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とりとめのないメモの山

Branchiostoma belcheri:

2008-06-23 00:00:00 | biologie*

ヒガシナメクジウオ Branchiostoma belcheri Gray。

脊索動物門 Chordata
頭索動物亜門 Cephalochordata
ナメクジウオ綱 Leptocardia
ナメクジウオ目 Amphioxi
ナメクジウオ科 lancelets 。

脊索動物
 脊椎動物亜門 Vertebrata (ヤツメウナギ類・軟骨魚類・板皮類・硬骨魚類・四足動物etc...)
 尾索動物亜門 Urochordata (ホヤ・オタマボヤ・サルパ・ウミタルetc...)
 頭索動物亜門 Cephalochordata の3大グループから成りますが、
これらの系統関係については長い間議論されてきました。
つい先日
ナメクジウオのゲノムが解読され、また新たな知見が出されたところですね。


画像は私のエタノール標本なのであまり美しくありませんが、
実際には、白く半透明でシュッとした、なんともエレガントで美しい生物です。
脊椎動物・尾索動物とクラスターを組むため、これらの原始形質を多く残しているともされます。

その体制はまず脊索動物の基本形
 ・軟骨質の"脊索(notochord)"をもつ。
  (ただし脊椎動物(vertebrate)では、脊椎が形成された後に消失することが多い)
 ・単一の"背側神経索(dorsal nerve cord)"を持つ。(脊椎動物での中枢神経系)
 ・咽頭部に"鰓裂(pharyngeal slits, gill slits)"を有す。 
 ・咽頭部に"内柱(endostyle)"を持つ。(脊椎動物では甲状腺に分化)。 
 ・閉鎖血管系。
 ・基本的に左右対称で、オタマジャクシ型を基本とする。
をバッチリ満たし、
特に尾索動物ホヤの幼生、脊椎動物(…に含めないという話もあるけれど)ヤツメウナギの幼生
などと比較すると、よく似ていることが分かります。
実際、ナメクジウオも過去に「退化した脊椎動物だ」とする見方が一般的だったことがあるらしく、
これを否定し、ホヤなどと共に
原索動物(Protochordata; 現在では便宜上の使用を除き使われていない分類群)のクレードに組み入れたのは
かのE.S.Goodrichであります。

ちなみにナメクジウオは無頭類(Acrania; これも現在では使われていない)という名が与えられていたこともありますが、
これはAdolf Portmannらによって批判されました。
※注1

 
まとまった感覚器官をほとんど持ちませんが、
神経管の先端には眼点があり(眼ではありません)、ここで光受容をしています。
またローハン=ベアード細胞(Rohon-Beard cells)と呼ばれる、脊椎動物の髄内知覚細胞様の細胞群が
神経上皮の背側にならんでおり、
神経堤細胞(neural crest cell)との類似性を指摘する向きもあるようです。

多くの脊椎動物やホヤなどとは異なり、脊索(notochord)を一生持ち続けます。
頭索動物の名の通り、脊索は尾の先から頭の先端まで伸びております。

循環器系(circulatory system)・神経系(nervous system)などはよく発達していますが、
心臓や脳ほどの器官は分化していません(それ様の機能を、血管の一部や神経管の前端(脳室)が特定的に担っています)。
フィルターフィーディング(濾過摂餌; filterfeeding)であり、水中の有機物を口周りの鬚で漉しとって食べるため、
外鬚や咽頭(pharyngeal)域の囲鰓腔(pelibranchial cavity)にある鰓籠(branchial sac)などはよく発達。
酸素交換も主にここで行なっているようですね。
肛門(Anus)と別に出水口(atriopore)なんてのがあるあたり独特です。この辺はホヤっぽいかも…

筋節が規則正しく走っているのが見て取れますが、これは魚などにもあるのですっかりお馴染みですね。
よく左右相称動物(bilateria)の体制が発生する上で節構造をとることが知られていますが、(節足動物などでは分かりやすいけれど)
脊椎動物でも体節(somite)が見られることによってこれが観察できます。
ですが、この体節制と筋節とは全く関係ありません。よく誤解されるところなので…




属レヴェルでは
 ・ナメクジウオ属 Branchiostoma:生殖腺が体の左右両側にある
 ・カタナメクジウオ属 Epigonichthys:生殖腺が体の右側のみにある
の2属に分けることが出来ます。
雌雄異体で、概観から卵巣(黄色)や精巣(白色)が見えるため、慣れれば♀♂はすぐ見分けられます。
水中に♀♂がそれぞれ卵・精子を放出し、体外受精させます。

遺伝子レヴェルでは、Hoxクラスターが1つしかないというのも特徴。
多くの脊椎動物(特に顎口類;Agnatha)はこれを複数(4つが基本)持っており、

これを研究した大野乾(Susumu Ohno)は、
「脊椎動物のゲノムは遺伝子の重複によって新たな機能を獲得し、進化してきた」といったことを提唱しました。
ナメクジウオのゲノムの倍化に関しては、この前(nature /vol. 435 /19 June 2008 /1064-1072)の論文に大きな躍進。

幼生はなんと左右非対称系で、なかなか観察が難しい…

発生に神経堤細胞(neural crest cell)は見られないようですが、
先に挙げたローハン=ベアード細胞(Rohon-Beard cells)などがそれに類似しているとも言われます。


ナメクジウオは主に砂浜に潜って生活し、
かつては世界中何処の浜にもいたらしく、日本ではシラスのように酢醤油で食べたりしていたようなんですが、
海洋も砂浜も汚れきった現代、少なくとも日本では非常に稀な生物になってしまっています。
生息地として愛知と広島が天然記念物にしていされてはいますが、今はここも…
(今でも中国の一部などには沢山いて、食していたり、工芸品に美しく描かれたりもするようです)
普通砂の中なんですが泳ぐのは意外に素早くて(スタミナないけど)、手で捕まえるのは結構タイヘン。
捕まえると指の隙間に潜ろうと一生懸命になるあたり、とてもカワイイですね♡

脊索動物はカンブリア紀(Cambrian period)中期には既に出現していたようで、
バージェス頁岩(Burgess Shale)のピカイアPikaia gracilensなどがナメクジウオに似た動物としてよく知られています。
ただし、バージェスより古い澄江動物群(Chengjiang biota)から

ミロクンミンギアMyllokunmingia fengjiaoaやハイコウイクチスHaikouichthys ercaicunensisなどが見つかっており、
これらはかなり"原始的"であるにせよ、既に脊椎動物の魚の特徴を持っていたと思われるため、
脊索動物自体の登場はピカイアよりも更に依然に遡ると思われます。
ちなみに澄江動物群から見つかったユンナノゾオン(Yunnanozoon lividum)は当初、
ナメクジウオ同じく頭索動物と考えられていましたが、現在は脊索動物門(Phylum, Chordata)から外れ、
半索動物門(Phylum, Hemichordata)に含めるとされています。


※注1:
 無頭類(Acrania)とは有頭類(Craniota; 現在はほぼ使われないが、脊椎動物の一群をこう呼んだ時代もあった)
 に対して名付けられたものである。
 これが否定されたのと同様、現在一般に浸透している脊椎動物(Vertebrete)に対す"無脊椎動物(Invertebrate)"
 も生物学的には誤り。
 動物界において脊椎動物は単系統のごく小さなグループだが、"無脊椎動物"は"脊椎動物以外"の謂であり、
 ヒトに対す"ヒト以外の動物"、東京都民に対す"道府県民"、
 カレーに入ってるタマネギに対す"カレーに入っていないタマネギ"と本質的に変わらない。
 もっとも、あまりに浸透した言葉ではあるので、専門的な場でもごく便宜的に用いられることはある。


Reference:
動物進化形態学 倉谷滋 :著, (東京大学出版会/ 2004)
・脊椎動物比較形態学"Einführung in die vergleichende Morphologie der Wirbeltiere"
 アドルフ・ポルトマン:著, 島崎三郎:訳, (岩波書店/ 1979)
など

BLOG内LINK:
specimens: その他の収蔵標本
eucarya: ユーカリア。真核生物分類表。
amphioxus genome: ナメクジウオのゲノム解読。ニュース報道が酷かった…

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