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風の向こうに  

前半・子供時代を思い出して、ファンタジィー童話を書いています。
後半・日本が危ないと知り、やれることがあればと・・・。

風の向こうに(第三部)六小編 其の拾七

2010-04-28 23:21:33 | 大人の童話

六小としばらく懐かしい昔話をした夢は、いったん六小と別れて、資料室に行くため

来校者用の昇降口から校舎の中へ入っていきました。校舎内は、夢がいた頃と

さほど変わっていません。変わった所といえば、耐震補強がされたこと、児童数の

減少で空き教室があることぐらいでしょうか。そうそう、給食当番の時に、扉を

開け閉めして動かした給食用エレベーターは、まだあるのかどうか確認

できませんでした。夢は副校長先生に、資料室のある三階に案内されました。

階段も、おどり場の掲示板も当時のままでした。階段の壁に付けられた手すりは

変わっていましたが。資料室前の廊下で、夢は、遠くに見える廊下の突き当たりを、

眼を凝らしてじっと見つめました。そう、4年生の時にいじめにあって、一人泣いて

いたつらい思い出の場所です。先生の声に、はっと我にかえった夢は、先生の後に

ついて室の中に入りました。入ると、夢はまっ先に、「開校の頃」と題されたボードに

貼ってある写真の方へ歩み寄りました。そこには、夢が子どもの頃実際に見た

校舎と時計台・開校記念に全校で描いた人文字を撮った、六小上空からの

航空写真・四小校庭で行われたお別れ会など、懐かしい写真が何枚か飾って

ありました。その他には、当時、来校者用昇降口に飾ってあった『第六小学校

完成予想図』・開校記念品として児童ももらった手拭い等、夢にとっては、思い出の

深いものが多く展示されています。あ、そうそう、夢の頃よりちょっと小さくなって

がっかりした校門、「校名表札」とともに当時の門柱の写真も展示されていました。

 

 

 

 

 

 

 


風の向こうに(第三部)六小編 其の拾六

2010-04-26 21:57:52 | 大人の童話

少しして、六小は改めて言いました。

「おかえり、夢ちゃん。会えてうれしい。」

夢も言いました。

「ただいま、六小さん。わたしも。」

「どうしてた?」

「うん、いろいろあった。」

「そっか、わたしも。でも、会えて本当によかった。うれしい。」

そして次の瞬間、六小は、今まで大きく輝いていた光を小さくして、下を向いて

ちょっと寂しそうに夢にたずねました。

「わたし、変わっちゃったでしょ?」

夢が、「そんなことないよ。」というように微笑みながら答えます。

「うん。でも、六小さんは六小さんでしょ。」

その言葉を聞いた六小はうれしかったのか、いったん小さくした光を、また

パァーッと大きくして、

「本当?本当にそう思ってくれる?」

と、何回も夢に訊いてきました。

「うん、本当よ。」

六小は、ほっとしたように言いました。

「ああ、よかった。夢ちゃんに、そう言ってもらえて。本当は、昔のまんまの姿で

会いたかったんだけどさ。」

「いいよ、もう。いろいろあったんでしょ。」

「う・ん。」

「六小さんが、こうして元気でいてくれるだけでいい。」

夢は、昔のままで会えなかった、と落ち込む六小を元気づけようと、笑顔で六小に

言いました。

「クスン・・・・・ありがとう。」

六小も、夢に言われて少し元気になったようです。最後は、笑顔になりました。

夢と六小の話は、いつまでもつきません。

 


風の向こうに(第三部)六小編 其の拾五

2010-04-25 15:00:56 | 大人の童話

「何しに来たの?今頃。会いに来てねって言ったでしょ。夢ちゃんも、会いに

来るって言ってたのに。今頃になって、やっと会いに来るなんて。36年もたってから

来るなんて。今まで何やってたのよ。」

六小は、夢が急に来て驚いたのとうれしいのとで、頭が混乱していました。本当は

すごくうれしいのに、夢に向かって半分怒ったような顔になっています。それだけ、

夢が会いに来てくれるのを、首をながくして待っていたのです。夢は微笑みながら

六小に優しく言いました。

「待たせてごめんね。」

「も・う、夢ちゃんのバカ!いつまで待たせんのよ。わたし、ずっと・・・ずっと・・・

待ってたんだから、も・・・う。・・・・ウッ・・・・ウッ。」

いつのまにか、六小は泣き声になっています。夢が、クスッと笑って言いました。

「フフッ・・・六小さんたら、あの時から泣き虫だね。」

「だって・・・・だって・・・・いいじゃないの。ウワ~~ン・・・・・」

と、突然六小が言いました。

「夢ちゃん、にらめっこしよう。夢ちゃんが勝ったら、わたしに会いに来るのが

こんなに遅くなったこと、許してあげる。」

「え、また。」

「うん。」

六小は、にっと笑いました。夢は思い出していました。卒業まであと二ヶ月という

あの日、六小に「卒業文集に四小さんのことを書いていい?」と聞いた時、

「にらめっこで、夢ちゃんが勝ったら許してあげる。」と言われたことを。夢は

答えました。

「よし、いいよ。負けないから、っていうか、負けてもいいけど。」

「何よ、それ。」

「ウフフフ・・・・・アハハハ・・・・・」

二人は、いっしょになって笑いだしてしまいました。

「あ~あ、にらめっこする前に笑っちゃったね。」

六小が笑いながら言います。

「うん、そうね。」

夢が返します。

「まっ、いいか。」

「うん、まっ、いいんじゃない。」

「何、それ。」

「ウフフフ、アハハハ・・・・・」

二人は、またいっしょに笑っていました。

 


風の向こうに(第三部)六小編 其の拾四

2010-04-24 15:09:03 | 大人の童話

やがて、学校に着きました。六小は開校して41年たち、そうとう貫禄がついて

いました。夢は、その貫禄のすごさに、年月の長さを感じていました。自分の

中では、ついこの間、卒業したように感じるのに、実際の年月はなんと長くたって

いるのでしょう。周りの地域だけでなく、六小自身も変わった所が幾つかありました。

まず、夢が大好きだった時計台です。時計盤がなくなり、そこにかわりに校章を

描いた旗がかけてありました。校舎の色も塗り替えたのか、開校時の

ベージュ色から白色になっています。が、一番大きく変わっていた所は

なんといっても、あの、校舎と校庭の坂になっている境です。夢のいた頃、坂の

境には植木が植わっているだけでしたが、今は、そこにフェンスが張られて

いました。おそらく、あぶないということで張られたのでしょう。夢の頃から、境の

坂をすべりおりて遊んでいた子がいましたから。さらに、メインは体育館と

増築校舎です。夢は、当時、小山のあった場所に建つ体育館を見て、『ああ、今の

子はめぐまれているな。わたしも体育館でいろいろやってみたかったな。』と、

ちょっぴりジェラシーを感じていました。そうそう、あの日、「立派ぁー。」と眼を

みはったあの大きな校門、これだけは少し小さくなっていて、正直、夢はちょっと

がっかりしてしまいました。と、こんなふうに夢が思いをめぐらしていると、突然

大きな光で周囲が包まれ、

「キャー、夢ちゃん、夢ちゃん、夢ちゃん!」

と、あの騒々しい声が聞こえてきました。

「あー、まただ。やっぱり昔のまんまだなぁ、六小さんは。」

夢は、六小があいかわらずなのを知ってうれしくなるのでした。


風の向こうに(第三部)六小編 其の拾参

2010-04-24 12:16:56 | 大人の童話

平成十八年秋に、創立四十周年を記念して、六小に校歴資料室ができました。

翌十九年秋、夢は「資料室を見せてほしい。」と学校に電話しました。学校は心よく

承諾してくれ、卒業して三十六年ぶりに、夢は六小に会いに行くことになったのです。

六小へ行くには駅から歩いて行くか、四小へ行く時と同じ「戸久野団地」行きの

バスに乗り、「団地西友前」で降りて歩いて行きます。夢の子ども時代には、団地へ

行く途中のバス停「神山」で降りて歩いて行きました。今は、団地に行く途中の

バス路線が変わったので、バス停「神山」はありません。夢は、 

『六小さん、どうしているだろう。急に行ったら、びっくりするだろうな。会ったら、

昔みたいにキャーキャー言って喜んでくれるかな。あれ?でも、わたし、はたして

六小さんとまだお話できるんだろうか。』

などと思いながら、五年間通った懐かしい道を歩いていました。道の周りの様子は、

夢が子どもの頃とはだいぶ違っていました。周りにはほとんど家が建ち、遠くの方に

ちらほらと見えていた林はその影もなく、畑は、ほんのもうしわけのように少ししか

残っていませんでした。当時、団地と畑の境目からよく見えていた六小、同じ

場所から今はもう、学校を望むことはできません。六小の周りの変わりようを

目の当たりにして、夢はただただ驚いていました。