方に現れ、
それが作品の中でリズムを作り出して、観客にも体感的な感覚として伝わってくる感じ。
この肉体的な感覚描写は『時かけ』で真琴の疾走感を描ききったマッドハウスならではの
表現領域ではないかと思います。(ジブリの疾走はこれよりも肉体の重さが希薄な感じ?)

とりあえず、いま思い出せる限りの魅力を書き連ねてみました。
繰り返し見返せば、きっとさらなる発見があるでしょう。
『マイマイ新子と千年の魔法』という作品には、それだけの中身が詰まっています。

とにかく、日本のアニメ史に名前を刻まれる名作であることは間違いありません。
そして、大きなスクリーンで周りの人と感動を共有したくなる作品でもあります。
DVDの発売は朗報ですが、できれば劇場で見て欲しいし、一人で見るのとはまた違った
感動を得られるはず。機会があれば、より多くの人に劇場まで足を運んで欲しいものです。

さて、上映後は片渕監督が再び登場。改めて感謝の気持ちを述べると共に、作品についての
ちょっとした種明かしをしてくれました。
さらに感動したのは、終映後に片淵監督自らが出口で観客を迎え、会話してくれたこと!
自分は初見だったので、見終えたばかりの感動を一生懸命お話しさせていただきました。
こういう経験は初めてだったけど、いい映画を見たあとに作り手と直接お話できる喜びは
ちょっと比較できるものがないくらいの感激でした。

片渕監督、福田さん、山本さん、岩瀬プロデューサー、そしてこの作品の製作に関わった
全ての方々と、私より先に見てずっと応援されてきたファンの皆さんに深く感謝です。
微力ながら、これから私も一緒に『マイマイ新子と千年の魔法』を応援していきます!
コメント (2)   トラックバック (2)   この記事についてブログを書く
« 『東のエデン 劇場版II Parad... | トップ | 『マイマイ新子』についての... »
最近の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
マイマイ新子 (BP)
2010-07-31 00:30:35
 BlogへのコメントとTB、ありがとうございました。

 青の零号さんのこの文章が読みたかったのですが、何故かGoogleで探索できなくて、TBのおかげで再読でき、嬉しいですww。

 傑作との遭遇の興奮が手に取るように伝わってくる感想で、こちらもワクワクしてきます。

 やはり映画としての完成度の高さは、特筆ですね。こういういい映画がもっと大ヒットするようになったらいいのに、と思います。

 この作品もたぶん制作費的にはそれほど恵まれていなかったのではないかと邪推しますが、そうした制作環境でものすごく知恵をこらし、ディスカッションがなされて完成していった気迫が映像から溢れてました。

 『カリオストロの城』がそうだったようにこの作品が、今後の片渕監督の名作のスタートの一本となることを願ってやみません。
コメントありがとうございます (青の零号)
2010-08-02 00:24:54
BPさんからコメントをもらえて、すごくうれしいです。

> 傑作との遭遇の興奮が手に取るように伝わってくる感想で、
>こちらもワクワクしてきます。

そういってもらえて、とても光栄です。

自分の中にある感動をなんとか伝えたくて、ヘタながらに
この作品が好きな気持ちを一生懸命書いたのものですから
少しでもそれが伝わったということなら最高ですね。
それだけでも『マイマイ新子と千年の魔法』を見てよかったし、
ブログ書いてきてよかったな、とも思います。

>『カリオストロの城』がそうだったように
>この作品が、今後の片渕監督の名作のスタートの
>一本となることを願ってやみません。

回り道や損の多い現場で戦い続けてきた片渕監督ですが、
その苦労が作品の深みになっていると思います。

こういう作り手とその作品が認められるようになってこそ
日本アニメが本当の「文化」になれるような気がします。
そのためにも、片渕監督のさらなる活躍に期待したいですね。

コメントを投稿

関連するみんなの記事

2 トラックバック

■感想 片渕須直監督『マイマイ新子と千年の魔法』 (★究極映像研究所★)
DVD『マイマイ新子と千年の魔法』  評判のいい『マイマイ新子と千年の魔法』、DVDが7/23発売されたので待ち望んでレンタルで観た。  豊潤な土地と子供時代の描写が圧巻。 ウィスキーボンボンの後のハンモックシーンくらいから涙腺の内圧が上がりっ放し。それが何故だか...
『マイマイ新子と千年の魔法』片渕須直監督 (ひねもすのたりの日々)
明日の約束は、明日皆で笑顔になること。迎えて迎えられて、送って送られてもう戻らな