オータムリーフの部屋

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貧困大国アメリカ―堤未果

2014-04-30 | 政治
貧困層は最貧困層へ、中流の人々も尋常ならざるペースで貧困層へと転落していく。高い乳児死亡率。一日一食食べるのがやっとの育ち盛りの子どもたち。無保険状態で病気や怪我の恐怖に脅える労働者たち。選択肢を奪われ戦場へと駆り立てられていく若者たち。人々の苦難の上で暴利をむさぼるグローバル・ビジネスの実相とはいかなるものか。追いやられる側の人々の肉声を通して、その現状に迫る。

「行き過ぎた市場原理主義」「コーポラティズム(談合主義)」を告発する『貧困大国アメリカ』シリーズの3冊目にして、完結編だ。 今回は農業や食が取り上げられており、生活や健康に直結するこの分野でも、大企業の利益優先の構造は変わらないと言う。オバマ大統領も弱者を救い中間層を育てる有効な手立てを打てず、逆に有力企業や富裕層に法律までコントロールされる始末である。アメリカは今や、金持ちの金持ちによる金持ちのための国になり下がった。

 1%対 99%の構図が世界に広がる中、アメリカでは人々の食卓、街、政治、司法、メディア、人々の暮らし、あらゆるものが巨大企業にのまれていく。SNAPとはアメリカ政府が低所得層や高齢者、障害者や失業者などに提供する食料支援プログラムだ。以前は「フードスタンプ」と呼ばれていたが、2008年10月にSNAPと名称を変えた。受給額は州や受給者の収入によって異なるが、ニューヨーク州では、単身者で月収1180ドル(約11万8000円)以下なら月117ドル(約1万1700円分)支給される。全米の平均支給月額は132ドル(約1万3200円)。嗜好品は買えず、あくまでも食品のみという条件付きだ。 アメリカの貧困率と失業者の数は、リーマンショック以来増え続けている。四人家族で年収2万3314ドル(約230万円)という、国の定める貧困ライン以下で暮らす国民は現在4600万人、うち1600万人が子どもだ。失業率は9.6%(2010年)だが、職探しをあきらめた潜在的失業者も加算すると実質20%という驚異的な数字となる。16歳から29歳までの若者の失業率を見ると、2000年の33%から45%に上昇、経済的に自立できず親と同居している若者は600万人だ。 SNAP受給者は年々増加し、2012年8月31日のUSDA(農務省)発表では、約4667万373人と過去最高に達した。1970年には国民の50人に1人だったのが、今では7人に1人がSNAPに依存している。SNAPでは、安くてカロリーが高いジャンクフードやジュースなどが選択されがちで、この20年、アメリカでは子どもの2型糖尿病が激増している。 貧困層ほど、偏った食事をしており、健康状態も悪化しやすい。ウォルマート広報部門担当で副社長のレスリー・ダックは、同社の収益におけるSNAPの重要性を語る。「SNAPからの収入は我が社にとって大変大きいですね。多くの州でSNAP利用者の2人に1人が、ウォルマートで食品を購入してくれています。」「公共のための科学センター(Center for Science in the Public Interest)」の調査によると、炭酸飲料や砂糖を含む清涼飲料水産業も、2010年度だけでSNAPによる売り上げが40億ドル(約4000億円)と、こちらもSNAPから巨額の利益が流れ込んでいる。「ワーキングプア人口の拡大で、黙っていても利用者がどんどん増えるSNAPは、食品業界にとってドル箱になっているんです。」 まともな待遇の雇用を確保するよりも、低賃金の単純労働+SNAPでとりあえずなんとか食べられるくらいの保障はして生き延びさせ、その食費も大企業に吸収されるようになっているわけだ。

 2012年10月。メジャーリーグの試合で盛り上がるミシガン州デトロイト市のタイガース球場入り口では、こんなチラシが配られていた。
「注意! デトロイトには自己責任でお入りください」
・デトロイトは全米一暴力的な町です。
・デトロイトは全米一殺人件数の多い町です。
・デトロイト市警は人手不足です。
・人手不足のため12時間シフトで働かされ……警官は疲労困憊しています。
・デトロイト市警の賃金は全米最低ですが、市はさらに1割カットしようとしています。

 配布していたのは、現役のデトロイト市警官たちだ。デトロイトは2000年から2010年の10年間で、住民の4分の1が郊外や州外に逃げ出してしまった町だ。財政破綻による「歳出削減」で犯罪率が増えているにもかかわらず市は公共部門の切り捨てを実施、学校や消防署、警察などのサービスが次々に凍結されている。こうした傾向はミシガン州だけでなく、全米の自治体で起きている。2010年7月にはやはり財政難に陥ったオレゴン州の自治体が維持費が続かずに刑務所を閉鎖、すでに警官が大量解雇された町中に刑期を終えていない囚人があふれだし、恐怖のあまり州外に逃げる住民が急増した。 また、大企業は「安い給料でも辞めずに働く労働力」として「囚人」に目をつけて、どんどん酷使している。州によっては、囚人労働力確保のため、早期釈放を行わない制度まで導入されている。名目上は「犯罪者に厳罰を与える」ということだが、一般社会で生活している人が、どんなに安い賃金でガマンするとしても、囚人にはかなわない。
 また、2005年には「完全民間経営自治体サンディ・スプリングス」が誕生した。 人口10万人のこの町は、富裕層で占められ、大手建設会社によって「運営」されている。 その成り立ちは、ハリケーン・カトリーナによって水没した地域だった。住民のほとんどがアフリカ系アメリカ人の低所得層だったことから、近郊に住む富裕層の不満が拡大した。共和党の彼らは、なぜ自分たちの税金が、貧しい人たちの公共サービスに吸い取られなければいけないのか? ハリケーンで壊滅状態の被災地を、わざわざ莫大な予算をかけて復興させても、住民の多くは自活できない貧困層。政府の介入の仕方はまるで社会主義だ。私たちはいったい、今後も延々と行政支援を必要とする人々のために、どれだけ貴重な税金を投じなければならないのか? どうしても納得いかない彼らは住民投票を行い、ベストな解決策を打ち出した。 郡を離れ、富裕層だけの自治体を作って独立すればいいのだ。


「本当の景気回復」とは、株価や企業収益ばかりが高くなり、格差拡大を進めることではない。通貨安や株高を先行させたとしても、「ほんとうの景気回復」など達成されるわけがない。2013年の4~6月期のGDPでは、民間設備投資は前期比で1.3%増とプラスに転じたが、それは、建設業が26.0%増、不動産業が20.1%増と大幅な伸びを示したからだ。公共工事の増加による伸びであり、肝心の製造業は9.1%減と3四半期連続で減少した。

 2012年の対ドル平均為替レートである79円から100円前後まで円安が進んだことにより、輸出量が増えたと言う話もない。1年以上も前年割れを続けていた輸出数量は、2013年7月にようやく前年比で1.8パーセント増、8月も1.9%増となったが、9月は再び1.9%減とマイナスに転じ、一進一退が続いている。量的緩和をし、円安にしたところで、顕著な需要の増加が見込めなければ、日本企業が設備投資に動くはずがない。
 失業率が低下したと言っても、被雇用者数の増減を雇用形態別でみると、契約社員、パートタイマーをはじめとする非正規の雇用者数が2013年初めから大きく増える一方で、正規の雇用者数は減少傾向をたどっている。アベノミクスが招いた物価上昇もコスト・プッシュ型(コスト高による値上げ)で、望ましいデマンド・プル型(需要増による値上げ)ではない。
結局のところ、日本もアメリカと同じく、物価は上がっても給料は上がらないという悪性インフレになる可能性が高く、給料が上がるのは、一部の大企業だけだ。おまけに、インフレは日本国民の貯金を目減りさせる。その一方で、外国人投資家は日本がインフレ国家になることを期待して、日本株の保有比率を高めている。そのせいか、日本企業の株主重視の傾向が強まっており、労働分配率を引き下げて、利益率を引き上げる企業が増える。つまり、労働者を「使い捨て」にする企業が増え、それを政策で支援するのが安部政権だ。
 
 
 解雇規制の緩和、成果主義に名を借りた残業代ゼロに見る労働時間規制緩和、これからも大企業支援の政策は目白押しだろう。それにもかかわらず、連合(古賀伸明会長)は26日、第85回メーデー中央大会で安倍晋三首相が来賓として招待した。「企業収益が賃金の上昇につながることが大切。働く人が景気回復を実感できるよう全力を挙げる」とあいさつ、春闘の賃上げで“共闘”したことをアピールした。連合はここまで堕落している。
 幕張メッセで開設された3回目のニコニコ超会議3で各政党がブースを設置した。自民党が唐突に東条英機のコスプレイヤーを出してきて会場は大歓声。『将来、戦地に行かされるであろう若者愚民』にメッセージを発信した。ニコニコ動画の親会社は、ドワンゴで麻生太郎の甥・麻生巌が取締役を務めている。長男の将豊は、「エクストーン」なる会社のオーナーで、ニコニコ動画を使っての市場調査、ニコニコ動画の企画・開発・保守を一手に引き受けている。「麻生」(株)は九州を本拠地とするRKB毎日放送の株を買い占め、第3位の大株主(2013年8月末日の時点)だと言う。政治家、それも副総理大臣の座にある人間の親族で固められている企業が、実質、マスメディアを乗っ取っているのだ。
 もちろん「ニコニコ超会議3」に安倍晋三がやってきて、アニメのキャラクターをド派手にペインティングした「痛車」の上で、愚民たちに向けて演説をした。

 国民の6人に1人が貧困層、国民の3人に1人が貧困層および貧困層予備軍に分類されるアメリカ、人口の2人に1人近くがワーキングプアの状況にあるアメリカは、まさに「貧困大国」。そして、日本の安部政権が目指すのも愚民政策による貧困大国と言うことだろう。



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