グリシャムお得意のリーガル・サスペンスではなく、普通?の小説である。
1950年代の綿畑農家のある季節が、7歳の男の子の視点で描かれている。
もともとビルディングスロマンは好きで、それもたいてい男の子。
主人公をはじめとして過激な労働に従事する農家の平凡な暮らしが描かれているのだが、グリシャムの筆はこびで、先へ先へと読み進みたくなる。
グリシャムは『法律事務所』や『ペリカン文書』など有名であるが、先に映画を観てしまうから、分厚い上下巻は避けてきた。
リーガル物では『処刑室』は読んだことがある。父親世代のKKKのありさまや死刑反対の意図がよく表れていた。
これも、けっこう厚い本だが、秋の夕暮れの景色や摘み取った綿花の重さなどとともに、人びとの生きている実感がひしひしと伝わってくる。
主人公ルークの母親の夢は、ペンキの塗られた家に住むことと、いつか町か都会で暮らすことだった。
働いたら働いただけの対価が得られた時代、それが限りなく安いとしても、なぜかとても懐かしい。
親に守られて平穏だった暮らし、アメリカ南部の、とある少年だけでなく、日本の片隅で育った自分自身の郷愁も誘われる。
一家には次々と問題や災厄が振りかかるのだが、それでもなお、豊かな現代──いま現在の世界情勢よりましに思えるのは、なぜだろうか。
関連*ジョン・グリシャム『スキッピング・クリスマス』というタイトルで、以前にも取り上げていました。カレンダーの2017年12月19日で出てきます。こちらは楽しいユーモア小説