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カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

旅路その30・これは、王国への鍵

2019-06-20 19:41:14 | 旅人の記録
たかあきは霜月の僻地に辿り着きました。名所は石碑、名物は飴菓子だそうです。

 その年の秋が終わる頃、彼は生涯最後にして最大と称する冒険に一人で出かけ、戻ったら結婚しようという言葉だけを残して二度と帰ってこなかった。勿論私は彼を待つような殊勝な真似はしないで新しく生活を築き直したが、それでも彼が私に遺した謎の石ころには今でも氷砂糖や塩タブレットを袋ごと供えている。
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骨董品に関する物語・十字架付き時計鎖

2019-06-19 20:46:14 | 旅人の記録

 祖父がくれた十字架にあしらわれた髑髏は、時折「まだ死なぬか」と僕に問い掛ける。大抵は人生が上手くいっていない時に囁く髑髏の言葉に僕は決まって「まだだ」と答えて奮闘してきた。やがて年老い病を得た僕が戦いを辞めることに決めて「もうすぐだ」と答えると、髑髏は初めて「そうか」と答えた。そんな髑髏は何故か悲しげで、その時僕は髑髏が僕の死を一度たりとも望んだことがなかったのだと気付いた。
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旅路その29・風の予感

2019-06-19 20:42:37 | 旅人の記録
たかあきは熱月のかつての故郷に辿り着きました。名所は個人の邸宅、名物は野菜料理だそうです。

 両親のいない彼の親代わりだった彼の兄とは一度だけ会ったことがある。お前がこんなお嬢さんを家に連れて来るとはと驚きながら特産の野菜料理を振舞ってくれた彼の兄は、それでも彼がいない時にこっそり、あいつが君に追い付けない程の遠くに行ってしまったら、もう忘れてくれて良いと哀し気に呟いた。
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旅路その28・ジョーンズの名の下に

2019-06-18 19:18:54 | 旅人の記録
たかあきは雨月の学生街に辿り着きました。名所は公園広場、名物は海鮮鍋だそうです。

 旅から戻ると彼は普段通りの無口で引っ込み思案の、新鮮な魚料理が無いと生きていけない大学生に戻って講義と研究レポートに明け暮れる毎日を送る。だが、やがて公園広場で私とのデート中に戦う考古学者の登場する映画の話題が露骨に語られ始めると、その時点で既に次の遺跡訪問先は決まっているのだ。
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旅路その27・砂漠の町の楽しみ方

2019-06-17 18:59:23 | 旅人の記録
たかあきは風月の僻地に辿り着きました。名所は駅、名物は煎餅だそうです。

 とりあえず神殿跡らしき遺跡にうつつを抜かす彼を放っておいて、私は私の興味と胃袋を満足させることに決めた。丁度行われていた駅前のバザールで持ち帰れるだけの装飾品と色鮮やかな布、それに当座の食料を購入した私は木賃宿に戻ってきた彼に羊肉の串焼きと豆のスープ、それに硬いパンを振舞う。
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旅路その26・彼の浪漫と私の現実

2019-06-16 17:33:25 | 旅人の記録
たかあきは晩夏のド辺境に辿り着きました。名所は神殿、名物は砂糖菓子だそうです。

 しつこく暑さの残る季節に何度か汽車とバスを乗り継いで訪れたのは、昔から地元民が古代の神殿跡だと言い張る遺跡だった。旅行の目的地を決めた彼は大喜びだったが、私はこんな観光地とも呼べない僻地で一体何をしているのだろうと思いつつ、汗だくのまま塩を配合したレモン味のキャンディーを舐める。
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骨董品に関する物語・クラウドガラスの花器・その2

2019-06-16 17:15:19 | 突発お題

 父が母の大切にしていた花器を容赦なく砕いた時、私達家族の絆も粉々に砕け散った。だから私は長い間母の持っていた花器と同じものを探し求め、とうとう色違いではあったが見つけることが出来た花器を母に贈り物として渡したのだが、母はこれはもう私ではなく貴女のものなのよと寂しそうに微笑んだ。
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骨董品に関する物語・クラウドガラスの花器・その1

2019-06-16 17:12:50 | 突発お題

 母のお気に入りだった花器は驚くほど花保ちが良く、いつまでも瑞々しい花弁に感心しながら、どうしてこの花器だけお花が綺麗なのと尋ねると、この花器は流れを止めて作ってあるの、だから花器の周りは少しだけ時間が止まっているのよと言われた。今から思うと、あの言葉は何時までも何も変わらずにいて欲しいという母の願望だったのだろう。
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骨董品に関する物語・小さな宝石箱

2019-06-15 16:03:05 | 突発お題

 クリスタルガラス製の蓋が付いた小振りの宝石箱にはたった一つ、見事な青い石が嵌った男性用の指輪だけが入れられていて、母はよく長い時間蓋も空けずにその指輪を見詰めていることがあった。勿論その指輪の元々の持ち主が一体誰であるのか、私は決して母に問い掛けたりはしない。

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骨董品に関する物語・フェーブのついた額

2019-06-15 16:01:02 | 突発お題

 小さい頃、お菓子に入っていた綺麗な薔薇の形をしたお気に入りのフェーブを無くしてしまい、それ以来毎年同じ物が現れないかと額縁で飾った画板に貼り付けてきたのだが、とうとう現れないまま様々なフェーブが額縁一杯になってしまったので、これからどうしようと少し悩んでいる。
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