ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

『ゆれる』を観てきました。

2006-10-14 | 観るものにまつわる日々のあれこれ
観たっていっても、先週なのですが…。
『あの橋を渡るまでは兄弟でした』
予告編を観たときから気になっていた作品です。

故郷を出て成功した弟。
残って家を守っていた兄。
母の葬儀のための帰郷で久しぶりに再会した2人は、幼い頃にいった渓谷に幼馴染の女の子と3人で出かけます。
そこには古びたつり橋。
兄と幼馴染は橋の上、弟は川の対岸に。幼馴染は橋から落ちて命を落とします。

兄は何をして、何をしなかったのか。
弟は何を見て、何を見なかったのか。
真実はどこにあるのか。

ゆらゆらとゆれるつり橋の頼りなさは、そのまま兄弟のつながりの危うさ。
気を抜くこともできずに、1時間59分観てきました。

怖かったです。
間違ってもホラーではないのですが、人と人との関係の中にある何気ない言葉や行動が怖い。
「信じている」ことと、「信じていると言う」ことが違うように、後ろにある感情が見え隠れするのが怖いのだと思います。
どこまでが演出でどこからが演技者の力量なのかわかりませんが、見ごたえがありました。

音も印象的。
包丁を使う音が少しずつ時計の音に重なっていくときの、追い詰められるような感じとか、電話のベルの不吉な感じとか。
川なら水音、車なら走行音というように、その場所、場面に自然にある音が聴こえているのですが、ふっと無音になるときがあって、それがとても印象的だったためだと思います。
その静かさがまた怖かったりして。

怖い、怖いと言っていますが、後味が悪いということはありません。
橋はゆれていても、頼りなくても、確かにあって何かを繋いでいるのです。

キャストも見どころ満載。
兄の香川照之さん、弟のオダギリジョーさんははまり役。
弟視点で見ている形の物語ですが、今、弟にとって兄がどんな人間として感じられているかが、はっきりと分かる香川照之さんの演じる兄に息を呑むばかり。弟を見ているより分かるんだからすごい。
演技に思考をすっかり誘導されてしまいました。
誰よりも人が良さそうに見えるかと思えば、底知れぬ不気味さを感じさせる幅の広さはさすが演技派で名を馳せる方と納得。
検察官の木村祐一さんには意表をつかれましたが、存在感がありました。
裁判官は田口トモロヲさん。
法廷のシーンも多いのですが、空間的にはすかすかしているのに、人がいるところにはぎゅっと力が集まって、それぞれが駆け引きをしているような緊張感がありました。

もし、何か観ようかなというときにはぜひ候補に入れていただきたい1作です。
私のところでは上映期間がとても短くて1週間だけでした。
この作品の監督は夏目漱石の『夢十夜』の映画化作品『ユメ十夜』にも1本あるらしいのでそれも楽しみです。



原案・脚本・監督:西川美和
企画:是枝裕和


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1 コメント

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延長 (きし)
2006-10-15 11:00:09
上映期間が延長されていました。

好評なんですね、きっと。
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