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カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

浄眼と邪眼

2016-09-08 00:20:11 | 色々小説お題ったー(単語)
「赤」「伊達眼鏡」「シュレディンガーの猫」がテーマ

 王立怪物討伐隊には隊長の他にもう一人、普段から滅多にゴーグルを外さない隊員がいる。浄眼と呼ばれる隊長の青い瞳とは違い、邪眼と呼ばれる深紅の輝きを放つ、猫科の獣を思わせる瞳の持ち主は普段恐ろしいほどの無口だが、隊長とだけは何やら話すことが多いらしく、何となく隊員の間で二人は『そういう関係』と認識されていた。
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カウントダウン

2016-09-07 00:22:54 | 色々小説お題ったー(単語)
「文字」「チョコ」「刺」がテーマ

 疲労回復に良いと話題のショコラを取り寄せ、疲れて帰ってきた彼に飲ませたら苦いと文句を言われた。探索の安全と無事な帰還を願って紋章を刺繍したハンカチはそのまま置き去りにされた。そろそろ彼との仲も終わりだろうかと思い始めていたある日、探索中にモンスターに引き裂かれたという彼の訃報を聞いた私は、本当にぎりぎりの処で彼の為に泣くことが出来た。
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誰も見てはならぬ

2016-09-06 00:15:27 | 色々小説お題ったー(単語)
「白」「茶髪」「災い転じて」がテーマ

 かつて紅茶色をしていた彼の髪は、現在見事なまでの銀髪と化している。ある日いつものようにダンジョンに探索に出掛けて、しばらくしたら半死半生の上に銀髪になって戻ってきて以来の姿だ。当然のように一体何があったのかと仲間が尋ねても、ただ「運が良かった」と笑うばかりの彼はその後、只の一度もダンジョンの探索を行わずに暮らしている。
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今はもういない貴女に

2016-09-05 00:20:03 | 色々小説お題ったー(単語)
 彼女は透き通るような白い肌と柔らかな金髪の持ち主で、彼がそれを褒める度に地黒の私は随分と惨めな気持ちになった。けれど彼女は病気の為に陽に当たる事も許されない生活を送っていて、逆に日焼けして駆け回る元気な私を羨ましがっていたと言う。それから私と彼女は仲良しになって一緒に外を散歩しようと約束した。だから私は今も空を見て歩く。私が見ている空の何処かに、彼女の姿を求めて。
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妖蝶の行方

2016-09-02 00:16:42 | 色々小説お題ったー(単語)
「不幸」「ピアス穴」「バタフライエフェクト」がテーマ

 仲間のいない蝶は、せめて動くものの側まで行ってから死のうと飛んでいる途中、虫取り網を持った子供に捕らえられた。子供は蝶の羽の美しさに感嘆の声を上げ、故に蝶は己に与えられた死に満足しながら標本となった。

 だからこの後、この標本を奪い合う人間達によって繰り広げられた凄惨な殺し合いは、蝶による祟りでは断じて無い。
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宵待月のやるせなさ

2016-09-01 00:25:05 | 色々小説お題ったー(単語)
「月」「夕焼け」「腰痛」がテーマ

 お父さんはお仕事だから、暗くなってお月様が出るまでは帰って来られないのよと母さんは言った。だから私はいつも家の庭に立って月が出るのをいつまでも待っていた。月の出ない日や真夜中過ぎに月が姿を現す日は大嫌いだったが、やがて月が出ようが出まいが父はもう家には戻らないのだと知り、待つのを止めた。
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祭の夜

2016-08-31 00:47:10 | 色々小説お題ったー(単語)
「炭酸」「麦茶」「夜」がテーマ

 今年も実習生による精霊使役課題の一環である自家製ビールが完成した。アルコール度数がかなり低いので校長などは「泡の出る麦茶だな」などと文句を言うが、それでも学園祭夜の部に参加して学生達と一緒に飲む。月夜の下、他の実習生が作ったチーズやパンを肴に飲むビールは学生達にとって一生の思い出となるだろう。

※ 蛇足ながら、現代日本では酒税法でアルコール1%以下のビール醸造のみ合法となっています。
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異国の蝶

2016-08-30 00:38:20 | 色々小説お題ったー(単語)
「蝶」「金髪」「刺」がテーマ

 見慣れない技法で見慣れない蝶が描かれた異国の黒い櫛を、自分には似合わないわと寂しげに呟きながらその豊かな金髪に挿してみせるのが彼女の日課だった。豪奢な金色にあしらわれた艶のある黒は充分に彼女の美しさを引き立たせる様に見えるが、それはこの櫛の持つ本来の美しさとは違うのよ、と寂しげに笑うばかりだ。
 その櫛をいつ、どこで手に入れたか、彼女は決して話そうとしない。
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廃墟にて

2016-08-29 00:26:17 | 色々小説お題ったー(単語)
「車」「煙」「笑顔」がテーマ

 石炭を燃料に黒煙を吐きながら動く機関車は、険しい山道をものともせず男達を鉱山に運んで行く。女達は笑顔でそれを見送り、子供達と共にその帰りを待ちながら日々を暮らしていく。鉱脈が尽きて鉱山が閉鎖されるまで、この地にはそんなささやかな営みがあったのだと、錆び付いたレールは無言で物語る。

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夜を彷徨う

2016-08-26 00:11:04 | 色々小説お題ったー(単語)
「深海」「雨傘」「夜は短し」がテーマ

 暗く冷たい海の底を思わせる夜の街を、私は闇と同じ色をした雨傘を差して彷徨い回る。そこに貴方が居ないのも、この世界に私の為に用意された奇跡など存在しないことも充分に承知しつつ、それでも貴方の姿を求めて彷徨う。やがて夜が明け雲の切れ間から日差しが地上を照らして海の底も、貴方も、総ての幻を消し去るまで。
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