薩摩の国

友人と連れ立って、鹿児島へ旅行したときのことです。
種子島へ行くために、当時の西鹿児島駅前からバスに乗って、港を目指しました。
バス内にある路線図を見ていたら、赤信号停車時に運転手さんが声を掛けてくれました。大きな荷物を抱えていたので、旅行者だとすぐに分かったのでしょう。
「どこへ行くんですか?」
「種子島行きのジェットフォイル乗り場まで…」
「ああ、このバスは観光港に行きませんよ。このバスが行くのは工業港ですよ」
あら困った。どう乗り換えたら良いのかしら。ぼくらはちょっと困ってしまいました。
するとバスの運転手さんは、他に乗客がいないことを確認して、
「じゃあ、近くまで行ってあげますよ。少し歩きますけどね」
えっ?
何のことやら分からないぼくら。
バスは何と路線を外れ、観光港方向へと走り出したのです。
いやはや、びっくりしました。バスは、観光港近くでぼくらを降ろしてくれました。
あっけにとられたまま、運賃を払って、運転手さんにお礼を言って降りましたけど、バスの行き先表示はそのとき「回送」になっていました。
ぼくらをあとにしたバスは、走りながらその表示を元の行き先に戻していました…。
つまりその運転手さんは、ぼくらのためにわざわざ観光港近くまで行ってくれた訳です。
こんなこと、東京ではまずあり得ません。
薩摩隼人は、強くたくましく、無駄なお喋りをしないそうです。ひ弱だったりお喋りなのを嫌うと聞きました。それでいて弱った人や困った人に対してはとても優しい。それもまた薩摩隼人の特徴、とも聞いています。
あのバスの運転手さんは、まさに薩摩隼人だったのでしょう。今でも、とっても感謝しています。あのとき、ちょっとお礼しか言えなかったのが心残りです。
おかげでぼくらは種子島行きの船にも無事に乗ることができ、楽しい旅行ができました。
これに限らず薩摩の皆さんは、旅行者であるぼくらを暖かく迎えてくれました。
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