残照日記

晩節を孤芳に生きる。

大同の世

2010-11-24 08:03:32 | 日記
∇厚生労働省の調査によれば、65歳以上の高齢者に対する家族からの虐待件数は、2009年度に1万5615件に達し、調査を始めた06年度以降で最多となったそうだ。児童相談所で対応した児童虐待の件数も4万4210件で過去最悪を更新した。「高齢者」「児童」といった弱者への虐待が年々増加している。しかも、高齢者虐待の加害者の4割が「息子」で最も多かった、とか、トイレに産んだばかりの乳児の遺体を遺棄した、などという鬼母のニュースが流れるたびに暗然たる気持ちになる。古典に載る“養老の滝”の孝行息子の話や、我が身を犠牲にして子を訓育し見守った慈母の逸話の数々は、遠い昔の架空物語となった。テレビをひねり新聞を開けば、やれ「知る権利」がどうの、大臣の問責決議、任命責任がどうのと喧しいが、国民の生活や人格はちっともよくなっていかない。中国古代の聖天子であった尭、舜、禹の時代が懐かしい──

▼<堯(ぎょう)という聖天子は、仁徳や知徳にすぐれ、近づけば太陽の如き温かみがあり、遠く望めば天を覆う雲のように威厳があった。天下を治めること五十年。民衆が自分の政治に満足しているのか不満なのか、周りの家臣に聞いても朝廷の役人に聞いても分からない。そこでおしのび姿で街や村を回って、自分の目で確かめにでかけた。すると、街では子供のはやり歌に「今日もこうして無事に暮らせるのは、尭帝様のおかげです。あなたの徳の深いこと」と歌うのを聞き、村では老人が口に食べ物を含んで腹鼓(はらつづみ)をうち、足で地面を打って調子をとりながら次のように歌うのに出会った。「日が出りゃ働き、日暮れにゃ憩う。のどが渇けば井戸掘って水飲み、腹すきゃ畑を耕し食うだけさ。天子のおかげが何あろう」。すなわち世は天下泰平で、子供も老人も太平を謳歌していることを知って安心したということだ。>(「十八史略」)

▼<孔子が言うには、「大道の行われていた古代や、夏・殷・周三代の最も良かった時期を私は見たわけではないが、記録などによるとこうだ。─ 大道が行われた世は、天下は万民のものとされ、賢人・賢能を選挙して役職を与えて相互の信頼親睦を深めさせた。従って人々は自分の親や子だけを親愛することなく、老人は皆な安楽に身を終え、働き盛りの者は十分仕事を与えられ、幼少の者はすく/\成長し、衿寡孤独(かんかこどく)・廃失等の気の毒な人々は養い育まれた。男にはそれぞれに相応しい職業を持たせ、女は皆な相応しい相手に嫁がせた。財貨は貴ばれたが独り占めはせず、労力は他人のために使役することが重要視された。こういう心がけが行き渡っていたので、計略は用いられず、盗賊などの心配は無用なので、家の戸を鍵で閉める必要もなかった──これを『大同の世』という」と。>(「礼記」礼運篇)

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