勝手にお喋りーSanctuaryー

マニアックな趣味のお喋りを勝手につらつらと語っていますー聖域と言うより、隠れ家ー

大人になった二人の駆け引き

2006-01-17 | 映画のお喋り
久しぶりに映画(DVD)のお喋り。
1ヶ月以上前に見たのだが、鮮明に記憶に残っている映画だ。
9年前(95年)に製作されたBefore sunrise(邦題:恋人までの距離)の、なんとも気の長い続編らしい。
残念ながら私は前作を見ていないので、それも探したのだが見つからなかった。
古い映画なので整理されてしまったのだろうが、続編が出たら置いておけばいいのにね。
だが前作を見なくても、1本だけでちゃんと見られる映画だ。

  Before sunset(ビフォア・サンセット)2004年 アメリカ
    監督:リチャード・リンクレイター
    主演:イーサン・フォーク、ジュリー・デルピー

ユーロトレインの中で出合ったアメリカ人ジェシー(イーサン・ホーク)と、フランス人セリーヌ(ジュリー・デルビー)。
前作は原題通り、この二人が車内からウィーンの街で夜明けになる前まで過ごした半日間を会話劇のように描いた映画。
二人が再会を約束して別れたところで終わるらしいが、結末は見る人の想像に任せた感じ。

そして続編は何と9年後に始まる。
セリーヌとの実話を元に小説を書いたジェシーが、パリの書店で記者会見をしている。
この間、前作のシーンが、ジェシーの記憶のフラッシュバックのように挟まれていく。
サイン会の終わり頃に、ジェシーは隅に立っている女性を見つける。
無論セリーヌだ。
ジェシーはその日の飛行機でアメリカに帰らなければならない。
その僅か数時間を、ふたりはパリの街で一緒に過ごすことに。

パリ観光のようなロケではなく、普通の街角やカフェで、二人はひたすら喋り続ける。
ここから先の登場人物は、二人きりと言っていい。
初めはぎこちない会話だ。
9年ぶり、しかも再会を約束した日に、セリーヌは現れなかったのだ。
大切な祖母が亡くなって、ちょうどその日はお葬式だったというセリーヌ。

「そう、僕も行かなかったんだ」
「よかった。心配してたのよ。あなたが待っていたらと思うと・・・」

その時セリーヌはジェシーの表情から察する。
待ちぼうけを食らったジェシーは、連絡先も交換しなかったセリーヌとは二度と会う術もなく、来なかった理由も聞けなかったのだ。
傷心の彼は大学時代の友人と結婚し、5歳の子供がいる。

二人の会話だけで、その時の心情や現在の状況が、見る側に徐々に伝えられる。
前作は見てないのだが、多分会話はもっとストレートだったのではないだろうか。
年を取り、仕事や家庭と言う重石を背負ったジェシーは、多くの真実を冗談で誤魔化そうとしている。
セリーヌも明るく笑いながら、決して幸せではない現状を相手に知られまいとしている。
大人になった分だけ、二人は駆け引きをしなくては何も話せなくなっている。
「忘れたことはなかった」
「今でも一番大切な人だ」
そんなことをうっかり口にして、相手に引かれたらどうしよう。
二人の会話から、そんな恐れが伝わってくる。

これが第1章だとしたら、第2章はついにセリーヌがキレるところから始まる。
彼女の恋愛はうまく行ってない。
少しずつ心を許し始めたジェシーに、そのことを告白する。
そして車(ジェシーの為に書店が用意したもの)の中でキレるのだ。

「どうしてみんな私と別れて結婚するの?どうして私にはプロポーズしないの?」

ある程度の年齢に達した独身女性なら、一度はキレて言う台詞を、ジュリーが実にいい感じで訴えかける。

ここから二人の関係は一気に変わる。
そしてセリーヌのアパートが舞台の第3章へ移るのだ。
この心理状態の移行が、ものの見事に描かれてる。
緊張し続けていたジェシーが、ゆったりとした目つきでセリーヌを眺めるようになる。
相手の心を掴んだ男性特有の表情。
イーサン・ホークは地味な映画ながら、確実に成長してきている。

そして結末はと言うと、またしても見る側の想像にお任せ。
ま、ジェシーは妻との仲は冷め切っていて、子供だけが二人をつないでる絆っぽいことを仄めかしてる。
実際そうなのかもしれない。
だけど既婚男性が、気のある女性の前でよく言う言葉だからな、これは。
セリーヌもきちんと年を重ねた知的な女性なので、多分二人の関係を進めたかったら、ジェシーはきっぱり離婚してくるしかないと思う。
もっとも、その場限りのノリまでは干渉出来ないが。

最後に、字幕を読むのが遅い人は絶対吹き替え版で。
早口の会話が矢継ぎ早に交わされるので、読みきれなかったら少しも面白くない映画になってしまう。
或いは、波乱万丈のラブストーリーがお好みの方にも勧められない。
丹念に男女の心理状態を追いかけた、本物のラブストーリーが好きな方にだけお勧めの映画だ。

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