Mo Money Mo Problems / P.Diddy Chic meet Hip Hop

　80年発売のダイアナ・ロスの『DIANA』がナイルたちによるオリジナル盤とモータウン側で手直しされ発売されたものと２つあったことは前回述べたとおりです。モータウン盤は、ダイアナ・ロスのボーカルがより映えるようにミックスされていると思います。それによりどうしてもCHICのサウンドが後ろに追いやられている感じがします。これにナイルたちがショックを受けるのは当然のように思います。　
　しかし、全米１位のビックヒットとなった「UPSIDE DOWN」に関しては、モータウンバージョンでせいかいのような気がします。どちらにしろこのビックヒットで、ナイル＆バナードはプロデューサーとしての地位を確立し、後のデヴィッド・ボウイやマドンナからの依頼にもつながるわけですから。
しかし2ndの「I'm Coming Out」はシック側の完勝。Keyのナイルのギターカッティングがモータウンバージョンでは半減。攻撃的なCHICバージョンで行けば、連続1位もあったかもしれません。
　そのナイルの無念を果たしたのが、Bad Boy レーベルの創設者、やり手の敏腕プロデューサー、ショーン・パフィー・コムズ(P.Diddy）です。

　ワシントンＤＣの黒人名門大学のハワード大学在籍中に、アップタウンレーベルに研修生として入り、その後やり手のＡ＆Ｒマンとして頭角をあらわしていく。その功績の始まりは、ボーカル・グループブームとなる先駆けのジョデシーとヒップ・ホップ・クイーンとして後に君臨する事になるメアリーＪＢをシーンに送り込んだ事。そして、この２組を成功させた事でこの男の時代をよむ嗅覚のすごさがわかる。しかし、彼は９４年にアップタウンレーベルを首になる。彼はこういっている、「ひとつの城に２人の王は必要ないんだ。」と。そして、かねてからの構想を実現させる。そう、自身のレーベル、バッド・ボーイ・エンターテイメントの設立である。彼の勢いはここでも加速していく。バッド・ボーイの二大看板ラッパー、クレイグ・マック、そしてノトーリアスＢＩＧ。この２組は一気にブレイク。おれは基本的にボーカルものが好きで、HipHopには否定的なとこがありましたが、パフィー・コムズとノトーリアスによってそのサウンドが浸透していった気がします。
　彼はミュージシャン的なアプローチというより、ほんと統括管理するようなプロデューサーで、アイデアをだし、適材適所の才能を配置するというプロデューサーでもありビジネスマンであり自身もラッパー。
そんな彼が、ナイル・ロジャースやCHICのトラックを使いまくって、ヒップホップサウンドを仕上げるのです。97年のNotorious B.I.G.の全米1位・ミリオンヒットの「Mo Money Mo Problems」です。ノトーリアスもHip Hop東西抗争に巻き込まれこの世を去り伝説の人となりつつありますが、遺作となった『Life After Death』からの2枚目のNo1ヒットとなります。
　ダイアナのオリジナルを知っている人も、このサウンドを懐かしみ、まったくナイルやシックの事を知らない世代も新しいサウンドとして楽しむ。この感覚はその後の新しいスタイルとなっていきます。イントロはナイルのギターカッティングが入り、ダイアナが「I'm Comin」を連発。そしてパフ・ダディーのラッピンが始まり、メイスが引き継ぎ、最後にビギー（Notorious）でしめる。フューチャーボーカルはケリー・プライス。ナイルも17年後、こういうサウンドとして自分が作ったトラックがよみがえるとは思いもしなかったでしょうね。パフィー・コムズもこういうアイデアが閃くというのがさすがです。
　さらにパフィーは「UPSIDE DOWN」の方も女性ラッパーMC LYTEの「Cold Rock A Party」でとりあげます。こっちもR&B5位、Hot100も11位のゴールドシングルに。こっちはちょっとダイアナのエレガントなイメージが強いので、ヒップホップトラックはどうかなという感じはしました。（MCライトのラッピンが好みでないものあるかも）
　まー、パフィー・コムズはナイル・ロジャースやシックの功績をこうして再認識させているのがえらい！彼のナイルサウンドのRemixはまだまだあるので、今後ナイル・ロジャースによるオリジナルと平行して取り上げていきます。