『螺旋』のサンティアーゴ・パハーレスの邦訳2冊めです。
キャンバス
著者:サンティアーゴ・パハーレス
発行:ヴィレッジブックス
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これは、天才画家と、その息子の物語。
天才画家と、その作品の物語。
天才画家と、教え子に天才をもってしまった美術教師の物語。
天才画家と、作品の前に立つ人々の物語。
天才画家と、天才画家であった男の物語。
天才画家と…。
絵画という芸術の深淵に迫るカタイ作品。
…とみせかけて、わかりやすい人間模様に若干のサスペンスをまぶした、なんだかとても読みやすい、キャッチーなおもしろさを持つ作品でした。
沈黙を破って突然作品を売却すると言いだした父親に困惑する息子。
父は、新しい絵画のスタイルを生み出すことのできた稀有な画家であり、その作品は高額で落札され、父の望みどおりの場所に展示されることになります。
それなのに、絵が展示されるやいなや、顔色を失くす父。
父の考えが理解できないまま、それでも父のために動く息子は、画家を志したもののなし得なかったという過去があり、父親に複雑な愛情を抱いています。
偉大な親と子のかけ違えたボタンのような関係に、目指す道の途中で自分とはケタ違いの才能を見せつけられてしまった絶望と羨望。才能がその持ち主に強いる孤独。
そういったものは、芸術をテーマにした作品としてはありがち…と言われればそうかもしれません。
それにオチも最初からわかります。想像がつくように書かれていて、それが合っていることを確かめるために読んでいるような気さえします。
それでもいやにならずに読みきれるのは、やはり物語としてほどの良いおもしろさがあるからだと思います。
わかりやすいというのは共感しやすいということ。
読者を置き去りにすることのない物語です。
『キャンバス』を読んだときにぱせりさんに薦められて、リストにはいれてあるのですが……。
ぱせりさんは作品の良さを伝える達人ですものね。
尻馬に乗るわけではありませんが、『螺旋』、私もおもしろいと思いました。
まさに、螺旋状に物語が収束していく感じの作品で。
機会がありましたらぜひ。