インドネシアはバス網が発達している。人口が多い上、車を持つ人も少なく、鉄道はジャワ島にわずかにあるだけだから、多くの人がバスで移動する。乗客が多ければ、路線も本数も必然的に多くなる。スマトラ島からジャワ島、バリ島を通過してロンボク島に行くことだってできる。ジャワ島からバリ島、ロンボク島を通過してスンバワ島に行くこともできる。当然、2日2晩、3日とかかり、乗客はバスの中で眠り、途中の休憩で食事をする。
※上の写真は、スマトラ島パダンからジャワ島ジャカルタへ行く途中
特に大きくて近代的なバスターミナル
小さな売店でお茶を飲んだり軽い食事ができるようになっている
(2008年)
特に大きくて近代的なバスターミナル
小さな売店でお茶を飲んだり軽い食事ができるようになっている
(2008年)
以前、スラウェシ島で、クンダリという東の端にある町からランテパオという島中央部にある町まで、およそ24時間バスに乗ったことがある。
バスには、クルーが3、4人乗り込み、途中で交代できるようになっていた。クルーは、車掌として切符を切ったり、荷物の積み下ろしをしたりする。
スラウェシ島のバス(2008年)
スラウェシ島はジャワ島と比べるとうんと「未開」の地で、道路も悪い。長距離バスといっても日本の長距離バスとは全く違って、シートは日本の40年前の市バスみたいな感じ、つまりペラペラで、それどころかあちこち破れて中のスポンジが飛び出し放題になっていたり、半分壊れかかって傾いていたりする。シートベルトなんて、どこを探したって、あるわけがない。
乗客は、さすがに立っている人はいないが、2人席に3人座ったり、通路にぎゅうぎゅうに積み上げた荷物の上に無理な姿勢で座ったりし、しかも冷房がなく、小さな窓からほとんど風は入らない、という過酷なものである。
インドネシアの旅行者激減を防ぐために念のため言っておくと、これはそのとき乗ったバスの話である。すべての長距離バスには当てはまらない。
スラウェシ島のバス(2008年)
乗客は、めったにしない長旅、このチャンスを逃してなるものかと親戚へのおみやげを持っていくのか、あるいは商売に行くのか、それとも引っ越しでもするのか、思いっきりたくさんの荷物を持っている。バスの屋根の上にも、ダンボールやらへなへなの旅行かばんやらが載せられ、ロープでぐるぐる固定されている。しかも、そのとき私が乗ったバスは乗客の手荷物だけでなく宅配便や貨物も積んでいて、車掌はあちこちの町でバスの屋根の上に積んだ荷物を降ろすことに忙しかった。
こんなふうにバスの話を始めるとどんどん長くなるので、とりあえず今言いたいことの結論を述べると、そのときの運転手、連続21時間運転したのだ!
21時間って、つまり徹夜ですよ。たとえば朝の9時から翌朝6時までということです。
もちろん途中でトイレや食事の休憩はあるけれど。
バスに積み込まれる米とにんにく(2008年)
私はこのとき、前から2番目に座って運転手を見ていた。
最初2時間ぐらい経ったころ、そろそろ休憩しなくていいのかしらと思った。疲れた神経でハンドルを握ってもらって、事故でも起こされたら困る。
しかしずっとずっと運転は止まることなく、5、6時間でやっと休憩。
そもそも、休憩が少なすぎないか? 日本の高速バスなら1時間半か2時間で休憩になる。自動車学校でだって1時間ごとに休憩するように教えている。なのにインドネシアでは3時間ぐらいのこともあるけど、6時間とか7時間休憩がないこともあるのだ。
道交法とか労働基準法とかないのか?
で、休憩がきて、ああ、ここで運転手交代するのね、と思ったらまた同じ人が運転席に乗ってくる。
大丈夫? 疲れないの?と心配になる。
海辺の山岳地帯、右には標高3000m級の険しい山が迫り、左を見下ろすと断崖絶壁のはるか下に青い海。日本でいえば足摺岬のスケールをでっかくしたような感じで、ヘアピンカーブが続いている。道は、もちろん細くて、路肩崩れそう……。
ついでに言えば、後ろの親子は吐いている……。
「インドネシアでバス転落。日本人観光客1名死亡か」という新聞の見出しが何度も何度も目に浮かぶ。
シートベルト、シートベルト、シートベルトはないの……?
しかしこの崖から転落したらシートベルトがあっても無理、と妙な論理で自分を納得させるしかない。
そしてやっと休憩。8時間も経てば、今日の仕事は終わりですよね? 残業しないよね? と思ったら、え、またさっきの運転手?
ハンドルをしっかり握り、目をらんらんと輝かせてビュンビュン飛ばしている。というより寝てなくてハイになっている?
どうやら、一度マイク握ったら放さない酔っ払いと同様、一度ハンドルを握ったら放さないタイプのよう。いくらあんたが運転したくても、乗客の安全のためにやめてほしいんだけど。
ハンドルを握る時間が、法や規則によって定められているのではなく、運転手のタイプと気分によって決まってしまうところが、恐ろしや、インドネシア!である。
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