久しぶりに五輪代表のピッチに立った宇佐美貴史。再三見せ場を作って存在感を示した。
トゥーロン国際で、約1年2カ月ぶりに関塚ジャパンに合流した宇佐美貴史。この期間、勝負のかかったアジア最終予選にさえ招集されず、彼は晴れない気持ちをずっと抱えていた。
「五輪チームに呼ばれないのは、なぜなのかわからない。バイエルン側からは何の話もないし……。実力で落とされているのかもしれないけど、バイエルンには日本から話が来ているのに、オレの知らないところで断っているのかもしれない。実際、どうなっているのか、それすらわからないんですよ。それなのに、ブンデスリーガの試合にも出られないっていうのは……」
今回のトゥーロン国際に関しては、宇佐美側からクラブに情報を提供し、クラブとの合意を得て、五輪代表への合流にこぎ着けたと言う。バイエルンでのこの1年間は、リーグ戦出場3試合。そのうち、2試合は先発出場だが、すでに消化試合と言える第32、33節だった。宇佐美には実戦への渇望感があっただろうし、1992年生まれの彼にとって24歳になる次の五輪での出場資格はないだけに、今度のロンドン五輪に対する思い入れも強かったのだろう。
迎えた今大会、先発出場の機会は第2戦オランダ戦で巡ってきた。そこで、宇佐美は躍動した。前線の指宿洋史、高木善朗、齋藤学との呼吸も抜群で、第1戦のトルコ戦から8人のメンバーを入れ替えて臨んだ試合は、ゴールへのスピード感が明らかに増していた。
「2列目は『固定しなくていい』と監督から言われました。好きに動いて、(ボールに)近いポジションの人がパスを受ける、ということをやっていた。だから、ポジションを固定してプレイするよりも(自分は)やりやすかった。それに、みんな、ボールに触ってなんぼの選手なので、ピッチの中で話し合いながらうまくできました」
ボールを奪ってからのシンプルなプレイを徹底し、スピードに乗った攻撃で相手ゴールへと次々に襲いかかった。宇佐美自身はドイツでの実戦経験は少ないものの、海外組同士で共通の感覚があったのだと言う。
「特に話はしなかったけれど、海外組にはボールが奪えたときには、ショートカウンターの意識が染み付いていると思った」
そして後半3分、宇佐美は指宿の逆転ゴールをアシスト。高木からのスルーパスを相手DFの間をすり抜けて受けると、完全に裏のスペースをついて一気にゴール前へと運んだ。GKと1対1で対峙してからフリーの指宿へとパスを送る、鮮やかなプレイだった。
「(自分でシュートを)打っても決まったかもしれないけれど、より確実なほうを選択しました。オレのゴール、ってことにしておいてください(笑)」
この試合で宇佐美は、海外に来てからの、自身の成長も感じてとっていた。本人が語るのは、後半38分、相手に左サイドを突破されそうになったシーンだ。それまでも、中盤とサイドバックと連係して守っていながら、オランダのルコキに再三突破されていたが、このときは、左サイドバックが抜かれたところを、宇佐美が猛ダッシュで戻って、ルコキの突破を食い止めた。
「あの時間になっても守備で戻れる体力は、この一年でついたものだと思う」
関塚ジャパンに久しぶりに戻ってきた宇佐美は、チームのための献身性をも見せる、大人の一面まで備えていた。
さらに圧巻だったのは、続くエジプト戦。0-2のビハインドから、自ら2ゴールを叩き込んだ。
1点目は後半開始直後の1分、右サイドで大津祐樹からのパスを受けると、ドリブルで持ち運んで、ペナルティーエリア外から思い切りよくシュート。低い弾道で勢いのあるボールがネットに突き刺さった。2点目は同8分、FKからのショートパスを受けた齋藤のクロスに飛び込み、混戦の中で同点ゴール押し込んだ。
その後、エジプトに得点を奪われて、試合は2-3で敗戦。宇佐美は、「自分の得点は、勝利への可能性を残したゴールだった。追いついて、(攻撃の)リズムもつかめたし……。でも、その後の決定機を決め切れなかった。もっと自分たちでリズムを保ちながら、点を取られないようにしなくてはいけなかった」と、日本のグループリーグ敗退も決まって厳しい表情を浮べたが、出場した2戦で五輪代表でのブランクをまったく感じさせない、強烈なインパクトと結果を残した。
試合後に記者から、この日の活躍で「(試合に出られない)バイエルンでの鬱憤が晴れたか?」と問われ、「これくらいじゃあ、晴れない。ていうか、一生晴れないと思う」と笑いを誘った宇佐美。公式戦から遠のいていたことで、試合勘やゲーム体力が不安視されていたが、彼が見せたパフォーマンスはそれらを微塵も感じさせなかった。本人がたびたび口にしていたように、欧州のトップクラブに在籍し、練習から多くのものを吸収していることをうかがわせた。
「もっとできる。もっともっと自分のプレイを出していけると思う」
五輪メンバー選考の最終段階を迎えての代表復帰ではあるが、宇佐美はチームの「ジョーカー」どころか、一気に主役の座に躍り出た。(スポルディーバ Web)