逆境から立ち直る力、「レジリエンス」。多くの人が厳しい競争にさらされている現代。過去の体験を振り返る事によって、逆境力を高める。更に、食事のとり方にも心を折れにくくする秘けつが。折れない心をどう育てるのか。レジリエンス研究の最前線に迫る。
きっかけの1つとなったのが、第2次世界大戦でホロコーストを経験した孤児たちの研究。孤児たちのその後を調査すると、過去のトラウマや不安にさいなまれ生きる気力を持てない人たちがいる一方で、トラウマを乗り越え仕事に前向きに取り組み、幸せな家庭を築く人たちもいた。研究から、逆境を乗り越えた人たちには共通の傾向がある事が分かってきた。
心理学者 イローナ・ボニウェル博士
「レジリエンスには、思考の柔軟性が必要な事が分かってきました。つまり、厳しい状況でもネガティブな面だけではなくポジティブな面を見いだす事ができる人が、逆境を乗り越える事ができるのです。」
心の折れやすい人と折れにくい人の違いをユニークな実験で明らかにしようとするのが、埼玉学園大学の小玉正博教授。
小玉教授が実験に用いるのは、けん玉。参加者が課題を諦めてしまうまでの時間や過程を観察すると…。
20分ほどで諦めてしまう、心が折れやすい人たちに共通した特徴は感情の起伏が激しい事。反応が強すぎると、長持ちしない。一喜一憂するのはエネルギーの消耗。さらに課題に対して最初から無理と決めつけていたり、自分の力を過小評価する傾向があった。
レジリエンスには、状況に一喜一憂しない感情をコントロールする力や、自分の力を過小評価しない自尊感情が大きく関係する。
挑戦を諦めなかった人たちは、少しずつ成長していると感じている人や、いつかできるだろうと考える楽観的な人が多い。
埼玉学園大学 小玉正博教授
「一般的に“心が強い”とイメージするのは、“鋼のような”、“跳ね返す”、“硬い”、“頑丈な”というイメージを持つが、レジリエンスというのは、自分のいる状況に対して前向きに、不安とかそういうものに打ち負けないでしなやかにこなしていく。そういう心の持ちようがレジリエンスだということが、明らかになってきました。諦めるにしても、自分にとって大切でないと判断して、そこで諦めるのも大事な心の力だと思うんです。ただ一方で私たちっていうのは、ほかの人と一緒に生きてますから、やはりそのほかの人と一緒に生きる力っていうのも同時に大事になってくると思います。やっぱり愚痴を言ったり困った事を話をしたり一緒に笑ったりっていうそういう関係があるっていうのはすごく大事な事ですね。社会の中で孤立をしやすい状況になっていて、そのために精神的につらくなりやすくなってるんだと思うんですね。」
大手製薬会社の取り組み。
食事のとり方を変える事でレジリエンスを高めようという。「少量を頻繁に食べると、血中のブドウ糖を安定させ、(レジリエンスに)必要なエネルギーが維持されます。」ポイントとなるのは、脳のエネルギー源となるブドウ糖。ブドウ糖が少なくなると集中力が落ち、感情の起伏が激しくなるといわれている。食事を少量ずつ3時間置きにする事で、ブドウ糖を一定のレベルに保ち、感情をコントロールする力を高めレジリエンスにつなげようというやり方。そして運動も重視する。全力でのランニングを何度も繰り返すインターバルトレーニングを、レジリエンスに効果があると言う。体力の限界を乗り越える経験を通じて、自己効力感が養われる。トレーニングに参加した1万人の社員のうちおよそ8割が、職場におけるメンタルヘルスを改善し、仕事のパフォーマンスが上がったという結果が出ている。
厚生労働省の発表によると、平成23年度の精神障害の労災申請件数は3年連続で過去最高を更新。自殺者数も1998年以降、毎年3万人を超え続けており、なかでも30代の自殺率が非常に高くなっている。そのような状況のなか、ビジネス界で注目されているキーワードも「レジリエンス(resilience)」だ。単なる「メンタルタフネス」にとどまらず、仕事や生活のさまざまな困難や変化にしなやかに対応できる「強さ」や「折れない心」のことを表す新しい概念だ。 「リーマンショック後、国営企業までもリストラが行われた欧州で特に広まり、日本では東日本大震災後に注目が高まった。予測不可能な環境の激変や先の読めない状況下でもしなやかに力強く対応できる人材が今、最も求められている」(従業員支援プログラムの研究を行う国際EAP研究センターの市川佳居センター長)。昔から厳しい競争社会で知られる米国ではレジリエンスは30年前から研究されており、その育成プログラムは世界各国で人気を集めている。
「世界経済フォーラム」(いわゆる「ダボス会議」)のメイン・テーマとして、去年は、「レジリエント・ダイナミズム」が取り上げられていたと言う。安倍内閣のさまざまな取り組みの中でも特に重要視されており、レジリエンスの取り組みのための担当大臣(古屋圭司国土強靱化担当大臣)が設置されると共に、その下に、特別の有識者会議(ナショナル・レジリエンス(防災・減災)懇談会)が設置されていると言う。
安倍総理は就任後、自らが組閣した内閣を「危機突破内閣」と命名し、そして、そんな危機を突破するためにどうしても求められる「レジリエンス」を確保するための取り組みを精力的に進めている、という。
レジリエンスと言う概念は広範囲で、マクロ的には経済のみならず社会、国土といった次元で取り上げられるらしい。
日本経済そのものを「強靭化」する取り組み、すなわち「経済レジリエンス」を獲得するための取り組みを安倍政権は実践していると言うことになるらしい。経済の強靭化だけではなく、国土、国民にまで拡張し、列島強靭化政策を展開しているのだそうだ。
経済レジリエンスは、「市場の原理」のみでは確保することが困難であり、それに関わる人々の「社会心理」や「コミュニティの力」「組織の力」を活用することが不可欠であると言う。折れにくい心の構築に迫るポジティブ心理学はよしとするが、企業戦士を造る戦略に利用されているのかと思うと、興ざめである。派遣という不安定な雇用形態でも希望を失わずにしなやかに働く。窮乏生活の中で愛を育み、子育てにまい進し、安価な労働力を再生産する。「アベノミクス」と並び、新語が生まれた「アベデュケーション」による愛国心豊かな国民の育成。これが現代版「期待される人間像」か?・・・・・
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