不思議な読後感の1冊。
面白かったといえば面白かったのだが、何だか妙な感じ。

レフトハンド
著者:中井拓志
発行:角川書店
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←なんとなく映画の『マスク』の色を連想。
舞台は埼玉にある研究所。現在、この施設の1棟が外界から隔離された状態になっている。
何故か。
この中では未知のウィルスが猛威を奮い、人命を着実に奪い続けているのだ。
しかもこのウィルスには空気感染能力があるため、その外界への流出は絶対に回避しなければならない。
このバイオハザードに対し、研究所の所有者である会社、研究所内に隔離されている研究者たち、厚生省と、各自の思惑が交錯し、事態は膠着している。膠着…というより、各自が様子見、日和見的に取り囲んでいる。
そこへ飛び込んでくる火種。
事態は動き始める。
となるのだが、どうも、著者がまじめに書くことに対して照れているような気がするのだ。
はっきりと何かのパロディというわけでもないようだけれど、茶化しきるでもなく、まぜっかえしているところが目立つ。
それが登場人物の色づけということであればそれもありだが、そうにしては、色が一様。
危機一髪のところでも軽口をたたくヒーローはマンガなどにもよくあるから、あれを狙っているのかもしれないと思ってみたりと、読んでいるこちらが、どう読もうか迷っているうちに終わってしまった。
解説では、大笑いした箇所もあったと書いてあったが、私にはそれほどの部分はなかった。
面白いといえば、ウィルスが引き起こす症状は面白い。
これは物語の冒頭で明かされるので、ネタバレということもないと思う。タイトルにもなっているし。
このウィルスに感染すると、左腕が成長し、感染者自身の心臓を引き連れて、体幹から離脱してしまう。
これを「脱皮」と物語の中では呼んでいる。
心臓を抜かれた本体は当然生きていられない。屍累々のなかを心臓をぶら下げた左腕が這い回るのである。
指を足代わりにして。
まじめに想像すればかなり気持ちの悪い光景だと思うが、アダムス・ファミリーのハンド君をどうしても連想してしまって、レフトハンドのタップダンスとか、ラインダンスとかが浮かんでしまった。
私の想像力は、ホラー向きではないらしい。
この作品はS・M夫人おすすめの1冊。
オススメポイントはただ1点。
『エイリアンみたいにかわいそうなのよ。』
とくれば、私としては「それは読まなくては!」な1冊。
多分、エイリアン4だと思う。
シガニー・ウィーバー演じるところのリプリー女史に、宇宙へ放り出されてしまうエイリアンのちび。
あのシーンでは、「おかあちゃん?なんで?なんでや?おかあちゃぁぁぁん!」というちびエイリアンの声なき声を、誰もが聞いたのでは。
『母を訪ねて三千里』のマルコより、リプリーに見捨てられている分だけ、ちびエイリアンのほうが段違いに憐れ。
確かにレフトハンド、かわいそうだった。
マルコ<レフトハンド<ちびエイリアン
こんな感じ。
途中の『カンブリアの夢』のくだりや、ラストはそれなりに印象が残る。
妙な作品なので、ちょっとオススメ。
それきり「レフト」のことは忘れていたら、今週の「伊東家の食卓」にテントとかいう芸人さんが出ていて、両手(というか10本の指)を使った「蜘蛛の決闘」という芸を披露していて、それを見て何故か「レフト」を思い出してしまったのでした。で、こちらを覗いたらまたまた「レフト」の話題…これは読みなさいという神のお導きかなんかでしょうかねぇ~。
忘年会のときにお持ちいたしますわ~。
買わないでおいてくださいねっ。
私は「蜘蛛の決闘」が気になります。どこかで観られないかなぁ。