ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

北野勇作【かめくん】

2012-08-11 | 河出書房新社
 
かめくん?
かめくんって、なに?
と、気になってしまったので、読まずにいられませんでした。

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 かめくん

 著者:北野勇作
 発行:河出書房新社
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かめくんは甲羅を背負っています。
かめくんは立って歩きます。
かめくんはフォークリフトを運転できます。
かめくんはアパートを借りる契約をすることができます。
かめくんはリンゴやセロリやパンの耳が好きです。
かめくんは図書館が好きです。
かめくんには使われていない記憶があるらしいです。
かめくんはどうやら戦闘要員のようです。終わったとも、継続しているともいわれる戦争の。

「かめくん」という書名につられ、内容にもそのままつりこまれてしまいました。
自分自身を定義するための情報を持たず、現状を受け入れ、手持ちの札だけで生きるかめくんの日常を描くこの作品は、ほのぼのとしています。
ほのぼのとしてはいますが、イメージとしてあれです。
ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』。
(そういえば、著者の『どーなつ』という文庫についていた帯の言葉は「電気熊はアメフラシの夢を見るか?あるいは、想い出という切なくて空しい物語」でした。)

『かめくんは、自分がほんもののカメではないことを知っている。カメに似せて作られたレプリカメ。リンゴが好き。図書館が好き。仕事も見つけた。木星では戦争があるらしい……。第22回日本SF大賞受賞作。』

かめくんは、大家さんに「なんだ、あんた、カメじゃないか」といわれるくらいにカメで、でも、フォークリフトの運転に困らないくらいなのですから、甲羅を背負ったヒトという印象もあるのかも?
ああ、それではカメにした甲斐がありませんから、やっぱりきっとカメらしくカメなのでしょう。たぶん。
かめくんはカメで、でも、機械のカメで、カメそのものではない「レプリカメ」、ましてやヒトではない彼の思索はプログラミングされたものなのか、それとも自由な…?

とてもSFらしいSFです。
木星で戦争をしている(かもしれない)ようなSF。
かめくんが甲羅の内側と外側をめぐり、世界の構造を考えるようなSF。
それなのに、かめくんがお風呂でのぼせてしまうようなSF。

読み終えた後には、どうしたものかと思うようなさびしさが残りました。
かめくんの存在と、この「かめくん」という作品と。
夕暮れに読み終えてしまうと、切なさが増してしまうと思います。
お好みで調節してください。


[読了:2012-08-06]





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