残照日記

晩節を孤芳に生きる。

資本主義の行方

2011-11-08 19:16:55 | 日記
○おり立ちて今朝の寒さを驚きぬ
   露しとしとと柿の落葉深く   伊藤左千夫
○白埴の瓶こそよけれ霧ながら
   朝はつめたき水くみにけり   長塚 節

∇長い試行錯誤期間を経て、従来のどの方式よりもベターな社会のあり方であろうと、漸く定着し出した「民主主義」に加え、「資本主義」の行方も昏迷のうちにある。70億人の人口を抱えた「地球」は、「人類全員が幸せを得る」処方箋を発見できずに遅滞し続けている。多くの国が多大な財政赤字を抱え、限られた資源や市場パイの争奪のための競争が激化し、優勝劣敗の原理が世を覆い、貧富の格差は益々拡大している。そしてそれらを惹起したことによる“政治不信現象”は、後進諸国に止まらず、彼らを先導すべき先進国でさえ、有史以来未曾有の深刻課題として、筆頭に踊り出てきた。“海図無き航海”の言葉に似て、未来の「あるべき社会」が見えない。今や、手本とすべき模範国が見当たらないのだ。「インターネット」を媒介とするソーシャルメディアの発展は、従来、政治に関心を寄せていなかった所謂「無党派」層の参加を容易にした。だが、その価値はまだ「ネットに棲む烏合の衆」程度で、以前指摘したように、ある事柄を「批判」したり、体制「崩壊」させたりする破壊力ある民意ツールとしては有効であるが、「建言」「提案」に類する情報の整理や、二律背反する民意の止揚化には、知的に優れ、「中庸バランス」を有する別の「統合者」の存在が必要とされる。そこで初めてベクトルを持った民意形成がなされる必要があるからである。

∇今朝の朝日新聞の「オピニオン」に、国際日本文化研究センター所長の猪木武徳氏のインタビュー記事が載っていた。偶然ながら、「資本主義経済よ、どこへ」と題して……。幾つか共鳴できる鋭い指摘があったので、拾っておきたい。≪民主主義のもとでは財政は常に赤字へと傾かざるをえない。政治家は選挙を考えると課税できず、高齢化で膨らむ社会保障費も削れないからだ。民主主義は「現在」の欲求を満足させるシステムではあるが、次世代の社会がどうなるかを長期的に考えない。そこに欠陥がある。≫≪金融市場のメカニズムは宿命的にバブルが起きやすい。いつか破裂すると分っていても、みな急いでバスに飛び乗る。しかもそれが実体経済を振り回している。…ちょっとでもすきを見て大もうけをしてやろうという人間は、そう簡単に消えない。ただすべての国民がそうなれば国は滅びるが、そういう人々が一部にいるから社会が活性化するという面も無視できない。(二律背反事象)≫≪経済理論は筋道を立てて説明するのに便利だが、現実社会に起きる、きわめて複雑な現象をすべて解決できる完璧な処方箋は描けない。きっと将来も。≫≪国際政治も世界経済も、最後に統治の責任をもつ者がいないと混乱と無秩序を生む。…ほどほどの正義感をもった力のある者に解決をゆだねないと収まらない。結局、当分は米国しか役割を担えないということだ。≫

∇問:米ウォールストリート占拠の標語は「1%が99%を搾取している」だ。そんな社会でいいのか。猪木:≪それはおかしくなるだろう。哲学者アリストテレスは倫理や徳の一番重要な点は中庸にある、と言った。多くを持ちすぎている人間の判断力は怪しい。何も持っていない人間も生きていくために仕方なく暴力を振るったり強奪したりすることがある。ほどほどに持っている人が一番いい判断力を持っている。そう言っている。そんな社会の基盤をつくるのが民主主義の前提だ……中間層が大事なのだ。多くの国民が、自分の暮らしは「中の上」クラスだと感じる状態がいいのである。≫──ウーム、我が国の「一億層中流時代」を、一つの理想と捕えているようだ。こゝの提案は、かなり問題がある。猪木:≪たまたま生まれた家庭環境や、受けた教育の違いという偶然性で褒美の量が決まってしまうのはまずい。スタートラインが違ったり、足に錘をつけて走らされたりするのでは誰も納得しない。正義と公平さが大事だ。≫──これも既に言い古された、もっともな指摘だが、「正義と公平さ」を具体的にどう進めるのかとか、米国の事例のように(日本でも始まったように)、学歴があっても褒美を貰えぬ厳しい経済環境の立直しをどうするかが、喫緊の課題であることも忘れてはならない。≪再配分政策が必要であるが、あまり再配分をやりすぎるとすべて結果平等になり、一生懸命やってもやらなくても同じになる。それでは働く意欲もなくなる。(二律背反事象)≫。──まあ、こんな具合だ。要するに、猪木氏にもどうしたらよいか分っていない。ウーム、大変な時代に差し掛かっている。