~step by step~[ 側弯症ライブラリー]患者の皆さんへ

側弯症(側わん症/側湾症/そくわん)治療に関する資料と情報を発信するためのブログです

医療の限界について (医師は神様ではないという事実をどう捉えますか? )

2009-05-14 01:12:32 | 医療へのひとりごと

添付の写真をご覧になり、あれ?? これは何?? と思われた方も多いと思います。
側弯症...つまり脊椎のブログなのに、august03は何を間違えてこんな写真を掲示し
たのかといぶかしげに思われたのではないでしょうか。

これは膝関節のレントゲン写真(左側から三枚)と人工膝関節の写真(右端)です。
人工膝関節はデバイスをモデル骨に取り付けたものですが、外来などで先生がこの
ようなモデルを利用して患者さんに手術の説明をすることがあります。
さて、ここで皆さんにこの三枚のレントゲン写真をじっくりと眺めていただきたいと思います。何が見えますでしょうか? 三枚を見比べると、次第に、わかってくる
ことがあると思います。

左端は「正常な骨(膝関節)」の状態のレントゲン写真です。これを基準として
その隣の二枚をもう一度観察して見てください。

これでもうおわかりになったと思いますが、骨の破壊されている状態が歴然と違う
ことがこれら三枚の写真から知ることができます。そして、最終的手段として
人工膝関節置換手術が行われることになります。このようなインプラントを用いた
手術が国内で約3万症例/年、米国ですと、10万~20万症例実施されています。
(最近調べていないので、私の記憶は古いデータかもしれませんが)

さて、ここでひとつ質問をさせてください。皆さんがこのレントゲン写真の患者さんで
あった場合、真ん中の写真の状態のときに手術を希望されるでしようか? それとも
その右隣のさらに破壊の進んだ状態のときに、手術を希望されるでしょうか?
あるいは、皆さんが、ドクターという立場であると想像してください。
皆さんは、どちらの段階のときに「手術」をしたほうが良いと患者さんに勧める
と考えられるでしょうか?

人工膝関節を入れてしまえば、結果は同じだろう。どの段階だろうと術後の状態は
変わりないはず.....。 そのように考える方もおられると思います。

答えは、ノー です。

私は自分の医学知識の背景として、このような人工関節について学んできた期間が
およそ30年間ほどあります。ほとんどこの日本という国で人工関節という手術が
外国から導入され、少しづつ広がりだしてきた頃から研究を続けてきました。
そして、さきほどの答えは ノー ということは自信をもって答えることができます。

これは今でも状況は何も変わりません。つまり、手術というものは、その実施する
タイミング(時期)によって、患者さんの術後の状態(例えばQOL)が異なりますし、
合併症の発生率も、この人工関節が機能する時間軸も変わってきます。
このレントゲン写真でいいますと、骨の破壊度がかなり違います。実際の臨床現場
では、これよりもさらに悪くなるまで我慢して我慢して、どうにも我慢しきれずに
手術を決断される方もいます。つまり、この写真以上に骨の破壊が進んだ状態で
手術するということです。

そのように、破壊された骨の状態で手術しますと、(すべての症例で発生するわけ
ではありませんが) せっかく手術で骨に固定させた人工関節が早期にグラグラと
緩んでくることがあります。これを専門用語では「ルースニング」と呼びますが
これが生じると、また痛みが再発し、かつ、いったん緩みだすとそれがさらに骨を
破壊する作用となり、不可逆的に緩み(骨破壊)が進行することになります。

ちょうど、丘を平らに切り開いてそこに家を建てたのですが、その土台(骨)の形が
悪いし、土台としては適さない状態の上に家を建てたようなものなのです。

私は、このブログのなかで、医学を信じてください。ということを訴え続けてきま
した。その信条はいまでも何も変わるものではありません。病気となり、治療を
必要とするときに、医学を信ぜずにいったい何を信じて病気と立ち向かえると言う
のでしょうか?

しかし、同時に、これまでも何度となく、「タイミング」ということを考えて下さい、
ということも訴えてきました。脊椎の手術も、このような人工関節の手術も、基本
は同じです。最悪の状態になってからする手術と、そこまでに至る前に実施する
手術では内容はまったく異なるのです。手術中に発生する合併症や、術後の併発症
の発生率もまったく異なってきます。当然、悪い状態になってからの手術のほうが
発生率は高くなります。

今日ネット検索をしていて、偶然見つけたブログがあります。
整形外科医師の方が書かれているブログなのですが、その中から一部引用させて
いただきたいと思います。

  「脊椎外科医の日々」
  http://blogs.yahoo.co.jp/hitotanshan/55658597.html

  今朝「ここの先生は名医(?)でよくなるっていうから手術したのに、
  左足底の腫れたような違和感がかえって悪くなった」
  と病棟で言い回っている術後患者がいるとのナースから報告。
  
  すぐにはよくならないよって術前説明したけど
  そんなことはもう覚えてないんだろうなあ、
  日常茶飯事のことなんだろうけど今朝は結構落ち込む、、

  症状の経過の善し悪しは、術前の状態に8割影響される。
  麻痺したり、歩けなくなったりしてから手術しても手術効果は低い、、
  それに老化した肉体を若返らすことは不可能、、
  それが今の医学の限界
  
  もういちど患者啓蒙を地道にやるしかないか。


先生がここで述べられていることと、私が述べようとしていることとはまったくの
イコールではないのですが、根っこは同じです。
手術に限らず、「医学にも限界」があります。

側弯症の歴史は、特に思春期特発性側弯症は、その原因が不明であることと、
医師側が医師の責任として医学的に.....あるいは法的に、と言うべきかもしれま
せんが、側弯症の治療には限界があることを患者さんに正直に述べたことに対して
一方から、測湾整体が「整形外科医師は側わんは治せない。測湾を治せるのは整体
だ~」と宣伝したものですから、この日本では過去20年間というもの、側わん症が
病気であるという常識が定着することなく、姿勢が悪いのが原因とか、母親の躾が
悪かったのが原因とか、というとんでもない「悪しき常識」が定着してしまいました。

私は、このStep by stepを書き出してから、様々な医学文献を読みあさり、その中
から....これは私の発見ではなく、20年以上も前に鈴木信正先生が言及されている
ことなのですが.....側弯症には、確率的な側面があることを多くの文献が述べて
いることを知りました。
調査によってその数値は多少前後するのですが、おおよそ30%~50%の思春期特発性
側弯症患者さんでは進行はしないこと。70%~80%の患者では、装具によって進行を
抑制できること。20%~30%の患者さんでは装具でも抑えきれずに、手術を必要と
するところまで進行してしまうこと。

これが現時点での医学的事実だと思います。

専門医だから、100%治るとか、どんな難病も完全に治癒させうる。ということは
それはありえないことは、冷静に判断すれば理解できることなのですが、残念ながら
「病気」は、その冷静な理性をおしやってしまうくらい患者さん(お母さん)の目を
見えない状態にしてしまうことになります。

このブログを読まれている皆さんが、いまどのような心理状態にある方々である
かは私にはわかりません。願わくば、このような説明を聞かれて、医学に悲観され
るのではなく、現実を理解する心を呼び戻していただければ幸いです。

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「側わん症 手術のタイミングを逃さない事 !  それは親の責任です」
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