優緋のブログ

HN変えましたので、ブログ名も変えました。

連作「お昼の校内放送」第21回

2006-09-01 18:06:21 | 冬のソナタ
「ジンスク、これ今日かけてもらうレコード。
それから原稿はこれね。
ここのところで曲を入れて欲しいの。
よろしくね。」

「オッケー。
それにしても、こんなレコード、レコード棚の中にあった?
私初めて見る様な気がするわ。
ユジンが持ってきたの?」

「ううん、借りたのよ、ジュンサンから。」

「へぇ~え。」
「なによ。意味深な顔して。」
「ジュンサンと付き合ってるの?」
「そんなんじゃないわよ。
この間『今度の放送で使う曲を探しているから何かいいのないかしら』って相談したの。そうしたら何枚かレコードを持ってきてくれて、そのうちの一枚よ。
よかったらくれるっていってたから、終わったらレコードの棚に入れておいて。」

「了解。」
「なによ、にやにやして。やーね、ジンスクったら。
ほら、時間だわ。はじめましょ。」
ユジンは逃げるように、そそくさとブースの中に入っていった。

「皆さん、こんにちは。
お昼の校内放送の時間です。
今日の放送は、私チョン・ユジンとコン・ジンスクでお送りいたします。」

「そろそろ初雪の季節となりました。
皆さんは初雪の日にはどうされますか?

やはりお友達や恋人と過ごすのでしょうか。

それとも、一人静かに雪を踏みしめながらそぞろ歩く、窓越しに雪を眺めながら本を読む、ちょっと淋しい感じもするけれど、時にはそんなふうに初雪を迎えてみるのもいいかもしれませんね。」

「それではここで音楽をお送りいたします。
私の最近のお気に入りの一曲です。

皆さんはお聞きになったことがあるでしょうか?
もし初めてだったら、どうぞ曲名を当ててみてください。
当てたあなたはきっと感性の鋭い方ですね。

知っている方はどうぞ秘密にしていてくださいね。
では、どうぞ。」


いつもとは違った曲の紹介に、教室では、みんながおしゃべりをやめて聞き耳を立てていた。

音楽が流れ始めると、サンヒョクは“あっ”という顔をし、小声でヨングクに話しかけた。
「この曲は新進気鋭の作曲家の作品で、クラシックやピアノ曲のファンの間ではかなり知られてきている作品だけど…。一般にはまだそれほど知られていない曲だよ。」
「サンヒョク知っているのか?」
「あぁ、聞いたことがある。確か作曲者はまだ大学生だよ。」
「そんな曲、何でユジンが知っているんだ?ユジンはポップな曲を使うことが多いのに。」とヨングクは不思議そうな顔をした。

サンヒョクも自分の知らないユジンを見せられたようで、美しい旋律を聞きながらも心が翳ってゆくのだった。

そのころ、ジュンサンはいつものように屋上でパンを食べた後寝転びながら放送を聴きいていた。
そして音楽が流れ始めると口の端を少し上げて笑みを浮かべ
「もう、屋上で過ごすのは寒いな。教室へ戻るか。」
そう独り言をいうと、ジュンサンは本を持って立ち上がった。


音楽が始まると、ユジンはブースの中から出てきて、お弁当を広げ始めた。
ジンスクは”お先に”という顔をしてすでに食べ始めている。
「あ、ユジンの玉子焼きおいしそう。一つもらっていいかな。」
「いいわよ。」
「さんきゅ。じゃ、私のから変わりに何かとって。はい。」

「へえ~。とっても素敵な曲だね。『初めて』っていうんだ。みんな当てられるかな。」
「ふふふ。どうかしらね。でも、いい曲でしょ。」

「ジュンサンがこういう曲を聴くとはね。
はじめはとっても怖い人かと思ったけれど、案外優しいところがあるのかな。」

「ジュンサンは怖くはないわ。
ちょっととっつきにくいところがあるだけで、本当は淋しがりやなんだと思う。
そんな気がする。」

「ユジン…。ジュンサンが好きなんでしょ。」
「うん。…好きよ。」
今度は照れずにジンスクの目をまっすぐに見て素直に答えた。

「そっかー。がんばってね。」
〈サンヒョクが気の毒だけど、しょうがないよね。
好きっていう気持ちだけはどうしようもないもの…。〉

「ありがとう、ジンスク。
あら、急いで食べなきゃ。曲がもうすぐ終わるわ。」
慌てて口を拭くとユジンはブースの中に戻ってゆき、何事もなかったように放送を再開した。


「いかがでしたでしょうか。皆さん曲名はわかりましたか?
いきなりは難しいですよね。
ではここでヒントをお出ししましょう。
知っている方はまだ教えてはだめですよ。

次の三つの中に答えがあります。さてどれでしょう。
一番 『ときめき』
二番 『初めて』
三番 『戸惑い』


ジュンサンが教室に戻ると、皆が「一番かな」「俺は三番だと思うな」などとざわめいていた。

チェリンはジュンサンを見つけると、
「ねえ、ジュンサン、放送聞いてた?
あなたは何番だと思う?
私はね、一番の『ときめき』だと思うのよ。
乙女が恋る人のことを想う時のあの“ときめき”。
激しくはないけれど、清らかで純粋ででも強い想い。
そんな感じじゃなかった?」

「チェリンらしいな。
俺は半分くらいしか聞いてなかったから…。
どうかな…。」
そう言うとジュンサンは席について数学の本を開いてしまった。
話に乗ってこないジュンサンに、チェリンは諦めてみんなの輪に戻っていくしかない。


「さあ、皆さん意見はまとまりましたか?
では、正解をお教えしましよう。
答えは二番の『初めて』でした。

初めて何かをした時の、初めて何かに出会った時の、そんな戸惑いやためらいやときめきがよく表現されている作品だと思いますが、いかがでしょうか。
そういう意味で言えば、どの答えも正解かもしれませんね。」

「それではここで詩の朗読をお送りします。
題名は今日の曲にちなんで『初めて』です。」


もう一歩
そのもう一歩を踏み出せば
違う世界が見えてくる
きっときっと見えてくる

今日は昨日の続きだけれど
明日は今日の続きだけれど
今、このときを輝かせる
そうすることもできるんだ

初めて出会うその風景
どんな出会いが待っている?
本当にうまくいくかしら?

それはやってみなければわからない
うまくいかないかもしれない
失敗したらどうしよう
そんな弱気が足を留まらせる

『初めて』には
ほんの少しの勇気があればいい

そうすれば昨日と違う私になれる
心ときめく未来をつかめる



これで今日の放送を終わります。
担当はチョン・ユジン、コン・ジンスクでした。
では、またあした。」



「チョン・ユジン!」
「はい!」
放課後、廊下でカガメルに呼び止められたユジンはドキッとした。
〈なんか怒られることしたっけ?昨日の掃除がまずかったのかしら?〉

「いやぁ、今日の放送はなかなかよかった。格調高くてな。
あの詩は自作か?」
「あ、はい。下手な詩で申し訳ありません。」
「いや、上手下手じゃないんだ。よかったぞ。
詩は文化だからな。
文化は継承していかなくてはいけない。
有名な作品を朗読するのもいいが、これからは自分達で作った詩も発表していくといい。
部長のキム・サンヒョクにも言っておこう。」

上機嫌で立ち去るカガメルの背中を見ながら、ユジンは「ふぅ~」とため息をついた。
〈あぁ、びっくりした。また何か怒られるのかと思った。
カガメルは詩が好きなのね。
どおりで詩の朗読の練習をよくさせられる筈だわ。
…今日の詩、ジュンサン聞いてくれたかしら。〉

ユジンは、何かにためらっているような焼却場でのジュンサンを思い出していた。


ためらいて 悩む君が背 押さんとす
        吾のみが知る 笑顔見んとて

もしかして それであなたが 傷ついて
         血を流したら 私も泣こう

憎くても 会えるのならば いいじゃない
        私は父に もう会えないの

その命 与えてくれた 人ならば
       憎まずにどうか 愛して欲しい


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14 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
局様、ごめんなさい! (poppo)
2006-09-01 21:04:25
すでに第20回はseikoさんがアップなさってまして…局様の作品を「第21回」と修正していただけないでしょうか。よろしくお願いいたします。<(_ _)>
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こちらこそ、失礼しました! (阿波の局)
2006-09-01 21:49:40
poppoさん、お知らせしないうちにさっそくおいでいただきありがとうございます。



タイトル修正いたしました。

今度は(あればですが…笑)UPする前にご連絡いたしますね。
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楽しく読ませて頂きました。 (子狸)
2006-09-01 22:22:48
ありがとうございます。

代打が1打席だけではなくて、とてもうれしく思います。

素敵なストーリー…『初めて』…生きていますね。

カガメル先生も出演されて、ユジンの詩もさわやかで…局さまらしい「短歌」も味わえて…盛りだくさんだけれど、しっとりとまとまっていらっしゃるところが、さすがだと思います。

早速、リンクを張らせて頂きます。

いっそ、レギュラーでお願いできませんか。
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ごめんなさい…。 (seiko)
2006-09-02 00:33:33
局様 (ごめんなさい そう呼ばせてくださいね)こんばんは。私の校内放送のUPが遅い時間でしたので Poppoさんや局様にご迷惑をおかけ致しました。すみませんでした。「初めて」の曲あては 『大学生の…』のところですぐにわかりました。素敵な曲ですよね。大好きです。局様の書かれた詩も素敵です…。「初めて」には ほんの少しの勇気があればいい…。この部分が 印象に残りました…。
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さすが! (うさこ)
2006-09-02 16:12:20
「巨匠ここにあり」って感じです。



まっすぐなユジンを感じます。



私、凛としたしなやかなユジンが大好きです。



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Unknown (ruri)
2006-09-02 21:31:55
「初めて」いい曲でしたね…。

本当に 初々しさがでていて 好きです!

「初めて」のレコードが ただひっそりと直されていないで みんなに聞いてもらえてうれしいです。

ユジンがよくかけていた…という台詞がありましたね…。

きっと…密かに涙しながら…かけたのでしょうね…。
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後一回、かな? (阿波の局)
2006-09-03 08:06:13
子狸さん、おはようございます。

コメントありがとうございます。



皆さんのように軽やかな文章じゃなくて、重いでしょう?

久しぶりなのでなおさらかも。



レギュラーは、多分無理でしょう。

もうネタないですから。笑



後一回、シニョンとサンヒョクの当番の日の様子は書きたいと思っています。
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わざわざすみません (阿波の局)
2006-09-03 08:14:56
seikoさん、おはようございます。

わざわざご挨拶、ありがとうございます。



私のほうこそ、続きならばまとめてUPできればよかったのですが、一回きりのつもりが長くなってしまって、poppoさんにもご迷惑おかけしました。



seikoさん、初めての創作はいかがでしたか?

やみつきになりません?
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巨匠はやめましょうよ・・・ (阿波の局)
2006-09-03 08:18:04
うさこさん、おはようございます。



poppoさんはじめきらぼしのように輝いている皆さんの前では、お恥ずかしいですわ…。



うさこさんも、筆が乗っているようですね。

またおじゃまします。
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Unknown (阿波の局)
2006-09-03 08:23:55
ruriさん、おはようございます。

コメントありがとうございます。



皆さんのようにいろいろな曲を知らないもので、使うなら『初めて』と思っていました。

私の知人(ピアノを教えている方)はあの曲から冬ソナファンになったという人もいるのです。

私も大好きです。



そう、「ユジンがよくかけていた」という台詞と部室にレコードが残っていたというエピソードを生かしたかったのです。

あのときのユジンは辛そうでしたね。
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