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大人の側弯症 新しい手術手技 XLIF (6) より道ですが

2016-04-12 23:57:35 | 大人の側弯症進行
変性側弯に対する手術法XLIFの前に、前回の脊柱管狭窄について、少し寄り道的ですが、幾つかの文献をご紹介します。変性側弯に対する手術はいわば高齢者の脊椎手術としては最終手段に近いものですので、そこに至る前段階の高齢者に多く発症する脊柱管狭窄症とその治療を知識として得ておくことは決して無駄ではないと考えました。

 原題「Surgical versus Nonsurgical Therapy for Lumbar Spinal Stenosis」, the new England Journal of medicine
Volume 358:794-810 February 21, 2008 Number 8

脊椎すべり症を伴わない脊椎管狭窄症の患者を対象に、手術と非外科的治療の効果を比較する研究の結果、手術のアウトカムが有意に良好であることが示された。英国Dartmouth大学医学部のJames N. Weinstein氏らの報告で、詳細はNEJM誌2008年2月21日号に報告された。

 2000年3月から2005年3月まで、米国内13の脊椎クリニックで患者を登録。対象は、神経根型の下肢痛または神経原性間欠跛行が12週間以上持続しており、画像診断により脊椎すべり症を伴わない腰部脊椎管狭窄症で手術の適応と判断された患者。

 無作為化試験への参加に同意した患者を無作為化コホート(289人)とし、138人を手術、151人を非外科治療に割り付けた。無作為割り付けに同意せず、自ら選択を希望した患者は観察コホートとし、365人を登録した。全体の平均年齢は65歳だった。

 手術群には、標準的な減圧椎弓切除術を適用した。一方の非外科的治療群には、理学療法、自宅で行う運動に関する教育またはカウンセリング、非ステロイド抗炎症薬の投与などを行った。

 主要アウトカム評価指標は、6週後、3カ月後、6カ月後、1年後、2年後の、MOS SF-36(QOL指標)の疼痛と身体機能のスコア(0〜100、スコアが低いほど重症)と、修正Oswestry疼痛障害尺度(0〜100、高スコアほど重症)に設定した。2次アウトカムは、患者自身が記録した改善、現在の症状と治療に対する満足度、狭窄症と腰痛のわずらわしさ、などとした。

 割り付けられた治療の不遵守率は高かった。無作為化コホートの手術群の患者は、63%が1年以内に、67%が2年以内に手術を受けていた。非外科治療群でも1年以内に42%、2年以内に43%が手術を受けていた。観察コホートでは219人が手術を希望し、146人が非外科治療を選択。手術群では1年以内に 95%、2年以内に96%が手術を受けた。非外科治療群でも1年以内に17%、2年以内に22%が手術を受けていた。

 両群合わせると2年間で400人に手術が行われており、非外科治療を2年間継続していた患者は254人だった。実際に手術を受けた患者の方が症状は深刻だった。

不遵守が高率に見られたにもかかわらず、intention-to-treat分析でも一部の結果に有意差が見られた。SDF-36の疼痛スコアのベースラインからの変化の平均は、手術群23.4、非外科治療群15.6、差は7.8(95%信頼区間1.5-14.1)。他の時点の評価においても、疼痛スコアの改善は手術群の方が常に大きかったが、差は有意にならなかった。

 身体機能とOswestry疼痛障害尺度のスコア、すべての2次エンドポイントに、有意差は認められなかった。

 なお、両群の患者を合わせて、実際に受けた治療に基づく分析も実施した。年齢、性別、併存疾患、喫煙歴、収入、BMI、医療機関などの交絡因子候補で調整したが、すべての主要アウトカム評価指標において、手術群の結果が非外科的治療より有意に良好であることが示された。2年時の疼痛スコアの変化の平均の差は、13.6(10.0から17.2)、身体機能では11.1(7.6から14.7)、Oswestry疼痛障害尺度では-11.2(-14.1から -8.3)だった。2次エンドポイントも、どの評価時点でも、すべて手術群の方が有意に良好だった。


福島県立医科大学理事長兼学長・菊地臣一氏
整形外科医には腰と足の間欠性跛行を鑑別する役割が求められている

間欠性跛行を呈した患者が最初に駆け込むのは整形外科が多い。ただし、この間欠性跛行は、腰部脊柱管狭窄と末梢血管障害のどちらの疾患・病態でも見られる症状で、治療法などが異なっている。適切な治療を行うための正確な鑑別を担う役割が整形外科医に求められていると福島県立医科大学理事長兼学長の菊地臣一氏は主張する。病態の詳細や鑑別のコツなどを語っていただいた。

── 最近、腰部脊柱管狭窄症研究会を立ち上げ、講演会を開催されました。この講演会に末梢血管障害(PAD)がテーマの1つとなっていましたが、まず腰部脊柱管狭窄症とPADの関係をお聞かせ下さい。

菊地 腰部脊柱管狭窄とは、腰椎、椎間関節、椎間板などの周辺組織が変形・肥厚して、馬尾や神経根、伴走血管などを締め付けることで障害が起きる病態で、最も典型的な症状が間欠性跛行です。一方、PADは末梢血管が狭窄することで障害が起きる疾患で、こちらも初期の典型的症状が間欠性跛行です。

 現代はすでに高齢社会に突入してしまっていますが、その高齢者ではどちらも発症しやすいのです。加えて、PADの好発年齢と腰部脊柱管狭窄症の好発年齢が重なるのです。また、腰部脊柱管狭窄の特定のタイプの間欠性跛行とPADの間欠性跛行の症状は共通して“痛み”です。つまり鑑別が重要なのです。

 さらに、最近では両方を合併している患者が増えていることも重要です。高齢社会、痛みという共通した症状、合併例の増加、という3つの点から、両方の疾患や病態をまたいだ議論、つまり診療科をまたいだ議論が必要と思っていました。

── 腰部脊柱管狭窄の間欠性跛行について詳しくお聞かせ下さい。

菊地 腰部脊柱管狭窄の間欠性跛行は、症状によって3つに分かれています。

 1つは馬尾型です。排便・排尿、足底部も含めた足全体を司っている神経が障害されるものです。特徴はしびれで、痛みを伴いません。2つ目は神経根型です。症状は痛みで、いわゆる座骨神経痛です。3つ目は馬尾型と神経根型が合わさった混合型です。

 神経根型の症状は痛みですから、PADの初期症状である血管性間欠性跛行に起因する痛みと鑑別する必要があります。一方、馬尾型の症状はしびれです。また、最近激増している糖尿病に伴う糖尿病性神経症の主訴はしびれです。これもまた症状が一致しています。

 高齢化と生活習慣病の拡がりという今の時代を象徴するようなことがこの2種類の疾患や病態に起こっていて、しかも症状が同じです。そのため、時に誤診をしたり、過剰治療になったりする可能性があるのです。

■ 鑑別では姿勢要素が重要に

── 具体的にどう鑑別するのでしょうか。

菊地 血管性の間欠性跛行を疑った場合、医師は末梢動脈の拍動を触れるでしょう。しかし、足背動脈は詰まっていてもバイパスができたりしていて、必ずしも決定的ではありません。後頚骨動脈を触れなさいというのがTASCIIで推奨されています。

 一方、腰部脊柱管狭窄でいえば、70〜80歳の高齢者を対象にMRIを撮影すると大抵は狭窄しています。専門家がMRIや単純X線写真の画像を見せられても、症状があるかないかは分かりません。

 つまり、形態学的診断が必ずしも決定的な決め手にはならないのです。

 ではどうするか。まず神経根型の間欠性跛行と血管性間欠性跛行との鑑別ですが、プライマリケアで実施できる鑑別法は姿勢要素です。神経根型間欠性跛行の場合、しゃがんだり前屈みになると症状がなくなります。前屈みになると脊柱管の面積が拡がり、神経の圧迫がなくなるからです。一方、血管性間欠性跛行には姿勢要素がありません。立ち止まっただけで症状がなくなります。これが決定的な違いです。

 正式には、ABPI(ankle brachial pressure index、上腕・足関節血圧比)が最も客観的な指標です。血管性間欠性跛行は動脈硬化の進展によって起こるので、ABPIにより診断します。カットオフ値は0.9です。ただし、ABPIは測定者によって値が異なる場合があり、トレーニングが必要です。

 糖尿病性の間欠性跛行と馬尾型間欠性跛行の鑑別についてですが、糖尿病性間欠性跛行は常にしびれがあります。アキレス腱反射の減弱や消失、あるいはglove and stocking typeの知覚障害で、痛みではありません。歩いても歩かなくてもしびれは常にあり、歩いたからといってしびれが増すわけではありません。一方、馬尾型間欠性跛行もglove and stocking typeの知覚障害があります。この場合の鑑別は、神経伝導速度や血糖値の推移を調べることがポイントで、あまり難しくないといえるでしょう。

■ 整形外科医は腰、循環器科は血管という時代ではない

── 各々治療法は確立しています。

菊地 そうですね。PADと腰部脊柱管狭窄は、先ほど言いましたように姿勢要素で鑑別ができますが、最終的な確認は、神経根ブロックで分かります。神経根型は、通常、1本の神経根が圧迫されて痛みが起きていますから、神経根ブロックによって痛みが消えれば神経根型といえるわけです。

 PADについても運動療法、薬物療法、血管内治療とステージに応じた治療法があります。血管性間欠性跛行も神経根型間欠性跛行も治療法は確立しているので、早期に的確に診断をして適した治療を行うことが重要です。

 早期診断が重要なのは、歩くと出現する症状であれば治療で消失しますが、じっとしていても出てしまう症状は治療が難しいからです。歩いて出る症状はまだ可逆的な段階といえますが、じっとしていても症状が出てしまうのは不可逆的な変化が起きている可能性があるといえるでしょう。

 特に、この馬尾型に見られるしびれを、安静時にまで見られるようになるまで放っておく患者が多いのも問題です。また、馬尾型は直腸膀胱障害も伴い、尿が出にくい、残尿感がある、などの膀胱機能に影響を及ぼしてしまいます。病院に行くほどの重症感はないが、歩行に伴うしびれや痛みがあるといった場合に診察を受けることを啓発していく必要があります。

 そして、医師は鑑別が重要な症状であるということを頭に置いておく必要があります。高齢者になればなるほど局所だけでなく、全身を診る必要があります。整形外科医は腰だけを、循環器科は血管だけを診ていればいいという時代はもう終わったといえるでしょう。

── 腰部脊柱管狭窄でも血管が関係するのですね。

菊地 そうです。PADは血管が狭窄することによる血流低下が原因ですが、腰部脊柱管狭窄も血管が関与します。神経根ブロックを施行するとその支配領域の温度が上昇することが明らかになっています。神経根型間欠性跛行を呈している患者に第5腰神経をブロックしたところ、皮膚髄節の温度が上がるという結果が得られました。神経ブロックは神経の血管収縮を解除するわけですが、腰部脊柱管狭窄には潜在的な下肢の循環不全を指摘する報告もあります。結局、神経の血流が低下しているということなのです。

 動物実験では、機械的圧迫による神経障害と血流は密接な関係があることが分かっています。血流を改善させると神経機能も劇的に改善しますから、圧迫された神経機能の回復も早い。動物実験では、血流を改善する薬は面白いほどに良く効きます。

 例えば、一般的にセロトニンは血管を拡張しますが、損傷された血管では収縮させてしまいます。われわれの検討でも、慢性圧迫モデルにセロトニンを投与すると損傷された血管は収縮してしまいました。この領域では、セロトニン拮抗作用を持つ薬は注目されるでしょう。

 抗血小板薬のシロスタゾールやプロスタグランジンI2やE1も効果を示します。薬価の問題やこの場合に投与すべき薬かという問題はありますが、エリスロポエチンのような造血ホルモンも効果を示します。新しいメカニズムの降圧薬も効果が期待できるでしょうね。

 しかし、残念ながら臨床例では、動物実験で見られるほどの劇的な改善が得られません。動物実験ほど血流改善薬の効果が見られないのです。これがなぜかは現時点では明らかではなく、今後の検討課題です。

 ただし、これはあくまで仮説ですが、動物実験は短期間に人為的に症状を起こさせます。しかし、人間の場合、間欠性跛行を呈するまでに相当長期間経過します。この時間の長さが回復の良さ悪さにつながっているのではないかと推測しています。やはり神経には耐性があるのでしょう。逆に言えば、早期に治療に入れば良くなる可能性があるといえると思います。

■ 早期発見、早期治療につなげる啓蒙を

── 鑑別は重要ですが、疾患の“気づき”も重要であると。

菊地 そうです。早期に判断できるかどうかです。一般的に患者は、足が痛い、しびれるといった症状が現れ始めたとき、「年だからしょうがない」と考えがちです。また、医師も、毎日多くの患者を診ている中で、つい「年のせいだ」「少しぐらい痛いのは当たり前」などと言っていないでしょうか。結果、患者は、いよいよ動けなくなる、5分も歩けない、といった状態になって来院するわけです。こうなったら重症で、治療も難しくなりますから、啓発は重要です。

── 間欠性跛行の患者は最初、整形外科に来院する割合が高いという調査があります。

菊地 しかし、整形外科はPADによる血管性の間欠性跛行を見逃していることが少なくない可能性があります。逆に、血管外科では腰部脊柱管狭窄による神経根型の間欠性跛行を見逃していることが少なくないかもしれません。意外とお互いに相手の疾患には関心がない。これが落とし穴です。整形外科医には、「自分が間欠性跛行を呈する患者を適切に診断し、“振り分け係”を担っているんだ」と思っていただきたいですね。

 実際には、循環器医が血流改善のためバイパス手術などを行った場合、もし仮に最終的な診断が腰部脊柱管狭窄であったとしても、何らかの血流低下の所見があったから実施したのでしょうし、腰部脊柱管狭窄に対しても治療効果を発揮すると期待できます。合併例も増えていますし、悪いことをしたわけではない。しかし、望ましいのは、より症状に関与する要素に対する治療を最初にすべきだということです。腰部脊柱管狭窄に伴う神経根型間欠性跛行であれば、神経根ブロックを実施することで症状が改善しますから、この神経根に起因する痛みが患者の痛みの多くを占めているようであれば、まずはこちらを先にすべきだと思います。

 そのためにも、整形外科医は、患者に「歩けば歩くほど痛くなって、休むと楽になりますか」とか、「しゃがんだり前屈みになると楽になりますか」「立ち止まったりすると楽になりますか」「自転車に乗っても痛みは出ませんか」など、わかりやすく問診し、早期発見・適切な鑑別・早期治療につなげる心がけを持って欲しいと思います。



☞august03は、メディカルドクターではありません。治療、治療方針等に関しまして、必ず主治医の先生とご相談してください。
 医学文献の拙訳を提示しておりますが、詳細においてはミスが存在することも否定できません。もしこれらの内容で気になったことを主治医の先生に話された場合、先生からミスを指摘される可能性があることを前提として、先生とお話しされてください。
☞原因が特定できていない病気の場合、その治療法を巡っては「まったく矛盾」するような医学データや「相反する意見」が存在します。また病気は患者さん個々人の経験として、奇跡に近い事柄が起こりえることも事実として存在します。このブログの目指したいことは、奇跡を述べることではなく、一般的傾向がどこにあるか、ということを探しています。
☞原因不明の思春期特発性側弯症、「子どもの病気」に民間療法者が関与することは「危険」、治療はチームで対応する医療機関で実施されるべき。整体は自分で状況判断できる大人をビジネス対象とすることで良いのではありませんか?

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突然のコメントで失礼致します (aiai)
2016-04-24 06:44:15
カテゴリー違いで、しかも突然のコメント失礼致します。
1歳2ヶ月の男児の母aiaiと申します。
11ヶ月の時に入浴中に背中の左右が違う気がして夫に話した所、確かに背中から見て右側が少し張り出している?感じでしたので、かかりつけの小児科に相談後、こども病院(福岡)への紹介状をもらい、かかりました。(1月)
小児神経科と脊椎整形の両方にかかりまして、小児神経科では発達には問題なし。
レントゲン撮影にて脊椎整形のほうでも、レントゲンでは骨に異常なし、軽度なので姿勢の問題か、、3か月後に経過観察と言われ帰宅しました。
先日、その経過観察がありましてレントゲン撮影したところ、進行しており33度と言われました。原因は不明。MRIは必要かお尋ねすると、必要はないでしょうとのこと。
装具の話をすると、小さすぎてまだ作るのも無理、3歳以上になるまでは、、と言われてしまいました。
息子は今、移動はハイハイと、ガンガンつたい歩きして車などを押しながら上手に歩いたりできます。つかまったままですが下に落ちたものをしゃがんでひろったりもできますし、動きや発達は親としては年齢相応、むしろ活発で歩き出すのも時間の問題かと思っています。
次の経過観察は半年後といわれましたが3か月後に行かせてもらおうかと考え中です。
先生のことは信頼していますが、本当に何かきることはないでしょうか?
貴方様のblogも何度も何度も読ませていただいで、2歳以下のキャスト?の例も書いてありましのでせっかく早く気づいてあげられたので、何とかしてあげたいのです。
まだ歩いてないので体幹も弱いですし、経過観察もとても大切だとわかっています。焦りはダメですよね。でも、MRIも撮らないようですし3歳までは、、長すぎて。
今の先生への働きかけ、セカンドオピニオン?どのように動いたらいいでしょうか。
すみません、乱文で申し訳ございません。
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