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カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

「風」「機械」「最弱の存在」ジャンル「アクション」より・エアーマンが(多分)倒せない

2015-03-11 19:31:47 | 三題噺
「よくぞ此処まで辿り着いた。だが四天王であるこの『疾風の……』がはっ!」

 一分後
「よくぞ奴を倒した。しかし奴は我ら四天王の中で最弱、この『旋風の……』ごふっ!」

更に一分後。
「よくぞ四天王を倒した。最も連中は我らの中では単なる前衛に……げうっ!」

「いい加減にしろ」
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「悪魔」「扉」「消えたトイレ」ジャンル「伝記」より・林檎の木で作られた洋服箪笥

2015-03-10 18:41:31 | 三題噺
 ナルニアに続く扉は、ナルニアに行こうと思って開いても洋服箪笥のままだ。
 それなら、いっそ扉を洋服箪笥から厠のものにすげ替えれば、ナルニアの事など考える余裕もないまま用を足そうと開いた扉がナルニアに至る道に繋がる気がするんだが、どうだろう。

 そう問い掛けられた俺は、少し考えてから答えた。
「全世界のナルニア愛読者に土下座して詫びろ」
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「天使」「裏切り」「穏やかな魔法」ジャンル「指定なし」より・飛べない空へ

2015-03-09 18:30:57 | 三題噺
 あの人は私にとって天使そのものだった。遙か高みから優しい言葉と毅然とした態度で励まし、陽の当たる場所へと誘ってくれたあの人に少しでも近付こうと、私は己の背に見えない翼を育み、弱々しいながらも空に浮かんでみた。そして地上から離れたつま先をとても心細く、けれど誇らしい気持ちで見下ろした私は、いずれは自分もあの人のように飛べるようになりたいと願った。
 けれど、あの人は極めて奔放に空を飛び回るのが常で、己の気分次第で言葉も態度も様々に色彩を変えながら容赦なく私を斬り付けた。だから、私は自分が壊れる前にあの人から貰った翼を打ち砕いて地上に戻った。

 己の足で大地を踏みしめる確かさに安らぎながら、私は、時折つま先立ちの格好で二度と手の届かない天を見上げる。
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「桃色」「墓標」「正義の流れ」ジャンル「サイコミステリー」より・僕の水蜜桃

2015-03-08 18:38:29 | 三題噺
 春になると、街を見下ろす小高い斜面は見渡す限りが桃の花で覆われる。桜よりも華やかな色彩で桜のように儚げな風情も持たない強い桃色の花は、まるで生前の彼女そのものだ。
 だから僕は彼女の骸の灰をこの地に撒いた。灰となり土と入り混じった彼女はやがて美事な花を咲かせ、信じがたいほど甘い水蜜桃を実らせるだろう。そして僕は生前には味わえなかった彼女の水蜜桃を思う存分堪能するのだ。
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「天使」「屍」「きわどい脇役」ジャンル「SF」より・死天使

2015-03-07 20:13:42 | 三題噺
 その惑星には当時厄介な奇病が蔓延していて、ある日突然背中に発生したコブが異常増殖して患者を衰弱死させるという。そのコブが鳥の羽に見えるので「天使病」と呼ばれるのだが、そんな事も知らずに惑星に降り立った我がシャトルの乗組員の一人にもコブが発生した。が、ヤツの機械の体はコブを枯死させ、それでようやくコブが寄生体だと判った。

 干涸らびた羽のようなコブを記念に持ち帰ると言って聞かないヤツを説得するのは、乗組員総動員で三日を要した。
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「島」「箱」「バカな可能性」ジャンル「悲恋」より・夢語り

2015-03-06 20:50:38 | 三題噺
 箱庭のような島で生まれ育ち、近所の子供と遊び、喧嘩しながら一緒に大きくなり、恋をして告白して男女の付き合いが始まり、やがて結婚して子供が産まれ、更にその子供が大きくなって孫が産まれ、年老いたのちに大勢の家族に看取られて亡くなる。

 こうやって、自分の人生は穏やかで平凡な日々を重ねていくのだとずっと思っていたが、結局そうはならなかった。
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「北」「フクロウ」「最強の恩返し」ジャンル「サイコミステリー」より・北の梟

2015-03-05 19:01:33 | 三題噺
 大きく潤んだ瞳の持ち主だった彼は、フクロウと呼ばれ苛められていた。
 でも彼は本と自然散策が大好きな優しい子で、私達は良く一緒に遊んでいた。
 そして現在、故郷を離れて暮らしている私の周囲では不自然なほど私に害意を示した相手に災厄が相次ぎ、その度ごとに私の元に無記名でフクロウの絵葉書が届くのだ。
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「東」「目薬」「消えた物語」ジャンル「悲恋」より・あなたが嫌いになったわけではありません

2015-03-04 19:36:36 | 三題噺
 それほど珍しい話ではないが、かつては私も東京に憧れ、ついに上京して暮らし始めた時は有頂天だった。
 やがて街の砂埃を避ける術も知らぬままに目を痛め、病を得て、ようやく自分が東京と言う街の華やかさに恋をしていた事に気付いた。

 けれど、多分それは私が悪いのではなく、そして東京と言う街のせいでもなく、きっと何かの間違いなのだろう。



作者註・今回の元ネタはさだまさしの「殺風景」でした。
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「北」「化石」「見えない遊び」ジャンル「サイコミステリー」より・一億五千年後の天使

2015-03-03 20:41:14 | 三題噺
 北にある僕の山に彼女の骸を埋めた。僕以外は誰も訪れる者のない山奥で、いつしか彼女は堆積した地層の狭間で化石になるのだ。そして彼女を発掘した考古学者は感激のあまり叫ぶだろう。これこそ天使の化石に違いないと。

 それは僕を裏切り他の男と生き腐れていくより遥かに素晴らしい彼女の未来と言える。
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だからオレは途方に暮れる外伝・乙女の祈り

2015-03-03 00:01:01 | だからオレは途方に暮れる
 この犬は、お前の兄さんとあの子を守って怪我したんだ。
 だから、あの子が自分の家に帰れるまでお前にこの犬を預ける。
 二人の事は心配だろうが、お前は此処でお前の役割を果たして欲しい。
「……出来るかい?」
 お爺ちゃんの問いかけに、私は力強くうなずいてみせた。

「はい、ご飯よ」
 エサ皿に持ったドッグフードを置くと、ゴスペルちゃんは犬用ベッドに横たわったまま、それでも元気よく食事を始める。体が大きくて怖い顔をしている割にゴスペルちゃんは大人しく、トイレの始末以外はそれほど手がかからない良い子だ。二人の事を心配していない訳では無いが、こうやって何かの世話をしていると確かに気が紛れるし、それに。

 小さい頃からずっと病院で暮らしていたお兄ちゃんは、わたしが会いに行くといつも笑っていた。だから、わたしはお兄ちゃんが普段どれだけ苦しい思いをしていたのか全然気付くことが出来なかった。だから、ある日たまたまお兄ちゃんが発作を起こして苦しんでいるのに出くわして自分も狂乱状態に陥り、それ以来怖くてお兄ちゃんの見舞いに、と言うよりは病院そのものに行けなくなった。今回、お爺ちゃん達がわたしを病院に連れて行こうとしなかったのもそれが理由だろう。でも。

「ねえ、たしか、あなたの名前は『神様の言葉』って意味なのよね」
 ゴスペルちゃんが嫌がらないように気を付けてその体にブラシを掛けてやりながら、わたしは呟く。
「それなら、お願いだからお兄ちゃん達を助けて……わたしが出来ることだったら何でもするわ、ずっとご飯を作ってあげるし、ブラシだって毎日掛けてあげるから……」

 お兄ちゃんは最近ようやく健康になって友達も出来て、毎日が嬉しそうだった。その友達と行き違いで仲違いしてしまっても『ぜったい仲直りするんだ』って何度も頑張っていた。だからもう、わたしはお兄ちゃんのことを心配したくない。大丈夫だと信じたい。そう信じる事が出来たら、わたしはきっと病院に行けるようになるだろう。そしてずっと昔から誓っていたようにお医者さんになって、お兄ちゃんのような病気の子供を助けるのだ。だから。

「ねえ、お願いだから!」
 あふれ出る涙を抑える事も出来ないまま、わたしはブラシを投げ捨ててゴスペルちゃんの体にしがみつく。その時。
 ゴスペルちゃんの体から『何か』がするりと抜け出してゴスペルちゃんに良く似た、でも明らかにゴスペルちゃんとは違う狼犬の姿になった。
「……あなたは?」
 その狼犬は、呆然と呟くわたしの頬を一舐めすると殆ど一動作で壁に向かって跳躍し、そのまま壁をすり抜けて走り去っていった。思わず抱きしめたゴスペルちゃんをしげしげと見詰めるが、ゴスペルちゃん自身も何が何だか分かっていない様子だった。けれど。

 まるでママのように優しい瞳をしたあの狼犬の正体は分からないけれど、これで二人は帰ってくるのだと、その瞬間にわたしは理解していた。



 外伝・乙女の祈り・終
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