ネット検索で「デバイスラグ」として探していたところ、興味深い会議資料を見つけ
ることができました。
新ビジョン策定WG団体提出資料(平成19年8月2日)というものなのですが、これは、
医療機器業界がまとめあげた資料のようで、その中には、様々なデータと行政の
提言が掲載されているものでした。幾つかの事実と、業界側からの「申し立て」を
ご紹介してみたいと思います。
医療機器の認可には大きく分けて二種類あります。
◇新規医療機器申請 (クラス3,4のもので新たに申請する製品)
◇一部変更申請 (主にクラス3で既に承認済み品の改良による部分変更申請)
添付の図は、それらの申請に対するPMDAによる審査期間を現したものなのですが
これを見ますと、平成18年で一部変更申請品目では169件が審査されて、その平均
審査期間は500日以上。また、新規医療機器でも約500日としては変わらないようで
す。しかも、この新規医療機器はわずか8件です。これだけを見るとそれが
早いのか遅いのか、妥当なのか、遅すぎるのかがわからないのですが、これを米国
FDAにおけるシステムと比較するとその差が歴然とわかってきます。
米国と日本ではクラス分類の基準が微妙に異なるのですが、日本のクラスIIIに
あたる製品が米国ではクラスIIとなっているケースが多いようです。ここでいう
クラスというのは、いわば製品をその機能と生体に対するリスク(生命を脅かす)
から分類したものとお考え下さい。
以下Wikipediaより
医療機器は、その機器の人体等に及ぼす危険度に応じ、国際基準GHTFルールに基づ
き国際的なクラス分類がされている。日本ではこのクラス分類に基づいて、厚生労
働省告示により既存の医療機器が分類されている。
クラスIはもっとも人体への危険度が低いものであり、IVは副作用・機能障害などの
不具合が生じた場合、人の生命・健康に重大な影響を与えるおそれがあるとして最
も危険度が高いとされるものである。
* クラスI(一般医療機器)
* クラスII(管理医療機器)
* クラスIII(高度管理医療機器)
* クラスIV(高度管理医療機器)
例えば、医療用ハサミ、ピンセットが......................クラスI
消化器用カテーテルが.................................クラスII
透析器、人工骨、人工呼吸器が...................クラスIII
ペースメーカー、人工心臓弁、ステントがクラスIV
グーグル検索(キーワード:米国FDA クラス分類)で検索すると、3ページ目に
「医療機器」というPDFがダウンロードできます。これは市場調査企業による
国内の医療機器市場に関する調査報告書となっています。
行政による規制(薬事承認)
薬事承認が大きな障壁であると感じている外資系企業は少なくない。医療機器の種類に
もよるが、日本での承認には時間がかかると認識されており、実際に、最近承認された先
端医療機器では、承認を得るまでに2 年近くかかったという例もある。また、米国の治験
データを日本の承認申請の際に適用できることになってはいるが、米国FDA の認可の内容
と日本の厚生労働省の認可の内容は同じではないので、追加で治験を行う必要が生じ、結
局時間がかかってしまうことも指摘されている。
この規制が障壁となって、日本に導入されていない最新機器も世の中にはたくさんある。
これは、患者から見ても大きな損失であるという意見もあった。
承認申請の実態
メーカーへのヒアリングより、外資系企業は国内企業に比べ、承認申請に苦労している
実態が見られた。
たとえば、実際の承認申請には、必ずしも表4 で示した標準期間内では完了せず、倍以
上の時間がかかるケースもあるということであった。
国際整合化についても、制度的には外国の臨床試験データの適用が可能となっているが、
現実にはあまり適用できないようである。その理由としては、機器のリスク分類(表3)が
国によって異なるため必要な試験が異なる場合があること、審査に用いられるデータの種
類が各国間で異なること等が挙げられる。
承認申請の遅れにより、米国に比べて数世代も遅れてしまっている機器もあり、これは
患者にとって大いなる不利益であるという意見も聞かれた。
また、申請時には、以前に比べて多くのデータの提出を要求される傾向にあるという。
この傾向は、薬事法改正のポイントである医療機器の安全性の保証の観点から、今後も高
まると思われる
...................................................................
(august03より)
一般人にはまったく馴染みのない世界の出来事に入りこんでいるために、ここに
記載されていることの内容把握に苦労されると思います。私も、かなりいろいろな
資料を読み込み、関連するもの/派生するものをあちらから、こちら、こちらから
あちらという具合に読み進めて、ようやく少しづつ全体像と、その問題点の影が
見えてきたかなあ、という感じです。
新たに医療機器の認可を得るうえで、背景として様々な問題/課題があるわけですが
ここでは、単純に、日本の審査期間とその結果の認可品数を米国のそれと比較して
みたいと思います。
そこで日本の審査期間に関するデータとして、添付図の資料を利用することにします。
ただし、実態としては、500日を超えてる例もある、ということを頭の片隅において
おく必要もあると思います。
一方の米国ですが、こちらはクラスII製品(大半は日本のクラスIIIに該当)は
日本とはまったく異なるシステムが稼働しています。
それは 510(k)....ファイブテンケエーと呼ばれています。市販前届という制度で
メーカーが新しい製品/改良した製品を市場で販売開始する前に、その内容をまとめ
た資料をFDAに「届出」することになります。pre-market notificationといいます
クラス分類の中身が日本と米国では異なるために、単純に比較することができない
のですが、日本ではクラスIIIに分類される製品が、米国ではクラスIIに該当する
ということが、デバイスラグの背景にはあるようです。
また、日本では「認可」(approval)に対して米国では「届出」(notification)であり
日本が様々なデータを審査して認可が与えられるのに対して、米国では、届出された
内容を審査はするのでしょうが、そもそもがクラスII(リスクがそれほど高くない)
と分類された製品ですから、その審査基準がおのずと厳しくはない。と言えそうです。
ところで、その審査期間ですが、日本が実態として約500日かかっているの対して
米国510(k)では、申請書類がFDAに提出されてから 90日以内に販売開始を許可するか
しないかの回答をださなければならない。というルールのもとで運用されています。
http://www.fda.gov/CDRH/510khome.html
しかも、この510(k)にはさらに幾つかのシステムがあり、たとえばすでに510(k)
をクリアして..... “cleared”という表現になります。approvedではなく、cleared
というこの言葉にも、制度の差を感じるのですが.......いる製品を「改良」する
場合には、30日以内の回答とか、条件によってはまったく書類の届出すらも不要。
というパターンもあります。
つまり、実態として
日本 米国
500日 90日/30日/0日
これでは、デバイスラグが生じるのも当然の帰結といえそうです。
資料によりますと、FDAで審査にあたる職員数はPMDAの10倍もいる、とのことで
PMDAはいま増員を計画しているようです。
増員は確かに必要だと思います。
しかし、仮に、FDAと同じだけの人数を揃えたとしても、そもそも審査基準も違えば、
審査制度(法体系)自体も大きく異なる、というこの状態において、米国FDA並みに
なるはずがないのは、火を見るより明らか。
増員とともに、制度自体にも大きな改革が必要なのではないでしょうか。
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ブログ内の関連記事
「ひとつの仕事を達成するには2年は短すぎます」
医療行政シリーズ No.2
http://blog.goo.ne.jp/august03/e/6a2ceac56fb5ed50f0170c0cb144978e
「新しい法律を求めて 人道的必要性を有する希少疾病用医療機器」
医療行政シリーズ No.1
http://blog.goo.ne.jp/august03/e/b99a086d250884721f9ad030101adf6d
ることができました。
新ビジョン策定WG団体提出資料(平成19年8月2日)というものなのですが、これは、
医療機器業界がまとめあげた資料のようで、その中には、様々なデータと行政の
提言が掲載されているものでした。幾つかの事実と、業界側からの「申し立て」を
ご紹介してみたいと思います。
医療機器の認可には大きく分けて二種類あります。
◇新規医療機器申請 (クラス3,4のもので新たに申請する製品)
◇一部変更申請 (主にクラス3で既に承認済み品の改良による部分変更申請)
添付の図は、それらの申請に対するPMDAによる審査期間を現したものなのですが
これを見ますと、平成18年で一部変更申請品目では169件が審査されて、その平均
審査期間は500日以上。また、新規医療機器でも約500日としては変わらないようで
す。しかも、この新規医療機器はわずか8件です。これだけを見るとそれが
早いのか遅いのか、妥当なのか、遅すぎるのかがわからないのですが、これを米国
FDAにおけるシステムと比較するとその差が歴然とわかってきます。
米国と日本ではクラス分類の基準が微妙に異なるのですが、日本のクラスIIIに
あたる製品が米国ではクラスIIとなっているケースが多いようです。ここでいう
クラスというのは、いわば製品をその機能と生体に対するリスク(生命を脅かす)
から分類したものとお考え下さい。
以下Wikipediaより
医療機器は、その機器の人体等に及ぼす危険度に応じ、国際基準GHTFルールに基づ
き国際的なクラス分類がされている。日本ではこのクラス分類に基づいて、厚生労
働省告示により既存の医療機器が分類されている。
クラスIはもっとも人体への危険度が低いものであり、IVは副作用・機能障害などの
不具合が生じた場合、人の生命・健康に重大な影響を与えるおそれがあるとして最
も危険度が高いとされるものである。
* クラスI(一般医療機器)
* クラスII(管理医療機器)
* クラスIII(高度管理医療機器)
* クラスIV(高度管理医療機器)
例えば、医療用ハサミ、ピンセットが......................クラスI
消化器用カテーテルが.................................クラスII
透析器、人工骨、人工呼吸器が...................クラスIII
ペースメーカー、人工心臓弁、ステントがクラスIV
グーグル検索(キーワード:米国FDA クラス分類)で検索すると、3ページ目に
「医療機器」というPDFがダウンロードできます。これは市場調査企業による
国内の医療機器市場に関する調査報告書となっています。
行政による規制(薬事承認)
薬事承認が大きな障壁であると感じている外資系企業は少なくない。医療機器の種類に
もよるが、日本での承認には時間がかかると認識されており、実際に、最近承認された先
端医療機器では、承認を得るまでに2 年近くかかったという例もある。また、米国の治験
データを日本の承認申請の際に適用できることになってはいるが、米国FDA の認可の内容
と日本の厚生労働省の認可の内容は同じではないので、追加で治験を行う必要が生じ、結
局時間がかかってしまうことも指摘されている。
この規制が障壁となって、日本に導入されていない最新機器も世の中にはたくさんある。
これは、患者から見ても大きな損失であるという意見もあった。
承認申請の実態
メーカーへのヒアリングより、外資系企業は国内企業に比べ、承認申請に苦労している
実態が見られた。
たとえば、実際の承認申請には、必ずしも表4 で示した標準期間内では完了せず、倍以
上の時間がかかるケースもあるということであった。
国際整合化についても、制度的には外国の臨床試験データの適用が可能となっているが、
現実にはあまり適用できないようである。その理由としては、機器のリスク分類(表3)が
国によって異なるため必要な試験が異なる場合があること、審査に用いられるデータの種
類が各国間で異なること等が挙げられる。
承認申請の遅れにより、米国に比べて数世代も遅れてしまっている機器もあり、これは
患者にとって大いなる不利益であるという意見も聞かれた。
また、申請時には、以前に比べて多くのデータの提出を要求される傾向にあるという。
この傾向は、薬事法改正のポイントである医療機器の安全性の保証の観点から、今後も高
まると思われる
...................................................................
(august03より)
一般人にはまったく馴染みのない世界の出来事に入りこんでいるために、ここに
記載されていることの内容把握に苦労されると思います。私も、かなりいろいろな
資料を読み込み、関連するもの/派生するものをあちらから、こちら、こちらから
あちらという具合に読み進めて、ようやく少しづつ全体像と、その問題点の影が
見えてきたかなあ、という感じです。
新たに医療機器の認可を得るうえで、背景として様々な問題/課題があるわけですが
ここでは、単純に、日本の審査期間とその結果の認可品数を米国のそれと比較して
みたいと思います。
そこで日本の審査期間に関するデータとして、添付図の資料を利用することにします。
ただし、実態としては、500日を超えてる例もある、ということを頭の片隅において
おく必要もあると思います。
一方の米国ですが、こちらはクラスII製品(大半は日本のクラスIIIに該当)は
日本とはまったく異なるシステムが稼働しています。
それは 510(k)....ファイブテンケエーと呼ばれています。市販前届という制度で
メーカーが新しい製品/改良した製品を市場で販売開始する前に、その内容をまとめ
た資料をFDAに「届出」することになります。pre-market notificationといいます
クラス分類の中身が日本と米国では異なるために、単純に比較することができない
のですが、日本ではクラスIIIに分類される製品が、米国ではクラスIIに該当する
ということが、デバイスラグの背景にはあるようです。
また、日本では「認可」(approval)に対して米国では「届出」(notification)であり
日本が様々なデータを審査して認可が与えられるのに対して、米国では、届出された
内容を審査はするのでしょうが、そもそもがクラスII(リスクがそれほど高くない)
と分類された製品ですから、その審査基準がおのずと厳しくはない。と言えそうです。
ところで、その審査期間ですが、日本が実態として約500日かかっているの対して
米国510(k)では、申請書類がFDAに提出されてから 90日以内に販売開始を許可するか
しないかの回答をださなければならない。というルールのもとで運用されています。
http://www.fda.gov/CDRH/510khome.html
しかも、この510(k)にはさらに幾つかのシステムがあり、たとえばすでに510(k)
をクリアして..... “cleared”という表現になります。approvedではなく、cleared
というこの言葉にも、制度の差を感じるのですが.......いる製品を「改良」する
場合には、30日以内の回答とか、条件によってはまったく書類の届出すらも不要。
というパターンもあります。
つまり、実態として
日本 米国
500日 90日/30日/0日
これでは、デバイスラグが生じるのも当然の帰結といえそうです。
資料によりますと、FDAで審査にあたる職員数はPMDAの10倍もいる、とのことで
PMDAはいま増員を計画しているようです。
増員は確かに必要だと思います。
しかし、仮に、FDAと同じだけの人数を揃えたとしても、そもそも審査基準も違えば、
審査制度(法体系)自体も大きく異なる、というこの状態において、米国FDA並みに
なるはずがないのは、火を見るより明らか。
増員とともに、制度自体にも大きな改革が必要なのではないでしょうか。
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http://blog.goo.ne.jp/august03/e/6a2ceac56fb5ed50f0170c0cb144978e
「新しい法律を求めて 人道的必要性を有する希少疾病用医療機器」
医療行政シリーズ No.1
http://blog.goo.ne.jp/august03/e/b99a086d250884721f9ad030101adf6d