最近物忘れが激しくなってきております。
人と話をしていても
「ほら、あれ…、あれよぉ~、あれ。………何じゃっかかのぉ」
といった具合になかなか思いだせません。
たしかにテレビのタレントの名前だったり、おとといの晩御飯のメニューだったりといまいち興味のないことを特に忘れているのですが、やはり年齢のせいでしょうか?……><
この間会社の若い社員の方としゃべっていた時、つい
「昔はのぉ~」
と言ってしまいました。私としてはこの「昔はのぉ~」を言ったらお終いと思っておりました。それをついつい口にしてしまったのです。なんとなく自分の中では「物忘れ」とこの言葉がリンクして
「忘れちゃぁいけんことはメモして忘れんようにせんにゃぁ、いけんのぉ」
今まで自分の仕事の詳しいことを書くことは避けてきましたが、「技術の伝承」ということで Amon がこの印刷業界に入って覚えた「写真製版」の消え行く技術をメモしておこうと思います。
興味がある方のみ読み進んでください。かなりコアな内容になるはずです。
1985年に DTP( DeskTop Publishing )が定義され、数年を経て私たちのもとに来た時には DeskTop Prepress と意味を変えて到着した DTP。
本来の意味は「パソコンで原稿作成・編集・印刷をすべてする」ことでした。文章にすると小難しく見えますが、パソコンで年賀状などを作成して自分家(ち)のプリンタで出されている方は立派に DTP をされていることになります。
しかし私たちの業界での定義は「パソコンで編集・製版をする」になります。この DTP が登場する前はアナログ…ではなくて立派にデジタル化されておりました。「ワークステーション」と呼ばれる数千万~数億円もするコンピュータがずらりと並んだ通称「冷蔵庫」で作業しておりました。
今回のお話はそれ以前の話。
私が最初にこの業界に入ったのは「製版会社」。しかも二人の方が共同出資して設立した小さな会社の最初の従業員でした。
当然「ワークステーション」のような高価なものはなく製版作業は「手作業」で行っていました。
当時大阪では「分業」化されており、写植屋さんやデザイン事務所で「版下」を作成し、製版屋さんで「フィルム」をつくり印刷屋さんに持ち込み印刷物を作る。当然多くの総合印刷屋もたくさんありましたが、私には無縁でした。
その中の「製版屋」さんでの写真製版の工程を紹介します。
印刷の工程では、皆さんがよく見る「カラー」を印刷する場合4つの色を使います。シアン( Cyan )・マゼンタ( Magenta )・イエロー( Yellow )・墨( blacK )を使います。略して CMYK と呼び、それぞれの頭文字をとっています。(黒色だけ最後の K を使用していますが、B・BL・Bk と表しているところもあります。最近では RGB の B( Blue )と被るため B と表現するものはほとんど見なくなりました。)
ここからややこしくなりますが、3色までは横文字で表しているのに「墨」だけが日本語です。すべて日本語で表現される方もいらっしゃいます。「青版・赤版・黄版・墨版」。しかし正確な色の表現でないために私はあまり使用しません。実際にはシアンは「水色」に近く、マゼンタは「紅色」に近い色をしております。私は「シーハン・エムハン・キーハン・スミハン」と言っております。
この CMYK の CMY は色料の三原色と呼ばれている色を基本としています。可視光線領域(人間が確認できる色の範囲)の約半分をカバーしているのが RGB( RGB の基準もいろいろありますが…)。その RGB のさらに約半分強をカバーしているのが CMY です。
ちなみに RGB とは色光の三原色で、Red・Green・Blue の頭文字をとったモノですが、旧型のブラウン管テレビをお持ちの方がいらっしゃれば近づいて見ていただくとよくわかりますが、RGB の縦長の線がひとかたまりで規則正しく並んでいるのが見えると思います。(パソコン用のブラウン管モニタでは解像度が高すぎて見えません。よい子のみんなはテレビ画面に近づいてみる時には、長い時間&動きが激しい映像が流れている時には見ないでくださいね^^;)
下の図で表しているように RGB を加方混色、CMY を減方混色と呼びます。RGB は光で表現されますので、光が強くなればなるほど白に限りなく近づきます。 数値で表すとR=255・G=255・B=255 になり真っ白になります。逆に CMY は色がなくなっていくほど白に近づきます。C=0・M=0・Y=0 の時に真っ白になります(っていうか色が何ものっていない状態です(笑))
RGB がそれぞれの数値が「 0 」の時には真っ黒になります(光がまったくない状態です)ここで問題の部分になります。CMY の数値が「 100 」の時には理論上真っ黒になるはずなのですが、現実のインキではそうはなりません。限りなく黒に近い「グレー」になるのです。しかも印刷する人の腕によって色々に変化します。(例えば、赤味がかった黒・青味がかった黒・黄味がかった黒になったります)そのために印刷では黒を補色として使用するようになったそうです。実際に写真などを表現するときにスミ版が加わると写真に深みが増します。
(また横道にそれますが、金色や銀色・蛍光色などはこの CMYK では表現できません。が、印刷物に金塊や金閣寺が載っている金色を表現したものを見たことがあると思います。この色は「金色」に見えるはずです。それは周りの色のバランス(グラデーションでの表現など)と人間の視覚の錯覚によって「金色」っぽく見えているのだそうです。)
もう一つ印刷で「墨」を使う理由があります。文章などの「読ませる」文字はほとんどが黒になっていると思います。タイトルの文字に比べて細かったり、小さかったりします。印刷では各それぞれの色の「版」をそれぞれのインクで刷り重ねて印刷物を印刷します。その時に「墨」を使わずに印刷すると CMY をそれぞれ同じ場所に寸分の狂いもなく印刷しなければならなくなります。本来そうあるべきなのでしょうが、実際には紙の伸縮や印刷方法によってズレが発生したりします。ズレは印刷物は「不良品」です。そのために「墨」版を使って文字などの細かい文字を一回の刷り込みで終わらせて塗り重ねない方法にしたのだそうです。そのために印刷物は「常識」として本文など文字数が多い文字は黒で表現されているのだそうです。
上の図は色を見ていただくためにつくりました。
ようやく本題に入ります。
まず最初に完成イメージを
下方に黒の罫線が見えますが、紙の端を表現しております。
このような印刷物を作ろうと思います。
デザイン事務所か写植屋さんから版下をいただきます。
ちょっと厚めの方眼紙や版下用の台紙に烏口やロットリングなどでトンボや罫線を描いてあります。文字は写植機で植字され紙版で出力されてモノを版下に貼ってあります。写真部分は原稿を拡大・縮小コピーされたモノが貼ってあります。
トンボ…四方の角に二重の罫線、四方センターに十字の罫線をトンボと呼びます。角にあるのは「角トンボ」十字のモノを「センタートンボ」と呼び、角トンボの外側の罫線は「塗りたし罫」内側の罫線を「断ち(仕上がり)罫」と呼びます。印刷する時に(実際には印刷する版を焼く行程の「刷版」で)このトンボで4版を合わせます。主にセンタートンボは版がズレないように印刷するためのモノで、角トンボは製版(後ほど説明します)と断裁の時に使用します。製品状態のモノにはありません。
この版下にはトレペ(トレーシングペーパー)がかけてあり、そのトレペに「製版指示」が書かれてあります。
この製版指示は専門用語で書かれてあり、それを知らない方が見ると何のことかお分かりにならないと思います。簡単な解説を…
ケイアタリ…アタリケイともいう。実際の印刷物には出てこない罫線で、この罫線に併せて枠を開けたりします。逆に「ケイイキ」は印刷物に表現される罫線のことです。今回この印刷物の指示には「ケイイキ」とだけあり、色の指示がありませんが、こういう場合はスミケイになるのが一般的です。
バック(Y30 M10)など…色指示になります。指示された枠の中のアミ指示になります。アミについてはのちほど説明を…
文字白ヌキ…文字がバックに対して抜けて紙色になります。多くは白い紙に印刷されますので表現も「白ヌキ」となるわけです。ちなみに色の付いた紙に印刷する場合でも製版指示では「白ヌキ」です。昔はこの白ヌキ文字にするバックの色指示には CMYK のどれかが 100%になるように指示されていました。当然濃い色でなければ白い文字は見えないこともありますが、100%(ベタ)があることにより白ヌキの抜け方が鮮明になるからです。しかし現在では印刷技術の向上によりその常識はなくなっています。
ph1 など…写真番号の指示です。この印刷物ぐらいのモノであればコピーを見ただけで判断できますが、写真が多く使ってあったり、似たような写真が並んでいたりする印刷物を作る時には写真の貼り間違えがないように必ず写真番号の指示がしてあります。
白フチ…文字や図版・写真などの周りを白く縁取って見えやすくする指示です。白ヌキと同じ原理で表現しますが、現在の DTP では白フチの太さを好きに指示できますが、アナログの時代にはその太さの指示を見たことがありません。(っていうか思い通りに太さをコントロール出来ません)
今回の指示にはコレくらいしか書いてありませんが、他にも専門用語の指示はたくさんあります。
今回の印刷物には写真原稿3点を使用します。下の図になります。
2点は角版(枠の中に写真をそのまま収める)で1点のみキリヌキになります。キリヌキとは原稿で必要な部分のみ出してそれ以外は隠すという意味になります。基本的には写真原稿にトレペなどをかけて切り抜く形を指示してあるのですが、今回の原稿のようなロゴやマークの時にはあまりそのような指示はありませんでした。が、今回はロゴマークに「影」がありますが、それは取るということを想定します。
この原稿を4色分解する機械を「スキャナ」と言いますが、私がいた会社では精度のある分解は不可能*でしたので、外注します。すると4版に分解されたネガフィルムになって戻ってきます。
*不可能といったのはシビアな…といっても今は当たり前の分解精度ですが、今では各家庭でスキャナさえ持っていれば出来ますよね^^; 大昔は精度の悪い(スキャナがないため職人技で四版を撮影して分解していたのです。私がいた会社でも精度を言わない仕事の時には社長が分解していました)カラー写真の印刷物でした。もっと前はモノクロ写真に色を塗ってカラーに見せていたんだそうです。
ただ、現在はフラットベットのスキャナ(一般的に売っているスキャナ。ガラス台の上に原稿を下にして置き蓋をするとガラスのしたにある走査線(スキャナ)が動いてスキャニングする(線でスキャニングする))が主流になっておりますが、ほんとの精度を問うとドラムスキャナ(ドラムという大きなガラス管に原稿をしっかり固定してセットするとそのドラムが高速回転してガラス管の中をレーザービームがスキャニングする(点でスキャニングする))が現在でも(おそらく)高精度のスキャナなんだと思います。(こちらの現役は退いているので最新の情報を持っておりません)
基本的に最初にすることは「版下」を撮影して「ネガフィルム」にすることです。
撮影用の固定カメラ(製版用のカメラには縦型と横型があり縦型でも 180cm もあり横型にいたっては 2、3m はありました)明室用(通常の蛍光灯の明るさの部屋)フィルムもあったのでしょうが、通常は暗室での作業となります。薄暗い赤灯の灯る部屋で、カメラ下部にあるガラス台に版下をセットして上にあるフィルムセット扉を開きフィルムをセットしてスイッチを入れるとバキュームが作動してフィルムを固定します。扉を閉じてフィルムが撮影位置にセットされ露光を調整して撮影します。一般的なカメラに使うフィルムとはちがい感度はかなり鈍くなっており撮影には 5 秒から 10 秒間露光します。撮影が終わると自動現像機(自現)に入れて現像されます。自現とはフィルムを自動で現像する機械で内部は4つの層に分かれておりフィルムがそれぞれの層を通って現像されます。最初に現像液・定着液・水洗の層(ただの水道水)で乾燥の層です。今はあまり見かけなくなりましたが、昔のテレビドラマなどでカメラマン役の方が暗室で紙版を液体に浸けて写真を現像しているシーンがありましたが、あの行程を自動でする機械です。
で、出てきたものがこれです。
先ほどの版下の状態と比べていただけば分かると思いますが、白と黒の部分が入れ替わっています。これが「ネガ」の状態です。
また横道に逸れますが、フィルムには「マク面」と「ベース面」がありフォルムに焼き付けられるのは全て乳剤が塗ってある「マク面」になります。今はほとんどなくなりましたが、普通のカメラにセットするフィルムにもこのマク面がありレンズに近いほうがマク面になっているはずです。被写体に近いほうがまく面になります。ネガフィルムで撮影すると黒い部分の乳剤が現像液でなくなります。ポジフィルム(ネガの逆)で撮影すると白い部分の乳剤がなくなります。製版作業では必ず版下をネガフィルムにします。(それでしか作業が出来ません)
この版下を撮影したネガフィルムがこれから行なわれる作業のベースになります。説明しやすいように [1] と呼びます。
まずピン穴を開けて、出来上がりには必要ない部分を赤テープなどで隠し「ピンホール」をします。
ピン穴とは作業を進めていくときに全ての材料が同じ位置で作業が出来るようにする基準の穴で「ピン」と呼ばれる道具にこの穴で固定して使用するためのものです。角ピンと丸ピンがあり、私が働いた会社の全てで「角ピン」が使用されていました。
赤テープとはセロハンテープが赤い色になっていると思っていただいて間違いないと思います。
ピンホールとは本来ピンで開けたような「小さな穴」を意味します。が、製版では版下についた目に見えないゴミとかが撮影されたものを隠す行為を「ピンホール」といいます。ようはこのネガ状態の時に白く抜けている必要ない部分を「赤」など(紫外線を通さない色)で隠していきます。
次に材料を用意します。
ルミナー 13 枚(透明なビニールフィルム)
赤ベース 3 枚(ルミナーに超薄い赤いフィルムが貼り付けてあるフィルム)
をそれぞれ基本となる版下を撮影したネガと同じ大きさにカットしてピン穴を開け準備します。
基本的な考えとして [1] で白く抜けている部分以外で絵柄や色が付く部分を赤ベースで作っていきます。
もう一つ、最終的に絵柄&色が「上」にくるモノから作ります。そうする理由は後から説明します。
[1] をピンにセットしてその上に赤ベースを一枚セットし、カッターナイフ(カッター)で赤い部分のフィルムのみを必要な部分を切っていきます。ちょうど薄皮一枚切る感じです。カッターの刃は常に鋭く保つために作業前に折っておきます。カッターの刃は出来るだけ平面に対して 5 ~ 10°の角度にして優しく切っていきます。(鉛筆やペンのように持つと刃が深く入ってしまい、透明な部分も切ってしまうから)
で、できたものが下の図の [2]・[3]・[4] です。
一部そうでないものがあります。[2] の3ヶ所切ってある部分の右下。[4] の下側に赤い部分が残っている部分。それは [1] が基準ではなく違うモノを基準にしていますが、後ほど説明を…(こんなのが多いな^^;;)
この赤ベースを切って出来た状態のモノを「マスク」といい、必要な部分が出ている状態にします。このときに絵柄&色が隣り合っているモノはマスクを別にしなければなりません。たまに例外もありますが、基本的には隣り合っている部分を分けながら材料を出来るだけ少なくするように材料を用意する段階で全て考えて完成予想図が頭の中に描けた時から作業に入ります。(初心者の頃はそうではありませんでしたが…^^;)
後、作業がしやすいようにマスクの赤い部分に版下に書いてある指示を書き写しておきます。作業が非常にやりやすくなります。
っと、ここで文字がオーバーフローしてしまいました。
つづく