養老先生のヨーロッパ墓地巡り旅行記です。
身体巡礼: ドイツ・オーストリア・チェコ編
著者:養老 孟司
発行:新潮社
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遺体から心臓だけを抜き取って別に安置した王族の霊廟、骸骨が人々を見下ろす礼拝堂、ユダヤ人墓地、目を引くお墓の数々などを巡りながら、著者はその背景となる思想や当時の人々に思いをはせていきます。
著者の抱く思いに至るわけではありませんけれども、単純にこの旅はなぞってみたいと思ってしまいました。
解剖学者である著者が向き合ってきたリアルな死体の数を思うと気が遠くなりそうです。
「memento mori」どころの騒ぎではなく、観念的な「死」と厳然たる物としての「死体」の間で日々を過ごし、常に「死」を思う。忘れる暇さえあらばこそという年月があった上で、著者の年齢になると、こういう旅ができるのでしょうか。
墓地という単純なイメージからくる暗さは皆無で、いっそ軽やかですらあります。
さすが養老先生…と思わずつぶやきながら読んでしまいました。
よく言われるように、死を思うことは生を思うこと。
我が身を振り返ってみると、いかに死を思わず、生を思わずに過ごしていることに気づきます。
明日のあれこれを考えることに何の疑問も持たずにいられること、死を切実なものとして感じることなく毎日を過ごしていられることはとてもありがたいことです。
そして、それはとても怠惰なことともいえるでしょう。
どちらも大事にしていないと言われればそれまで。
でも、死を思考で弄ぶよりはいいはずだ、と思ってしまう私はとことん自分に甘い質です。
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