~step by step~[ 側弯症ライブラリー]患者の皆さんへ

側弯症(側わん症/側湾症/そくわん)治療に関する資料と情報を発信するためのブログです

側わん症 [患者にできる第一歩] 治療のためのネットーワークを

2009-03-29 22:11:30 | 医療へのひとりごと
 (添付画像はサルコーマの会のHPより)

引用: 平成21年3月29日朝日新聞「肉腫の治療拠点を」
http://www.asakyu.com/anohito/?id=606
引用: 吉野ゆりえの 『5年後、私は生きていますか?』 
『いのちのダンス』「忘れられたガン」と生きる舞姫
http://ameblo.jp/yurieyoshino/entry-10169701804.html
引用: 平成21年3月29日掲示板「先天性側弯症のこどもの広場 Patio 2」

----------------------------------------------------------------------
(august03より)
今回はカテゴリー「医療へのひとりごと」に属する話題です。側わん症に直接関係
した医学知識、医学情報ではありません。


病気の治療...それが命に関わる病気であればあるほどに、その病気をとりまく
側面は多面的となります。その第一は、やはりその病気に対する正しい知識を得る
ということであり、その第二には、どこで治療をしてもらえるか/どこで治療を
受けるか、ということになるかと思います。

正しい知識と言った場合、その知識を持つべき主体には二通りあります。
ひとつは、皆さん、「患者さん(とそのご家族)」自身であり、もうひとつは治療
する側である「医師」です。
医師は“全て”の医学知識を有しているか ?
端的に申し上げれば、この答えは ノー です。
誤解のないようにしていただきたいのですが、私は、医師を批判する為にこの文章
を書いているのではありません。私は一部の側わん整体のように、医師を無能者
呼ばわりして、あたかも己(おのれ)が全能の神であるかのような発言をすることで
患者を錯誤に陥らせて金儲けをする手合いと同列のことをここに書こうとしている
わけではありません。これから記載する文章の一部だけを取り上げられると、あたかも
医師批判のように受け取られることが危惧されますので、最初にこの点はご配慮
いただきたいと思います。

医師は“全て”の医学知識を有しているわけではありません。たとえ、整形外科医
であっても、下記のような事例は過去にも多く見聞きしてきました。

.....1歳前に側わんに気づいたのですが、小1の今まで放置でした。生活に不都合
が出てから見てもらえばいいみたいに総合病院の整形外科で言われたので......

この方のコメントは特異的な例ではなく、いわばしばしば発生してきた典型的な
事例としてここに引用させていただきました。
側わん症を治療するのは「整形外科」です。しかし、「整形外科医師」が全員、
側わん症についての正しい医学知識、最新の医学知識、最新の医学知見を有して
いるかといえば、残念ながらそれは全員が有しているわけではない。というのが
現実の姿だと思います。それが大学の教授とよばれる先生がたであったとしても、
事情は同じです。医師はなんらかのレベルの知識と「意見」は有していますが、
それはもしかすれば、(たとえば)10年前の医学常識であったり、欧米で先進した
最新の知見を得ていない、ということは往々にしてありえることです。

これは医師個人の責任に帰する問題ではありません。現代医学とはそのような側面
を有する体系である。ということを患者さんは認識すべきことがらなのです。

大学に限らず、たいていの病院の外来掲示には、「股関節診」「膝関節診」「手の
外科」「リウマチ外来」「側弯外来」etc... と掲示されているのを目にされている
と思います。いわゆる専門外来、専門医師による診察、ということです。
現代医学は整形外科に限らず、どんどんと「専門化」されています。専門化され、
「専門医師」となることで、治療の精度が高まってきた。というのが現代の医学の
姿になります。

例えて言えば、一般(医学)常識と専門(医学)知識の差、ということです。

しかし、ここでさらに患者側から見た場合、ひとつの問題が存在します。
特にこれは日本の医科大学教育制度に根ざした「医学界」の問題と密接に繋がった
いまだに続く小さからぬ問題.....大学(教授)によって、治療方針/治療方法が異なる
ということ。医学知識を学ぶ場である医科大学(医学部)の医局講座の教授の考え方
の違いによって、同じ病気/症状であっても、治療方法が異なる。ということは往々
にしてありえます。これは、病気というものが「完全に解明」されたものではなく、
逆説的イメージで述べるならば、あたかも自動車を製造するときのような手法で
患者をベルトコンベアーに乗せて第一工程、第二工程、第三工程...と移動させて
いくことで「治療」が完了する。という自動制御の世界ではないというのが
「医療の世界」だ、ということなのです。

意見は異見でもあり、そのような様々な意見(異見)をぶつけあうことで、治療法が
確立していく/きた。という面を考えれば、大学によって治療方針が異なる。という
ことが一概に「負の面」とばかりも言えません。(ただ、それによって患者さんが
混乱に陥る、という負の面のあることも否定できませんが)

しかし、ここで重要なことは医学の世界での「意見」とは、調査・研究や日々の治療
のなかで積み上げられたデータを背景としたものであり、しかもそのデータという
ものは学会や研究会あるいは専門学術誌等の中で他の医師により検証される性格の
ものである。ということです。つまり、裏づけを有しなければ「意見」としても成立しない。
ということです。

さて、ここでなぜ「サルコーマセンターを設立する会」を引用したのか、という事
について説明させていただきたいと思います。病気の背景を朝日新聞記事から引用
します。

 *筋肉や骨にできるがん「肉腫」。大人では、がん患者全体の1~2%程度と患者数
  が少ない。
 *少ない患者が全国バラバラに診られている現状で、治療は進歩するのか。
 *肉腫の手術は整形外科が担当することが多い。しかし、全身どこにでも転移する
  ために、部位ごとに担当する診療科は異なる。
 *そうした中、わずかな症例をバラバラの医療機関、診療科で診ているのが医療
  現場の実情。
 *米国には肉腫にチーム医療で取り組むセンターがあり、研究・治療が重ねられて
  いる。
 *米国では診療科が集まり、専門医が検査・診断から治療、研究まで行うサルコーマ
  センターが複数ある。新しい抗がん剤や分子標的薬の臨床試験も進んでいる。
 *(今の日本では)肉腫のように種類が多く、患者数の少ないがんでは、データが
  蓄積されにくい

このような背景から、患者のひとりである吉野ゆりえさんは

 「忘れられたと嘆くのではなく、忘れられないように声をあげるのが、
  患者にできる第一歩」

と言う。

先天性側わん症に併発する胸郭形成不全症候群の治療機器であるVEPTRベプターが
昨年末に厚生労働省により認可されましたが、この認可取得の大きな、そして実質的な
原動力となったのは、全国から集まった10万人を超える署名の力です。いまの厚生行政
における医療機器審査制度(実質としては、PMDAによる審査ですが)のなかでは新しい
治療機器が認可されるのには、メーカーによる準備期間を含めると最低でも3年はかかるといわれています。しかも米国をはじめとした欧米諸国、あるいは隣国の韓国や中国では認可されて多くの患者さんに何年も前からすでに使用されている医療機器が、この日本という国の審査制度のもとでは、メーカーの申請から認可されるまでに2年も3年もかかってしまう、ときにはそれ以上の年月がかかったり、途中で認可をとることを諦めてしまう、というような現実さえもあります。その現実の大きな壁を破ったのは、まさに「忘れられないように声をあげた」署名活動の結果です。

日本の医療制度には良い面もあれば、悪い面もあります。そこには国の財政という
問題も絡んでくる為に、解決策は容易ではありません。医師側の大学医局制度の
問題や、過酷な医療現場という問題も横たわっています。立場によってその解決に
対する意見もまさに異なり、ときには対立関係になることも数多く存在します。

そういう現実のなかで、患者さんが患者として出来ること、患者という立場であるがゆえに
考えていただきたいことは、他人(行政)まかせにせずに、「声をだして」欲しいということです。いまの行政(それは政治と表裏一体の問題の根っこなのですが)では患者さん方の利益が守られるということは、まず黙って何もしないでいたら、満たされることはありません。
患者さんにとってみたら「命」の問題ですが、行政からはその「命」は見えないものなのだといっても過言ではないと思います。

自分の命は自分で守る、といえばかっこよくも聞こえますが、それが現実にできる
ことでないことも事実です。では何ができるのか......

そのひとつが、「声をあげる」ということであり、そして、その「声をあげる」為に
一人よりは、ふたり、二人よりは三人、三人よりは四人。という集団の力が必要と
なります。知識と情報を得る手段としても、そのようなグループがあることは
とても大きな援助力となって一人一人の患者さんのサポートとなることでしょう。

どこの病院のどの先生のところに行けば治療ができるのか、そういう情報が患者さんの命を救う直接的な情報となります。まさに命を繋ぐ為の情報です。しかし、それは公開上のネット掲示板で得ることはできません。医師の個人名を記載することはさすがに躊躇われることであり、また患者さんの側にしても、それを記載する事でご自分のプライバシーが脅かされるのではないかという不安も当然発生してくるからです。
そういう意味からも、「患者会」というグループの存在はとても大きな意味を持っています。ネットで公開できない経験も、患者さん同士が集まって直接会話を持つような場面があれば、ネットで得る情報の何十倍も何百倍もの情報を共有する事ができるでしょう。

そして、さらに願うことは、患者さんどうしが、患者会どうしが、ひとつの枠に収まった活動ではなく、共通の目標に向かってともにネットワークを築けたら。
と思うのです。

「サルコーマセンターを設立する会」の目標は、この日本の医療現場に、専門治療を実施する医療機関の設立です。ひとつの病気の治療を単一科だけで取り組むのではなく、関連する科どうしが一緒に一人の患者の治療にあたろうという「チーム医療」の実現を目指しているわけです。それは「サルコーマ」だけでしょうか?

側わん症の患者さんがたは、側わん症という病気の治療の為の患者さん同士の
ネットワークを結成するとともに、もう少し気持ちに余裕ができたときは、ぜひとも
他の患者会とも交流し、同じ目標の為の患者会ネットワークを築くことにも目を向けて
いただければな、と願うのです。

病気の治療の為に直接必要となる知識や情報は「患者会」で得られると思います。
しかし、そこからさらに先のもっと、大きな目標を達成するには、ひとつの患者会
では力不足となります。夢のような非現実的な話しをしているように聞こえるかも
しれませんし、実際、そのようなことはあり得ないことなのかもしれません。
しかし、できない、と枠を嵌めてしまえばそれで終ってしまいます。

いつの日か、そのような患者会どうしのネットワークの構築によって、この日本の
医療制度が大きく変革する原動力になってくれることを願っています。


コメント (1)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 先天性側わん症 : 脊椎病態の... | トップ | 側わんと痛み : マーマレー... »
最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
いつも最新情報提供ありがとうございます (マーマレード)
2009-04-03 22:20:06
お書きになった記事の内容から離れてしまうのですが特発性側湾症について教えて頂きたい事があります。
まず、脊柱が湾曲している事で頚椎への影響はありますか?
また、側湾症の随伴症状だと思われる背中から肩にかけての頭痛を伴う肩凝り・背部痛等に筋弛緩薬の内服は有効ですか?それとも内服により脊柱への負荷で悪影響となりますか?
突然の質問で本当に失礼かとは思いますが是非情報提供お願いします。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

医療へのひとりごと」カテゴリの最新記事