あすかパパの色んな話

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【プロ野球】プロ初完封勝利。 斎藤佑樹が語った「不思議な感覚」の意味

2012年04月22日 07時04分58秒 | コラム

プロ初完封勝利を飾り、今季3勝目を挙げた斎藤佑樹

不思議な、そして特別な夜だった。

 4月20日──雨が上がり、灰色の雲が空を覆う神戸。今シーズン、4度目の先発マウンドに向かうべく、斎藤佑樹が試合前のブルペンで投げていた。

 ビジターのチームが使う神戸のブルペンはレフトの脇にある。最近、ドームが増えたこともあって、ほとんどの球場のブルペンは室内にあり、ピッチャーが練習する姿を見ることは叶わない。しかし、この球場ではブルペンで投げる姿を目の前で見ることができる。

 斎藤のピッチングをこんな間近で見るのは、名護キャンプ以来のことだ。真横から見たこの日の斎藤には、軽く投げているように見えて力感があった。それは、踏み込んだ左足にしっかり体重が乗り、フォロースルーでは右足が左足を追い抜いて、しっかりと前へ運ばれていたからだ。そうすれば右腕も軽く振っている割りには速く振れるし、リリースポイントをバッター寄りにすることも可能になる。ストレートの質が明らかに変わっているのはこのリリースの感覚を身につけたからで、斎藤のストレートの威力は、バッターの近くでボールを離していることからもたらされている。実際、斎藤も「この感覚は去年の最後から引き続きという感じで持てている」と話していた。

 しかし、斎藤はこのフォームのバランスを前回のイーグルス戦で崩してしまった。重い責任を背負った開幕戦から3試合目、疲れが出る頃だったとしても不思議ではないが、その原因はわからない。だから斎藤は、前回の登板後、原点に立ち返った。平地での低い弾道の遠投によって、フォームのバランスを取り戻そうとしたのである。その距離は普段の遠投よりもさらに伸ばして50メートル。吉井理人ピッチングコーチがこう言っていた。

「前回は自分の投球フォームがわからないと言っていたけど、遠投を取り入れたのがよかったのか、今日はしっかりと自分のフォームで投げられていたね。遠投は強く投げないのがミソなんだけど、いい投げ方、いい(ボールの)回転じゃないと50メートル先には届かない。体の回復にもなるし、フォームを再確認するのにも遠投はいいんだよね」

 右足から左足へしっかり体重が乗らないと、それだけの長い距離を低い弾道で投げ切ることはできない。傾斜のあるブルペンで投げれば、平地の遠投よりもさらに体重が左足にしっかりと乗る。しっかりと体重移動ができれば、リリースポイントも前になる。そして、右足は勢いよく前へ運ばれるというわけだ。ブルペンで投げる斎藤の低めへのストレートは、じつに美しい軌道を描いていた。

 ところが、である。

 斎藤は、美しい軌道のストレートとはあまりにも対照的な、ワンバウンドのボールを何球も投げていた。まるで地面に叩きつけるかのような、不細工なワンバウンドのボール。これはフォークではなく、スライダーだった。しかも、そのスライダーがワンバウンドになるたびに、脇で見ている吉井コーチがニヤニヤしている。

 やがて試合が始まると、その理由がわかった気がした。

 斎藤は、ワンバンになってもいいという意識で、低く低く、縦のスライダーを投げていたのである。

 右バッターには、インコースに食い込むツーシームを、左バッターにはインコースへカットボールを見せる。そして、右バッターには低めのボールゾーンにきっちり決めた縦スラを、左バッターにはチェンジアップを振らせ、ここというところでは、ストレートをストライクゾーンに投げ込む。斎藤が2、3、4回と、簡単にツーアウトを取りながらランナーを出して、毎回のようにピンチを背負いながら、そこから崩れないのは、平気な顔をしてストライク勝負ができるからだ。

 この試合、斎藤がスコアリングポジションにランナーを背負うこと、じつに7度。斎藤はその7度のうち5度まで、初球にストライクを投げている。残る2度のうち、1度は2球目にストライクを投げた。つまり、ノーストライク、ツーボールにしてしまったのは、1度だけ。しかもそれは9回裏ツーアウト1、2塁となった、最後の場面だけだった。

 打席に迎えたのはバファローズの1番、坂口智隆。その初球、チェンジアップがとんでもない高さに抜け、2球目もチェンジアップが低すぎた。さすがの斎藤も完封を意識しているのかと思っていたが、じつは違っていた。

 斎藤はこの時、感情を抑えるのに必死だったのだ。

 試合が終わったわけでもないのに感情が高ぶっていたのにはわけがあった。

 坂口を打席に迎える直前、9回裏のツーアウト1塁から、斎藤はバファローズの9番、由田慎太郎を打席に迎えていた。その初球、アウトローのツーシームを由田が三遊間の深いところへ弾き返した。

 その直後──。

 ショートの金子誠が横っ飛びで打球をつかみ、体勢を立て直せないまま、必死の形相でセカンドにボールを投げたのだ。しかし、送球が逸れて、セカンドはセーフ。試合は終わらなかった。

 それでも、この金子のダイビングには、なんとか斎藤に完封をさせてやりたいという想いが満ち溢れていた。

 斎藤は、その想いに感動していたのだ。

オープン戦の最後、斎藤が投げていた試合で、金子がケガをしたことがあった。大事を取って交代させようとした栗山英樹監督に、金子はこう直訴している。

「斎藤が投げている間は僕、守ります」

 3年連続で2ケタ勝利を挙げている武田勝を差し置き、去年、6勝6敗だった斎藤が開幕投手を務めることを、果たしてチームメイトはどう思っているのだろうか……斎藤がそんなふうに感じていたとしても不思議ではない。開幕戦に完投勝利を挙げた直後も、「正直、今日の結果だけで開幕が自分でよかったのかどうかわからない」と話していたほどだ。

 しかし、ファイターズの選手たちは、斎藤のそんな葛藤を知っていた。夏の甲子園から斎藤が背負わされてきた十字架の重さを、身近にいる仲間たちは、少しずつではあるが、分かち合えるようになっていた。

 斎藤は開幕戦だけでなく、2試合目にも勝ち、3試合目には最悪の調子ながら耐えに耐えて試合を作り、惜敗した。そして今シーズンの4試合目、まさにプロ初完封を成し遂げようかという、9回裏ツーアウト。ここでベテランが、なりふり構わず、ダイビングをした。そんな金子の想いが、斎藤の涙腺を壊しにかかったのである。

 結局、ツーアウト1、2塁となって、セカンドの田中賢介からボールを受け取った斎藤は、一瞬、しゃがみ込んで悔しがる金子を見た。そして、まだピンチは続いているというのに、口元に穏やかな笑みを浮かべた。

 心の奥の方に染み入ってくるような、そんな喜びを、試合後の斎藤はこう表現した。

「嬉しいんですけど……不思議な感覚です」

 彼は大学時代も1回か2回だったので……と言葉を続けたが、完封が少なかったから不思議な感覚に陥ったわけではあるまい。不思議な感覚──それはおそらく、喜びよりも安堵が、彼を包んでいたからではなかったか。ようやく開幕投手として、チームメイトにほんのわずかでも認めてもらえたかもしれないという、そんな安堵感。

「カードの頭に投げるピッチャーとして、ちょっとした意地はありましたね」

 誰にも先駆けて3勝目を挙げたからではない。
 プロ初完封を成し遂げたからでもない。

 斎藤が何よりも欲しかった、仲間からの信頼をようやく得られたと感じたから……この夜が斎藤に不思議な、そして特別な感覚をもたらしてくれたのである。(スポルディーバ Web)



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