探求☆散策記

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環境保全「熱帯林」への取り組み

2003年10月20日 22時31分31秒 | デザイン
 地球的規模の環境問題の中でも森林の減少は重大な危機といえます。特に、熱帯林の減少については、経済的社会的要因と複雑に絡んでおり、保護するための効果的な対策の確立は難しい状況である。

1.森林とは何か?
 東南アジアの熱帯林を具体例として、森林減少の実態と共に現在どのようなことが取り組まれているのかについて述べる。 森林の定義をみるとFAO(国連食糧農業機関)では、先進国と発展途上国で異なる定義ずけが行われている。先進国では樹冠の被覆率(林地に対する樹冠面積の割合)が20%以上であることであり、発展途上国では樹冠の被覆率が10%以上であること。もともと原生林では、樹冠の被覆率は100%である。100%の被覆率が開発や破壊により減少し、50%になったとする、これを「森林の劣化」という。さらに12%になった時点でも、まだ森林とみなされる。ところが9%になると、これは森林ではなくなり、森林でない土地に転換されたことになる。これを「森林の消失」という。森林の破壊と一言でいっても、「森林の劣化」と「森林の消失」とは異なる意味を持つのである。

2.熱帯林の状況
 世界の森林面積は約35億haである。世界の地域別の森林率(国土の土地面積に対する森林面積の割合)みると、世界合計では26.5%である。南米:50%、 ヨーロッパ:42%、日本:68%などとなっている。世界の森林面積の推移をみると、現状でも熱帯地域の森林面積の比率は小さい。時系列的にもでも熱帯地域の森林は、かなりのスピードで破壊されてきている。森林減少での一番難しい課題を抱えているのが熱帯地域であるということがわかる。そこで、熱帯林の減少の面積であるが、1990年から1995年までの5年間で、毎年1291万haの熱帯林が消失している。この面積は、北海道+九州を合わせた面積よりさらに少し大きい。つまり、急速なスピードで消失しているということである。「熱帯林の消失」は、樹冠の被覆率が10%以上であった森林から10%以下の土地に変わったものを指す。当然、もともと100%から50%になったり、60%から30%になったりした森林は含まれないのであるから、消失した面積の何倍もの森林が劣化しているということを強く認識しなければならない。

3.熱帯林減少による影響
 熱帯林が減少するとどのような影響がでるのであろうか。まず、生物多様性が消失する、二酸化炭素が増加する、洪水などの災害が下流でおこるなど、さまざまな影響が想定できる。さらに、熱帯地域には多くの人々が住んでいて、熱帯林の消失は、住民にとってまさに死活問題である。たとえば、森がなくなると薪がなくなる、薪がなくなると食事や調理ができない。森から採取していた果物や木の実がなくなる。そして、森の存在が前提で成り立っていた焼畑農業ができなくなる。焼畑農業ができなくなると、主食であるコメやイモの栽培ができなくなる、あるいは雑穀類が生産できなくなる、たんぱく源であるイノシシやシカも捕れなくなる。川も枯れる、魚も捕れなくなる。したがって、食料の自給が破綻するのである。 また、彼らには現金収入源はほとんどない。彼らにとって現金収入になっていたものは、藤(ラタン)や樹脂、香木などの森からの産物である。森がなくなることで、これらの現金収入源も食料もなくなってしまうということは、つまり、森に住んでいる人々がある種の難民状態に追い込まれるのと同様である。

4.熱帯林減少へのプロセス
 どのようなプロセスで熱帯林は減少するあろうか。 考えられる要因として、 火入れ開墾(非伝統的焼畑農業)、農地の拡大、過度の放牧、木材の盗伐、多大な燃材採取(薪)、用材伐採などがあげられる。用材伐採とは林業のことであるが、林業自体はそれ自体が森を破壊するのではなく、破壊するきっかけになる。燃材採取も同様である。これらが徐々に森林の劣化を起こすのである。「劣化」と「消失」とは同意ではなく、まず「劣化」が起き、そこで焼畑、農地、放牧などが行われることによって、「消失」へと移行するのである。 減少の要因を与えている主体としては、非伝統的焼畑農民による火入れ開墾、農民による燃材採取、政府・有力者(企業)による農地拡大、過度な放牧、燃材採取、用材伐採となっている。 また、このようなプロセスを動かしている背景的な要因 として、経済成長、人口増加、伝統社会の崩壊、習慣的森林利用の変容、土地所有の不平等、貧困層の拡大があげられる。熱帯林における「森林消失」の過程は、まず最初に「用材伐採」が行われ、「盗伐」などが入り、「火入れ開拓」という一連のプロセスを経て起こっている。さらにこれらの過程を背後から促進する、不安定な土地所有の制度、政策の誤り、人口増加などのさまざまな状況がある。 「択抜=抜き切り」は持続的な林業経営の方法である。では、抜き切り後の木がどのくらい損害を受けているかという研究報告を見ると、被害なしが約6割、約4割には被害がでる。同時に林道も作られるので、土壌侵食がおきやすくなる。これだけでは「森林の消失」にはならないが、「森林の劣化」が起きる。道路がつくられることにより、都市からの人々が流入し、倒伐、火入れ開拓が行われ、消失へと進む。

5.熱帯林保全への取り組み
 どのようにすれば熱帯林を保全することができるのか。 植林活動における焼畑用地の減少に対して 生物多様性を守るための保護地域には、狩猟採集や伝統的な焼畑農業を行っている先住民族が住んでいる。そういった人々が所有権を有していないからといって追い出すわけにはいかない。そこで、どうするのかが、非常に大きな問題である。地域と森との関係を把握した上で具体的に計画をたてなくてはならないだろう。これについても、日本では国際協力事業団やNGO団体を通じて協力を行っている。 これまでは地域住民はまったく主役として登場しておらず、主役は政府であり企業であった。ここに至り初めて住民は単なる被害者ではなく主役として登場する。なぜこうなったかというと、これまでの熱帯林管理の長い失敗の教訓があるからである。失敗を経験することにより、森林を管理する側は方針を変えつつある。あらたな政策理念 社会林業(social forestry)である。この理念は、1970年代末から提唱されていたが、理念と現実に大きなギャップがあり、今ようやく具体的な政策手段として発揮できる状況が整ってきた。 森林の減少というテーマから地域をみたとき、そこで何が起っているのかということは、その地域によってさまざまである。したがって、世界全体の統計やそれらの分析を元にして処方箋や対策を立ててもあまり現実的ではない。何が必要かというのは、まさに現地での現地ごとの状況の把握であろう。重要な点は、現場に行くと学問の在り方自体が問われるということである。熱帯地域にどのような人々が住んでいて、その地域にはどのような森の産物があり、人々はそれをどのように活用し、それによってその地域の生態系や文化がどう成り立っているのか。ある学問で見ることのできる視点は一面的であるが、現状で起きていることは複合的である。生態学、経済学、文化人類学などからの複合的な視点が必要なのである。しかし、現在世界的に発達している学問は分化しすぎている。これでは我々が今直面している環境問題は解決できないのではないだろうか。先住民の権利、参加を見据えた土地の分配システムの再考といったフィールドを基礎にした研究が必要であろう。

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