ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

トルーマン・カポーティ【カメレオンのための音楽】

2008-11-01 | 早川書房
 
ピアノの周りに集まってくる色とりどりのカメレオン。
綺麗なような気持ち悪いような…。

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 カメレオンのための音楽

 著者:トルーマン カポーティ
 訳者:野坂昭如
 発行:早川書房
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遺作ではありませんが、カポーティの最後の方の短篇集。
才能には鞭が伴うと作品を生み出すことの苦しみ(特に『冷血』以降)を語った序文から始まります。
現在の作家の方たちがあまり前面に出る印象がないことと違って、明治の文豪や三島、カポーティなどは作品とともに作家その人を強く感じます。
作品を読んでいても作家の顔やイメージがちらつくというか。
この短篇集に収められた作品は、それを逆手に取られたような、すべてにおいてカポーティその人を思われる人物「TC」を登場させたことで膨らんでいくものでした。

収録作品は14篇。
『カメレオンのための音楽』、『ジョーンズ氏』、『窓辺のランプ』、『モハーベ砂漠』、『もてなし』、『くらくらして』、『手彫りの柩』、『一日の仕事』、『見知らぬ人へ、こんにちは』、『秘密の花園』、『命の綱渡り』、『そしてすべてが廻りきたった』、『うつくしい子供』、『夜の曲り角、あるいはいかにしてシャム双生児はセックスするか』。

表題作『カメレオンのための音楽』は、旅行先で男性が訪ねた優雅な老婦人との会話で進められていく短編。
ピアノの音に引き寄せられたかのように群がるカメレオンの非現実感がふたりの会話にひそむうっすらとした恐怖をあおります。
『手彫りの棺』は連続殺人事件の捜査官と取材を通して彼と知り合った「TC」が登場する実際の事件がベースの作品。
殺人予告に、手彫りの棺に入れた写真を送りつけてくる犯人を追い詰めることはできるのか。

本の後半は「会話によるポートレート」。
ほとんどが会話によって進んでいきます。たまにト書きのように描写が入りますが、簡潔でありながら胸を突くように叙情的です。
収監されている殺人犯へのインタビュー『そしてすべてが廻りきたった』では、穏やかそうな言葉で男から言葉を引き出し、その実じわじわ追い詰めていくTCの冷たい鋭さに息がつまりそう。
本の最後は『夜の曲り角、あるいはいかにしてシャム双生児はセックスするか』でTCとTCの会話。

そのひとつ前は『うつくしい子供』。
うつくしい子供とはマリリン・モンローを評した彼女の恩師の言葉。
その恩師の葬儀に一緒に出席したTCとマリリン・モンローとの数時間を描いたものです。
このモンローのかわいらしいことといったら、もう。
先入観なしに読んだら、この短篇のなかにいるモンローと、モンローとこんなふうに付き合っていたカポーティを好きになることうけあいです。
フィクションかノンフィクションかはどうでもよくなる感じ。
事実と真実は違うものだという狐狸庵先生の言葉を思い出しました。

訳は野坂昭如。
この方の作品を読んだことがないのでその作品の印象と比べることもできませんが、違和感もなく読むことができました。
ただ、読点の多さは、著者によるものか、訳者によるものか…。
どうも訳者のような気もするのですが、こういうとき原文をすらすら読むことができればと思います。
案外、訳者がやったというように辞書と首っ引きで読んでみるのも、この本ならば悪くないかもしれません。
…たぶん、しないと思いますけど。





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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
はじめまして (さーにん)
2008-11-04 17:26:59
ランキングからお邪魔しました。

カポーティは今のところこれ一冊しか読んだことがないのですが、ものすごく味があるなあと思いました。後半の「会話によるポートレート」の諸作品は特に良かったです。
記事をトラックバックさせていただきますね。

返信する
さーにんさま (きし)
2008-11-04 23:20:10
はじめまして、さーにんさん。いらっしゃいませ。コメント、TBありがとうございます。
本ブログのランキングからですか?そんなみえるところにとは驚きです。ボタン貼ったきりなもので…。

「会話によるポートレート」は私も好きでした。
モンロー、かわいいですよね。ハウスキーパーの彼女もとても好きでした。
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