著者は山形県出身。
タイトルの『喋々喃々』は「男女が仲睦まじくしている様子」をいう言葉だそうで、そういうお話といえばそういうお話でした。
喋々喃々
著者:小川糸
発行:ポプラ社
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谷中でアンティークのきものを扱うお店を営んでいる栞さんの一年を描いた物語。
主人公が味わうその周辺での季節の移り変わりが行事や植物、食べ物などを通して描かれていきます。
職業柄、常日頃からきものがユニフォームという主人公さんですから、きもののいろいろが想像できれば、季節感を醸し出す設定としてはダメ押し感があるかも。お月見のときに兎の帯留とかね。
設定や展開としては、若干複雑な家庭環境であるとか、別れた恋人の存在であるとか、ご近所様とのお付き合いとか、年の初めに出会った男性が春一番の来た日に生まれたから「春一郎さん」で、栞さんはその年、春一番の来た日を春一郎さんの誕生日として密かに祝って、そこに春一郎さんがやってきてとか、会ったことのない春一郎さんの娘は小春ちゃんで、奥さんの名前はわからないとか、いかにも感受性の豊かそうな主人公のものおもいとか、いろいろあるわけなのですが、そういったことをぎりぎりと胸に刺さるようであるとか、痛いほどの共感を呼ぶようには描こうとしていないのだろうと思います。
やたらするすると読み進めて、そのまま読み終えてしまいました。
それは、例えば、隅々まで吟味してできあがっているはずのインテリアの雑誌のページから、漠然としたこだわりやすてきねーという印象しか受けない時に似ていたかも。
季節の風物を楽しんだり、ほんとにこんなに時間がとれる日があるなら自営業もいいなぁとか思いながら、なんとなくの雰囲気を楽しむ作品で、いろいろ考えてイライラしたりしながら読むものではないのでしょう。
和泉嬢と話しているときに話題になったので手にした本でしたが、和泉嬢の歯切れがちょっと悪かったのを思い出して、なるほどと納得。
あとから思いだせるのは、やたらと美味しそうで、大好きだったのに閉店してしまった鴨鍋のお店をどうしても連想させられて胃袋がきゅうきゅういってしまいそうだった鳥鍋かな。
大好きだったお店の鍋は、合鴨の切り身とつくね、お野菜はたっぷりの白髪ねぎとえのきと三つ葉だけのあっさりとした鳥鍋で、それを大根おろしとお醤油で食べるのです。おいしかったなぁ。
読みながら、先日、るいちゃんが言っていた「クレソンと鴨のお鍋」を思い出し、ちょっと笑ってしまいました。
全然ぴんと来なかったのですが、映画『失楽園』で主人公たちが食べたメニューなのだそうです。
不倫カップルは鳥の鍋を食べるものなのでしょうかね。
するすると読み終えて、なんだかなぁ、と。
和泉嬢を話していた本だったせいか、なんとなく、栞さんに和泉嬢をだぶらせて読んでいた気もします。お着物、すきだもんね。長女さんだし。